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[2008年6月26日(VOL.41 NO.26)p.61]

特別企画

バイエル CVRM シンポジウム in 東京
Bayer Symposium on Cardiovascular Risk Management, 2008

さらに重要性を増す心血管リスクの多角的管理戦略

竹下 彰 氏
竹下 彰

 Bayer Symposium on Cardiovascular Risk Managementは毎年,脳・心血管イベントリスク因子の多角的管理をテーマとしてきた。本年3月の会合では,血圧管理に関して琉球大学の植田真一郎氏,血糖管理を巡り東京慈恵会医科大学の蔵田英明氏,抗血小板療法を国立病院機構九州医療センターの岡田靖氏,脂質異常症について大阪大学の森下竜一氏が講演,400名の聴衆と質疑を交わした。
 そのなかで,食生活の欧米化により日本人のコレステロール摂取量は増加,血清コレステロール値も年々上昇して現在では米国人と同レベルになっていること,日本での糖尿病の激増は,自動車保有台数や脂肪摂取量の増加に伴い生じていることなどが明らかにされた。日本人は生活習慣欧米化の過程を完了し,"病的生活習慣","心血管リスクとなる生活習慣"に陥っているのかもしれない。
 同時に,高血圧,糖尿病,脳卒中,脂質異常症などは個別に対処していても心筋梗塞や脳梗塞はなかなか減少しない点が報告された。ここからは,アテローム血栓性脳梗塞や冠動脈疾患,末梢動脈疾患などをアテローム硬化性疾患として包括的にとらえる視点も提起され,"リスク因子の多角的管理"の重要性があらためて浮き彫りとなった。

総合座長:
竹下 彰 氏 九州大学名誉教授

総合座長コメント
 高齢化の進展と生活習慣の欧米化により,日本でも高血圧,糖尿病,脂質異常症,肥満,喫煙などのリスク因子を併せ持つ患者が増加している。これに伴い,例えば糖尿病の専門医が血圧に注意を払うといった光景も普通のものとなった。血圧だけ,血糖だけの治療では,脳・心血管イベントの予防につながらないことが明白になってきたからであろう。
 本シンポジウムでは,かねてからCardiovascular Risk Managementの視点で勉強を重ねてきた。そのキーワードは"リスク因子の多角的管理"である。本日は,高血圧,糖尿病,脳卒中,脂質異常症について,日本を代表する先生のご講演を伺うが,多角的管理の実際について,明日からの臨床にすぐに役立つお話を期待したい。


Session I

血圧管理

高血圧臨床試験の読み方;
試験デザイン,診断基準,治療レベルに注目

植田 真一郎 氏 小室 一成 氏
植田 真一郎 小室 一成
演者:
植田 真一郎 氏 琉球大学大学院薬物作用制御学教授
座長:
小室 一成 氏 千葉大学大学院循環病態医科学教授

 最近,降圧薬に関する国内の大規模臨床試験成績が相次いで報告されている。しかし,これらから得られた結論は時に明確でなく,種々の議論が生じている。琉球大学大学院薬物作用制御学教授の植田真一郎氏は,内外の試験成績を読み解きつつ日本での臨床試験の課題を探った。

現代の比較試験は解釈が難しい

 臨床試験は仮説が明確で,研究デザインが実地臨床に即した適切なものであれば,解釈はやさしい。初期の高血圧臨床試験VA study(1967)やVA2(1970)がそれで,わずか73例対70例,186例対194例の比較で心血管イベントに著しい差が出たため,利尿薬による降圧の意義が証明された。その後の新規降圧薬の登場と臨床試験成績を踏まえ,現在の高血圧ガイドラインでは,脳・心血管疾患の発症・進展阻止には「厳格な降圧」が最も重要である点を強調する。
 一方で試験の関心は,β遮断薬,Ca拮抗薬,ACE阻害薬,ARBなどのクラス間比較あるいは薬剤間の比較に移行した。ただし,どの降圧薬もある程度血圧を下げるため,イベント発生率に差は出にくくなった。植田氏は,現代の比較試験の解釈が難しくなった背景をこう説明した。

二重盲検法とPROBE法,その長所と短所を見極める

 そのうえで同氏は,臨床試験成績を読み解く視点を示した。1つは試験デザインで,おもなものとして二重盲検法とPROBE*法がある。日本では二重盲検法は実施しにくく,CASE-JやJATOS, JIKEI HEART Studyなど多くがPROBE法を採用している。PROBE法は実地臨床に近く,治療方針の比較に向く。イベント判定は割り付け内容を知らない委員会が行うが,主治医はこれを知っているため主観の排除が難しい。JIKEI HEART Studyに関して Staessenが指摘した「reporting eventsにおけるバイアスを除去できないのではないか」という点である。

*prospective, randomized, open-labeled, blinded-endpoint

 これに対して二重盲検法は,観察バイアスが少なく単剤同士の比較に適している。半面,実地臨床から乖離し,同意取得や患者コンプライアンス維持が難しく,費用も増大しがちである。このように,試験デザインにはそれぞれ長所と短所があり,検証できることも異なる。植田氏は「試験を解釈するときには,この点を見極めることが大事だ」と語った。
 また試験法としては,実薬対実薬,実薬対プラセボという選択がある。薬剤の実力を見るには,二重盲検法による実薬とプラセボの比較が理想的で,同氏はその優れたデザインの1例としてACTIONを挙げた。
 この試験は,循環器医による十分な治療を受けている安定狭心症患者を対象に1日1回型ニフェジピン製剤(ニフェジピンGITS,本邦未承認)とプラセボを二重盲検法で比べたもの。一次エンドポイントに差はなかったものの,ニフェジピン群でCa拮抗薬では初の心不全新規発症抑制が認められ,さらに高血圧合併例では脳卒中や狭心症悪化が抑制された。つまり,1日1回型ニフェジピン製剤の「厳格な降圧作用」による効果と,「降圧によらない」効果が確認されたと言える。
 また,この試験はエンドポイントの診断基準が厳格で,結果の信頼性が高い。例えばALLHATでは,息切れなどの症状と浮腫などの他覚所見があれば心不全とされたが,ACTIONでは「入院と抗心不全治療による改善」が基準となった()。

"On top of best practice"が試験の倫理性を担保

 もう1つ,臨床試験の倫理性を担保する重要な視点として植田氏は,"on top of best practice"の概念を示した()。対象が専門医による最善の治療を受けていることを基本として,薬剤追加による上乗せ効果を比較するのである。例えば冠動脈疾患患者を対象としたACTIONとHOPEを比較すると,前者では80%にβ遮断薬,68%に抗高脂血症薬が用いられたが,後者では40%と29%だった。実施時期に3年ほど差があるが,ACTIONを基準にするとHOPEはon top of best practiceではないことになる。
 最近のPEACE,CAMELOTなどでは8割に抗高脂血症薬が投与されており,その時点での"最善の治療"が尽くされている。そのため試験薬間の差は出にくくなり,ここにも最近の臨床試験の難しさがあるという。

今後,求められる低リスク高血圧への介入試験

 こうした点を踏まえ,最後に日本での臨床試験の課題に触れた。日本でのエビデンス構築に関連して常に問題となるのは,心血管疾患,特に心筋梗塞発症率の低さである。そのため,有意差を出すには膨大な参加者を要する。同時に,多数の危険因子への介入が必要となるため,倫理面を含めプロトコール作成が難しい。さらに,二重盲検試験の実施が困難だという事情もある。
 植田氏は,「この壁を超えるには,これまでの臨床試験で何を学び,何が得られなかったかを整理する必要がある」とした。今後,行うべき試験としては,(1)国際的にもエビデンスが未確立の低リスク高血圧患者を対象とした介入試験,(2)高リスク高血圧(冠動脈疾患,脳卒中の既往)における多因子介入があり,さらに(3)ランダム化比較試験以外の試験デザインの考案も求められるという。


Session II

血糖管理

ますます重要性が高まる食後高血糖の管理

蔵田 英明 氏 小田原 雅人 氏
蔵田 英明 小田原 雅人
演者:
蔵田 英明 氏 東京慈恵会医科大学内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌内科准教授
座長:
小田原 雅人 氏 東京医科大学内科学第三講座教授

 食後高血糖は空腹時高血糖に先駆けて出現し,心血管イベントの強い危険因子となる。東京慈恵会医科大学内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科准教授の蔵田英明氏は,IDF (International Diabetes Federation)の「食後血糖値の管理に関するガイドライン」を踏まえ食後高血糖の危険性,食後血糖管理の意義,治療の実際を解説した。

心血管イベント抑制には食後高血糖管理が不可欠

 同氏はまず,過去の大規模臨床試験を振り返り,糖尿病治療戦略の変遷を明らかにした。1993~98年に実施されたDCCT,Kumamoto study,UKPDS33などでは,細小血管障害の予防がエンドポイントに置かれた。そしてインスリン,SU薬,ビグアナイド薬でHbA1cを厳格にコントロールすれば,リスクを軽減できることが証明された。しかしFinnish study(98)では,糖尿病患者は心筋梗塞既往例と同程度の心筋梗塞発症リスクを有することが判明。UKPDS35 (2000)ではさらに,HbA1cを低下させても大血管障害の発症は細小血管障害ほど減少しないことがわかった。
 大血管障害に関して,いったい何が問題なのか。この点で注目されるようになったのが,食後血糖値である。1999年のDECODEや舟形町研究で,耐糖能異常(IGT)が心血管リスクを高めることが報告された。STOP-NIDDM(02)やMeRIA7(04)では,α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)アカルボースによる食後高血糖の是正が,心血管イベントを抑制することが立証された。以来,糖尿病患者の心血管イベント抑制のため,食後高血糖を是正する必要性が広く認識されるようになった。

糖尿病の早期発見にはOGTT 2 時間値の測定を

 では,食後高血糖を見逃さないためにはどうすればいいのか。日本人は欧米人に比べてインスリン分泌能が低く,多数の症例がインスリン分泌不全によりIGTを経由して糖尿病を発症すると考えられている。
 IGTと糖尿病の境界は,経口糖負荷試験(OGTT)2 時間値200mg/dLである。これに相当する空腹時血糖値は,糖尿病の診断基準である126 mg/dLよりずっと低く,100 mg/dL前後であることが疫学研究から報告されている。また,糖尿病と診断されていない急性心筋梗塞患者にOGTTを施行した(退院時,退院3か月後)ところ,半数以上に糖代謝異常が見られた。蔵田氏はこうした知見から「境界型糖尿病を見逃さないためには,空腹時血糖値でなくOGTT 2 時間値の測定が必要」と強調した。

食後血糖管理ガイドラインで推奨されるα-GI

図1 図2

 続いて同氏は,2007年に報告されたIDFの「食後血糖値の管理に関するガイドライン」に基づいて,食後高血糖の危険性や治療に言及した。
 このガイドラインは,「食後高血糖は有害か」,「その治療は有益か」,「食後血糖値の管理にはどんな治療法が有効か」,「その目標値,評価法は?」の4つの問いで構成される。これに対する世界中のエビデンスを,[1++]から[4]までの8段階のレベルに分類,集約したものである。
 第一の問いに対しては,エビデンスステートメントとして「食後および負荷後高血糖は,大血管障害の独立した危険因子 [1+]」と明記する。第二の問いには,(1)「食後血糖値を標的とする薬剤による治療は,血管イベントを減少させる[1−]」,(2)「食後と空腹時血糖値の両方を標的とすることは,最適な血糖管理を達成するうえで重要な戦略である[2+]」とのエビデンスステートメントを掲げる。
 (1)の根拠となったのが,先に触れたSTOP-NIDDMであり,アカルボースを用いた7つの無作為二重盲検プラセボ対照試験をメタ解析したMeRIA7である。MeRIA7では,アカルボース投与で食後2時間血糖値やHbA1cが著明に低下,心筋梗塞と心血管イベントが64%と35%の有意な相対リスク軽減を示した(図 1)。
 (2)については,Woerleらが血糖コントロール不良の糖尿病患者に3か月の強化療法を実施し,HbA1cに対する空腹時血糖値と食後血糖値の寄与度を比較した成績が引用された。その結果,例えばHbA1cが6.2%未満では食後血糖値の寄与度が90%を超えていた(図 2)。良好な血糖コントロールを目指すには空腹時血糖値より,食後血糖値の管理が重要である点が明確になったわけである。
 これを踏まえて第三の問いに対しては,(1)「糖負荷指数の低い食事は食後血糖値の管理に有益[1+]」,(2)「いくつかの薬剤は選択的に食後血糖値を低下させる[1++]」とする。いくつかの薬剤とはα-GI,グリニド薬,インスリン製剤などだが,「これはあくまで食後血糖を低下させるエビデンスであり,心血管イベント抑制に関してはアカルボース以外は明確でない」と蔵田氏は述べた。
 最後に第四の問いには,「食後2時間血糖値は140mg/dLを超えてはならない」との目標値を掲げる。ただし,そのエビデンスレベルが[4]の評価であることには留意したいと,同氏は語っている。


Session III

抗血小板療法

脳卒中診療の新しい流れ;
多角管理がアスピリンの効果を高める

岡田 靖 氏 山口 武典 氏
岡田 靖 山口 武典
演者:
岡田 靖 氏 国立病院機構九州医療センター統括診療部長
座長:
山口 武典 氏 国立循環器病センター名誉総長

 脳卒中の危険因子は従来,何よりも高血圧と考えられてきた。しかし近年,それに加えて糖尿病,脂質異常,肥満,喫煙など複数の危険因子を持つ患者が増加している。国立病院機構九州医療センター統括診療部長の岡田靖氏は,一過性脳虚血発作(TIA),非心原性脳梗塞の急性期治療や再発予防には複数の危険因子に対する多角管理が必須で,それが抗血小板療法の効果を高めるとした。

脳梗塞と同様の警戒を要するTIA

 岡田氏は講演の冒頭,久山町研究を引用し,脂質異常症,耐糖能異常,肥満などの危険因子を持つ患者が増えていることを示した。また,日本における脳梗塞急性期の実態調査J-MUSIC(Japan Multicenter Stroke Investigators' Collaboration)から,急性期の病型としてアテローム血栓性脳梗塞の割合が高まっていると述べた。そして不安定狭心症,心筋梗塞(MI),脳梗塞/TIA,末梢動脈疾患(PAD),間歇性跛行,心血管死など,動脈硬化巣の破綻から始まる症候性動脈血栓性疾患をアテローム血栓症と総称し,全身血管病として治療方針を見直す動きがあることを紹介した。
 特にTIAは,軽症の脳梗塞ととらえられがちだが,実は非常に高リスクであることがわかってきた。高度狭窄合併例では1週間で8.5%,3 か月で20%が完成型脳梗塞を発症する。逆に,完成型脳梗塞の発症前にTIAが見られた例を調べると,その半数はTIA出現後48時間以内に発症していた。したがって,この48時間に診断を終え治療に着手することが基本となる。不安定狭心症をMIに匹敵する重症の急性冠症候群ととらえ,迅速に対応するのと同じ考え方である。
 TIAのなかでも,数時間前の初回発作,TIA頻発,心原性TIA,心房細動(AF)・頸動脈高度狭窄の合併,長い症状持続時間,大脳皮質症状といった症例は,即日入院させるべきだという。また,ABCDスコアが高い例も同様である。ABCDスコアとは,Age(年齢),Blood pressure(来院時血圧),Clinical feature(神経症候),Duration(症状持続時間)の各項目をスコア化し,その合計でリスクを層別する方法で,6点以上の場合,1週間以内の脳梗塞発症率が3割に及ぶという。
 米国脳卒中協会のガイドラインには,こうした時間軸に沿った初期治療のほか,危険因子の多角管理の必要性が示されている。目標値は血圧140/90mmHg,空腹時血糖126mg/dL,LDL-C 100mg/dLで,禁煙の徹底も重要とされている。

アスピリンは脳梗塞急性期,慢性期再発予防に明確なエビデンス

表1 表2

 急性期の多角管理の軸となるのは,抗血小板療法である。そのエビデンスとしては,中国で行われたCAST(Chinese Acute Stroke Trial),国際共同試験IST(Inter-national Stroke Trial)の計約40,000例において,発症48時間以内にアスピリン投与を開始し,2~4週間の投与で脳梗塞再発,それによる死亡,全死亡が有意に減少したとの複合解析結果がある。この成績に基づいて,アスピリンは急性期の抗血小板薬として唯一,日米欧のガイドラインに第一選択として記載されている(表 1)。
 慢性期の再発予防として,心原性脳梗塞には一般的に抗凝固療法が行われる。他方,非心原性脳梗塞には抗血小板療法が推奨される。なかでもアスピリンは,脳血管疾患のみならず,MIや狭心症など心血管疾患の二次予防にも有効であることが多くのエビデンスで示されており,患者の全身管理に適した薬剤だと言える。
 脳梗塞,MI,PADのいずれかを有するアテローム血栓症患者20,000例を36か月間観察したCAPRIE (Clopidogrel versus Aspirin in Patients at Risk of Ischemic Events)試験では,クロピドグレルがアスピリンに比べ脳・心血管疾患発症の相対リスクを8.7%低下させた。ただし疾患別の解析では,両群の差はPADで特に大きく,脳卒中やMIでは明らかな差が認められなかったという。また,Bergerらの2008年のメタ解析では,脳卒中に対するアスピリンのNNT(number needed to treat)は,スタチンやACE阻害薬に比べて優れていることが示された。こうした結果から岡田氏は,慢性期の抗血小板療法には薬価が安く,多くのエビデンスを有するアスピリンがベースになる,との見解を示した。
 続いて同氏は,脳・心血管疾患の予防には血圧,血糖,血清脂質の管理がすべて重要であることをUKPDS,PROactive,SPARCLEの結果から示した。Albersらはこれらに加え禁煙,減量,抗血小板療法の予防効果を示し,脳血管障害予防における多角管理の重要性を指摘している。
 これを受けて岡田氏は,非心原性脳梗塞とTIAの急性期および再発予防の考え方を「ベースはアスピリンだが,抗血小板療法のみに頼らず,アテローム血栓症に対する多角治療に注目すべき。特に高血圧,糖尿病,脂質異常,禁煙を含む生活習慣改善が重要である」とまとめた(表 2)。そして「こうした多角管理が,結果的には抗血小板薬の効果をいっそう高めることになるのではないか」と述べ,講演を結んだ。


Session IV

特別講演

脂質異常症のUnmet Needsを満たすコレステロール吸収阻害の新戦略

森下 竜一 氏 竹下 彰 氏
森下 竜一 竹下 彰
演者:
森下 竜一 氏 大阪大学大学院臨床遺伝子治療学教授
座長:
竹下 彰 氏 九州大学名誉教授

 血清LDLコレステロール(LDL-C)値を下げることにより脳・心血管イベントの発症が抑制されることは,よく知られている。現在,LDL-C低下療法はスタチンを中心とした合成系の抑制が主流であるが,脳・心血管イベントの抑制効果は30%にとどまっており,いまだunmet needsが存在する。加えて,食習慣の欧米化により日本人においてもコレステロール摂取量は増加している。
 こうした状況下,新たに登場したのが,小腸コレステロールトランスポーター阻害剤エゼチミブである。エゼチミブは単独でLDL-Cを約20%低下させるだけでなく,酸化コレステロールの吸収も抑える。大阪大学大学院臨床遺伝子治療学教授の森下竜一氏は,エゼチミブによる吸収阻害の臨床的意義を明らかにし,「スタチンとの使い分けあるいは併用によって,より合理的で効率的な脂質低下療法が可能になるだろう」と指摘した。

"今,そこにある危機"

 日本人の血清コレステロール値は年々上昇しており,現在ではほぼ米国人と同レベルになっている。これは,食生活の欧米化に起因するコレステロール摂取量の増加とも深く関連している。
 かつて長寿県と言われた沖縄の平均寿命が,全国平均より低下した。この"沖縄クライシス"は,ハンバーガーに象徴される食習慣の欧米化が沖縄では本土より20年先行した点に起因しており,今後,全国で沖縄と同様の状況が再現される可能性が高い。森下氏はこうした現状を"今,そこにある危機"と呼び,コレステロール対策の必要性を訴えた。

コレステロールの吸収亢進が脳・心血管イベントと関連

図1

 LDL-C低下療法は現在,スタチンによるコレステロール合成の抑制が主流である。スタチンは初回投与量で確実なLDL-C低下をもたらすが,用量の倍増による増強効果は約6%程度であることが明らかにされている。さらに,その脳・心血管イベントの抑制効果は,いまだ十分と言えるレベルではない。
 同氏は,その理由をコレステロールの供給源から説明した。すなわち,血中コレステロールの供給源には肝臓における合成と小腸での吸収の2つの経路がある。したがって,スタチンで合成系を抑えても,吸収系によるコレステロール供給は残ることになり,十分な効果が得られないわけである。
 また,合成系を抑制すると,生体反応として代償的に小腸におけるコレステロール吸収が亢進することも報告されており,スタチンの効果が相殺されていることが考えられる。さらにコレステロール吸収の亢進は,脳・心血管イベントの発症に関係することがDEBATE studyなどのプロスペクティブ研究で明らかになり,にわかに吸収系の制御に注目が集まるようになった(図 1)。

LDL-C低下療法におけるunmet needsを満たすエゼチミブ

図2

 そうしたなか登場したのが小腸コレステロールトランスポーター阻害剤エゼチミブである。エゼチミブはNiemann-Pick C1 Like1(NPC1L1)蛋白に作用することで,コレステロールの吸収を選択的に阻害する。国内の臨床試験では,10mg/日単独投与でLDL-Cを18%低下させるだけでなく,中性脂肪を下げ,HDL-Cを上げるなど,血清脂質全般に好ましい影響を与える成績が得られている(図 2)。加えて,超悪玉とされるsmall, dense LDLも著明に低下させ,コレステロールの質的な改善効果も期待できる。また,スタチンにエゼチミブを追加することでLDL-Cはさらに約25%低下し,スタチン単独増量に比べ効率的なLDL-C低下効果が得られるのみならず,血清脂質全般に好ましい影響が認められる。
 さらに,エゼチミブは食品の調理や保存によって生成する酸化(劣化)コレステロールの吸収をも阻害する。こうした食事由来の酸化コレステロールは LDLの酸化を早め,動脈硬化を促進することが明らかにされている。エゼチミブはコレステロールのみならず,その酸化物の吸収をも阻害することで,体内に入る酸化ストレスを抑える。森下氏は「ここにもエゼチミブの大きな意義がある」と強調した。
 このように,LDL-C低下療法では,合成系だけでなく吸収制御の臨床的意義が大きい。とりわけ,コレステロール摂取量が増加している現代日本人の高コレステロール血症患者では重要な位置付けになる。特に,糖尿病,肥満合併例,冠動脈疾患の既往例など,コレステロール吸収が亢進している病態では,エゼチミブの効果が期待されるという。
 さらに同氏は,メタボリックシンドローム合併例におけるエゼチミブの血管内皮機能やインスリン抵抗性に及ぼす好ましい影響を紹介。「脂質異常症の治療ではLDL-Cだけでなく,代謝異常全般の治療が求められており,エゼチミブはメタボバスターとして大きな武器になる可能性がある」と締めくくった。

本ページはバイエル薬品株式会社の提供です

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