特別企画
Lecture & Discussion in New Orleans
脳梗塞急性期治療の現状とアスピリンの位置付けを問う
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脳梗塞急性期の組織プラスミノゲンアクチベータ(t-PA)静注療法は,1996年に米国で臨床導入されたのを皮切りに,今や世界40か国以上で実施されている。2005年10月には日本でも承認されたが,脳梗塞急性期治療全体に占めるt-PA使用例数はまだ少なく,その普及が課題となっている。また,米国では脳梗塞急性期の抗血小板療法にアスピリンが重用されているが,日本ではアスピリンがエビデンスに基づいて活用されていない臨床実態も見受けられる。
こうした情勢を踏まえ,米国ルイジアナ州ニューオーリンズで行われた国際脳卒中会議(ISC)2008の会期中に,Lecture & Discussion「脳梗塞急性期治療の現状とアスピリンの位置付けを問う」を開催した。米国心臓協会(AHA)/米国脳卒中学会(ASA)の『成人脳梗塞急性期管理ガイドライン』執筆に携わったPatrick D. Lyden氏を招き,基調講演に続いて日本の脳卒中専門家5氏との討議に応じていただいた。
- 出席者(順不同)
- 松本 昌泰 氏(司会) 広島大学大学院脳神経内科学 教授
- 木村 和美 氏 川崎医科大学脳卒中医学 教授
- 北川 一夫 氏 大阪大学大学院神経内科学 准教授
- Patrick D. Lyden 氏 米国・カリフォルニア州立大学サンディエゴ校神経内科学 教授
- 卜部 貴夫 氏 順天堂大学脳神経内科 先任准教授
- 郡山 達男 氏 広島大学大学院脳神経内科学 准教授
Lecture
脳梗塞患者に対するアスピリン投与の早期開始と継続の重要性
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| Patrick D. Lyden 氏 |
- Patrick D. Lyden 氏 米国・カリフォルニア州立大学サンディエゴ校神経内科学 教授
t-PAの適否は個々の患者の重症度や年齢を吟味して判断
脳梗塞急性期の治療は,t-PA(アルテプラーゼ)静注療法の登場によって大きな前進を遂げた。米国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)は,脳梗塞急性期患者に対するt-PA投与の効果をNIHSS(米国立衛生研究所の脳卒中スケール)スコアで評価し,プラセボ群と比べて明らかに予後改善をもたらすことを認めている(N Engl J Med 333: 1581, 1995)。しかし,t-PAの適否は厳格に判定する必要があり,個々の患者の重症度や年齢を十分考慮しなければならない。特に最重症患者や高齢患者への投与は予後不良を来しやすい。
われわれはNINDSデータを重症度別に解析し,NIHSSスコア<10,10~14,15~20,>20のいずれの患者もt-PA療法のベネフィットを得ることを確認した。またBarberらは,t-PAを用いなかった軽症例および急速な改善例の転帰を追跡し,32%が死亡するか退院時に後遺症を負っている実態を明らかにした(Neurology 56: 1015, 2001)。昨今,軽症例に対するt-PA投与の是非も問われているが,軽症を理由にt-PAの対象から除外するのは適切でないと考える。一方,われわれはNINDSデータの年齢別解析を通じ,NIHSSスコア>20の高齢患者に対するt-PA療法のベネフィットが小さいことを見出している。
すべての脳梗塞急性期患者にアスピリン投与を考慮すべき
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| 表1 | 表2 |
こうしたなか,脳梗塞急性期の抗血小板療法では従来アスピリンが活用されている。その位置付けは,t-PAの臨床導入前
と後でまったく違いはない。t-PA使用例へのアスピリン投与は24時間経過後に開始する。私は,すべての脳梗塞急性期患者にアスピリンを投与すべきと考えている(表 1)。
脳梗塞急性期における抗血小板薬アスピリンの効用は,1997年に発表されたInternational Stroke Trial(IST)の成績などから明らかである。ISTでは,脳梗塞急性期患者1万9,435例に対するアスピリン300mg/日とヘパリンの有用性が検討された。対象の内訳を見ると,発症後25~48時間の治療開始例が34%と最も多く,次いで13~24時間(29%),7~12時間(21%)の順に多かった。超急性期の発症後0~3時間に治療を始めたのは4%のみで,4~6時間も12%と少なかった。
検討の結果,14日以内の脳梗塞再発はアスピリン群とヘパリン群で,各非投与群と比べて有意に少ないことが示された。アスピリン群では死亡または非致死性脳梗塞の再発も非投与群より有意に少なかったが,ヘパリン群では脳出血が非投与群より有意に多かった。
心房細動(Af)の有無別に14日以内の脳梗塞再発予防のベネフィットを総合的に解析すると,Af合併例ではアスピリン群とヘパリン群の間に有意差は認められなかった(表 2)。一方,非Af合併例ではアスピリン群の総合ベネフィットが,ヘパリン群と比べて有意に優れていた。ただ,アスピリン群の患者1,000例当たり9イベントの予防効果を「低い」と見る向きもあるが,多くの患者が発症から治療開始までに時間を要したことも加味して評価すべきである。リスクをほとんど懸念することなく脳梗塞再発を予防しうる,アスピリンの臨床的ベネフィットは大きいと言える。しかもアスピリンは,投与の簡便性,経済性にも優れている。
脳梗塞の急性期から慢性期を通じてアスピリン投与を継続
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| 図 |
こうしたアスピリンの有用性は,脳梗塞慢性期の再発予防においても評価されている。その位置付けは,AHA/ASAの『脳卒中予防ガイドライン』や米国胸部疾患学会(ACCP)の『脳梗塞に対する抗血栓療法・血栓溶解療法ガイドライン』に同様に示されている。
ACCPは,非心原性脳梗塞例または一過性脳虚血発作(TIA)例には通常,禁忌例を除いて抗血小板療法を行うことを推奨している。抗血小板薬の選択,用量設定に際しては「脳卒中再発リスクと治療のリスク・ベネフィット,コストのバランスを取る必要がある」と指摘。初期治療には「アスピリン50~325mg/日,アスピリン25mg/日+徐放性ジピリダモール200mg/日,またはクロピドグレル75mg/日の投与がふさわしい」と記載している。
なお,アスピリンと徐放性ジピリダモールの合剤に関しては「アスピリンやクロピドグレルの単剤よりも効果が高いかもしれない」との見方を示している。しかしAntithrombotic Trialists' Collaborationのメタアナリシスによると,高リスク例へのアスピリン75mg/日未満投与は,有意な血管イベント抑制効果を発揮しなかった(BMJ 324: 71, 2002)。したがって,アスピリンを25mgしか含まない合剤の優位性には疑問が残る。
ちなみに私は,脳梗塞再発予防の対象患者には原則としてアスピリン単独療法を行う。すでにアスピリンと徐放性ジピリダモールの合剤が投与されている例にはアスピリン81mg/日を追加し,経過観察を経てアスピリン単独療法に切り替えている。
私が強調したいのは,すべての脳梗塞/TIA例に対して可能な限り早期からアスピリンを投与すること,退院後も再発予防を目的に投与を続けることである。実際,Coullらの臨床研究で急性脳梗塞/TIA入院患者は,退院後7日以内に再発することが多いと示されている(図)。私は,すべての臨床家にアスピリン投与の早期開始と継続の重要性を伝えたいと考えている。
Discussion
脳梗塞急性期におけるt-PA 療法と抗血小板療法の課題は?
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| 松本 昌泰 氏 |
- 松本 昌泰 氏 司会:広島大学大学院脳神経内科学 教授
臨床歴最長の米国においても t-PA使用頻度は低いのが現状
松本 Lyden先生,ありがとうございました。日本は3年前にt-PA静注療法を導入したところですが,米国におけるt-PAの使用頻度は現在どのくらいでしょうか。
Lyden 全米で2~4%,われわれの地元サンディエゴ市では20%程度です。脳梗塞の発症後3時間以内に治療を始められるケースは3分の1にすぎず,t-PA使用例はまだまだ少ないと言えます。
松本 木村先生の施設では,脳卒中の初期評価指標「倉敷プレホスピタル脳卒中スケール(KPSS)*」を用いて成果を上げておられますね。
*Cerebrovasc Dis 25: 189, 2008
木村 人口47万人の倉敷市には脳卒中基幹病院が2か所あり,脳梗塞急性期患者の約10%にt-PA療法を行っています。各センターと救急車はホットライン(緊急用直通回線)で結ばれています。
Lyden 実に素晴らしい。救急隊員がKPSSで評価し,いずれかのセンターに搬送する態勢を敷かれているわけですね。サンディエゴ市の救急車は脳卒中センターの有無を問わず,最寄りの医療施設に直行しているのが実情ですから,救急態勢を再構築する必要に迫られています。
松本 t-PA療法を行うなかで直面している問題について,Lyden先生に尋ねたいことはありますか。
木村 現在日本で提起されている問題の1つとしてt-PA投与に伴う大動脈解離の悪化が挙げられますが,米国ではいかがでしょうか。
Lyden 発症状況はわかりませんが,私自身も経験したことがあります。患者の胸痛の有無を注意深く観察する必要がありますが,主訴として確認できない例も少なくありません。大動脈解離の合併には常に留意し,血圧測定などにも努めなければなりませんね。
北川 私はt-PAの作用機序に興味があります。脳梗塞急性期の治療では再灌流を図ることが最重要ですが,t-PAは微小循環にも作用していると思います。実際,t-PAによる再開通率はさほど高くないのですが,微小循環の改善によって患者の病状が好転しているように感じています。
Lyden 同感です。動脈の再開通と微小循環を分けて考える必要がありそうですね。ただ,再灌流の研究は難しくあまり行われていません。われわれは微小循環に関する検討を試みましたが,結論は得られませんでした。
卜部 内頸動脈閉塞の場合は,再開通が困難であったり重症化が懸念されたりします。Lyden先生の経験をお聞かせいただけませんか。
Lyden 確かに部分的な血餅はt-PAで除去されますが,再開通は難しいですね。残念ながら私の施設では,t-PA静注前に血管造影検査を行っていないため,内頸動脈閉塞の有無を事前に確認できないのが実情です。
松本 t-PAの適応を見極める際,年齢やタイミングも考慮されますか。
Lyden 75歳以上でも実施可能ですが,私の経験では85歳を超えると出血リスクが高まるようです。t-PA静注を始めるタイミングのカットオフ値はなく,最近報告されたプール解析の結果を見ると,4時間以内に限られることがうかがえます。ただし重症度が高いほど,早期開始が望ましいことは明らかです。
アスピリン療法時は投与量・服薬状況・併用薬に注意する
松本 では,脳梗塞急性期の抗血小板療法について質疑はありますか。
郡山 米国におけるアスピリンの単剤と徐放性ジピリダモールとの合剤の使用頻度はどれくらいですか。
Lyden あいにく詳細なデータを持ち合わせていません。ただ先ほど述べたように,われわれの施設では合剤投与例はアスピリン単独投与に切り替えることにしています。
卜部 日本ではアスピリンのほか,ジピリダモールと同じホスホジエステラーゼ(PDE)阻害薬であるシロスタゾールなども用いられています。Lyden先生は,アスピリンと他薬をどう区別されていますか。
Lyden PDE阻害薬は,頭痛を来しやすく忍容性がよくありません。あくまでも第一選択はアスピリンで,ジピリダモールやクロピドグレルは第二選択と考えています。
松本 アスピリンとクロピドグレルの併用は考慮されますか。
Lyden 臨床試験で両薬の併用効果が認められたケースがある半面,出血イベントの発生が増大することも報告されています。このため,今のところステント留置例などを除いて,私の施設では急性期患者にも併用療法を行っていません。
北川 アスピリン投与中の患者が再梗塞を起こした場合,他の抗血栓薬を上乗せしたり切り替えたりすることはありますか。
Lyden アスピリン投与例で脳梗塞が再発した場合は,その原因の究明が先決です。投与量や服用状況が適正であったか,イブプロフェンなどの非ステロイド抗炎症薬を併用していなかったかを確認します。そのうえで効果が十分でないと判明すれば,アスピリン81mg/日を追加投与します。それでも効果が不十分であれば,325~650mg/日まで増量します。
郡山 t-PA療法や抗血栓療法の際,MRIのT2*(T2-star)強調画像に認められる微小出血(microbleeds)をどう評価されますか。
Lyden 微小出血が見られる患者では,t-PA使用により出血リスクが高まるとする報告がある一方で,特別なリスクはないとする報告もあります。微小出血が及ぼす影響は不明ですが,われわれは微小出血を有する患者にも,有効性が実証された治療をためらわずに行っています。
松本 明確なエビデンスがなくても,抗血栓療法を行うのですか。
Lyden はい。微小出血が見られても,必要と判断すればアスピリンを投与します。なお,t-PAを使用して5例が回復しましたが,1例は大出血を来しました。
松本 Lyden先生に伺いたいことは尽きませんが,閉会の時間になりました。日本の脳梗塞急性期治療の最適化,さらなる前進に向けて,本日のレクチャーと質疑応答を参考にしたいと思います。ご出席くださった先生方,ありがとうございました。
















