特別企画
第23回日本脳神経血管内治療学会総会ランチョンセミナー
頸動脈狭窄症治療の最前線
合併症ゼロを目指したCASとbest medical treatment
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| 滝 和郎 氏 | 吉村 紳一 氏 |
頸部頸動脈狭窄症は脳血流量の低下,さらには脳梗塞を来しうる疾患であり,狭窄度,プラークの性状,症候の有無などを評価し,薬物療法や外科的治療を施す必要がある。外科的治療の標準法は頸動脈内膜剥離術(CEA)であるが,このほど血管内治療,すなわち頸動脈用自己拡張型ステントと塞栓防止フィルターを用いた頸動脈ステント留置術(CAS)が保険適用を受け,今後はCAS施行例数が増加すると予想されている。こうした動向を捉え,第23回日本脳神経血管内治療学会総会においてランチョンセミナー「頸動脈狭窄症治療の最前線―合併症ゼロを目指したCASとbest medical treatment」が企画された。三重大学大学院脳神経外科学教授の滝和郎氏が座長を務め,岐阜大学大学院脳神経外科学准教授の吉村紳一氏がCASの成績向上に不可欠な要点を解説した。
- (座長)
- 滝 和郎 氏 三重大学大学院脳神経外科学教授
- (演者)
- 吉村 紳一 氏 岐阜大学大学院脳神経外科学准教授
今後は頸動脈狭窄症例に対するCAS施行が大幅に増える模様
まず吉村氏は,頸動脈狭窄症に対するCEAとCASの有効性を裏付けるエビデンスを整理した。
CEAの有効性は1991年,NASCET試験の中間解析で初めて確認された。一過性脳虚血発作(TIA)または120日以内に軽度脳卒中を起こした頸動脈高度狭窄症例を2年間追跡した結果,CEA施行群で同側脳卒中,脳卒中または死亡の発生率が薬物療法群と比べて有意に少なかった。またACAS試験(1995)では,無症候性の頸動脈高度狭窄症例を5年間追跡し,CEA施行群で同側脳卒中の発生率が薬物療法群と比べて有意に少ないことが示された。
一方CASに関しては,SAPPHIRE試験(2004)でCEAに対する非劣性が証明された。対象はCEA高リスクの頸動脈狭窄症例(症候性:狭窄率50%以上/無症候性:同80%以上),一次エンドポイントは術後1年以内の重大な心血管イベント(30日以内の死亡,脳卒中,心筋梗塞,31日~1年以内の死亡,同側脳卒中)とした。CASでは,自己拡張型ステントと塞栓防止フィルターを用いた。その結果,一次エンドポイントの発生率はCAS施行群で低かった(12.2%)が,CEA施行群(20.1%)との間に有意差は見られなかった。
しかし,後に報告された症候性頸動脈狭窄症例を対象とした,EVA-3S試験(2006)やSPACE試験(同)では,CEA施行群の成績のほうがCAS施行群より良好であった。
これらの試験成績を踏まえ,同氏は「CASはエビデンスが確立しているCEAより優れているとは言えないが,これまでの知見はアジア人を対象としたものではない。黄色人の場合,頸動脈分岐部がやや高位にあるためCEAは容易ではない。頭蓋内狭窄の合併が多く,CEAの術者が少ない臨床状況も鑑みると,日本でのCAS施行は保険適用を機に大幅に増えるに違いない」と展望した。
病変部の状態を評価したうえで最適なプロテクション法を選ぶ
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| 表 |
では,CASでより良い成績を挙げるにはどうしたらよいか。吉村氏は,(1)プロテクション法の選択,(2)術前診断と適応決定,(3)過灌流回避の工夫,(4)抗血栓療法をはじめとする薬物療法の活用―を要点として挙げ,自身の経験を交えて概説した。
プロテクション法は,CAS施行時に好発する遠位塞栓を予防するため,内頸動脈の遠位部または近位部で遊離血栓などのデブリス(残屑)を捕捉する仕掛けである。遠位プロテクション法には,内頸動脈遠位部に誘導したバルーンによるデブリス吸引法と,フィルターによる回収法がある。近位プロテクション法では,内頸動脈近位部をバルーンで遮断し,陰圧をかけて逆行性血流を生じさせながらデブリスを回収する。
このうち日本で保険適用を受けた塞栓防止フィルターは操作性に優れ,血流を遮断しないため内頸動脈閉塞による虚血例にも有効である。ただ,フィルター自体が血栓症を起こす可能性があり,デブリスの回収能は他法に劣る。
同氏は「今後フィルター法が主流になるだろうが,屈曲病変や,内頸動脈起始部に高度狭窄と血栓付着が疑われるような場合は,他の方法も考慮する必要がある。特に病変部の貫通(lesion cross)にリスクを伴う例には,近位プロテクション法の選択が望ましい」と述べた(表)。
狭窄度とプラーク性状を精査しCAS施行の適否を決定すべき
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| 図1 | 図2 |
最近では頸動脈狭窄症の治療法の決定に際し,プラークの術前診断も重視されている。従来の頸動脈エコー,CT,CTアンギオグラフィ(CTA)に加え,MRI Black Blood(BB)法やIB(後方散乱)エコー,Virtual Histologyも活用され始めている。
例えば全周性石灰化病変を認める場合は,CASを施行しても拡張不良が予測される。また,頸動脈IBエコーを用いた山田清文氏(岐阜大学脳神経外科)らの検討では,症候性頸動脈狭窄症群でプラークのIB値が無症候性の群と比べて有意に低く,不安定プラークを含む例が多いことが判明した(図 1)。しかしながら,無症候群の中にも低IB値例が見出され,症候性に転じる可能性がうかがえた。こうした症例は,CAS施行中にプラークが破裂する恐れがあり,CASは不向きと考えられる。
さらに頸動脈エコー検査で高輝度(安定プラーク)と診断されても,ソフトプラークが存在することは少なくなく,CAS適応と即断できない。Drosteらは,高輝度の頸動脈狭窄症例にCEAを施したところ,33%がソフトプラークであったと報告している(Neurol Res 19: 380, 1997)。最近では,CTA検査で描出されない病変をVirtual Histology血管内超音波(VH-IVUS)検査で発見しうる。吉村氏は,CAS施行予定例にVH-IVUS検査を行ったところ多数の壊死性コアが見つかり,急きょCEA施行に変更して難を免れた体験を紹介した。
同氏は「CASは万能ではない。CTやMRI,エコー検査などを駆使し,狭窄度とプラーク性状を慎重に診断して治療法を決めなければならない。軽・中等度狭窄例の安定プラークは薬物療法が,高度狭窄例の非常に柔らかい,または石灰化したプラークはCEAが適応となるだろう」と見解を示した(図 2)。
過灌流症候群の予防につながる術式の工夫が急務となっている
CASで好成績を得るには,過灌流の回避も課題となる。CAS施行後に頭痛や痙攣,一過性の脳神経症候,頭蓋内出血といった過灌流症候群が生じる頻度は1%前後と低いが,出血合併症を来した場合の死亡率は50%と高い。脳循環予備能の低下や高度狭窄がリスク因子と考えられているが,同症候群に対しては治療の決め手を欠くのが現状である。
このため過灌流症候群の高リスク例に対し,浅側頭動脈と中大脳動脈のバイパス術(STA-MCA吻合術),STA-MCA吻合術後のCASまたはCEA施行など,過灌流の回避を目指した治療が試みられている。吉村氏らは,小さめのバルーンを用いて経皮的血管形成術(PTA)を施し,後日にCASまたはCEAを行う段階的血管形成術(staged angioplasty)を考案。少数例の検討ながら,CAS単独施行と比べて過灌流症候群の発症が少ないことを確認した。同氏は「今後も検討を続け,2回の手術に伴うリスクをいかに抑えるか,初期PTA施行時の拡張度設定や適応症例の選択の在り方などを探っていきたい」と語った。
CAS施行例の血栓症予防においてアスピリンは必須の薬剤である
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| 図3 | 図4 |
頸動脈狭窄症治療において合併症ゼロを目指すには,抗血栓療法も不可欠である。CAS施行中に懸念される遠位塞栓症は,各種プロテクション法で回避しうる。だが,施行後に血栓症を来す例が少なくなく,CAS施行前から施行後も長期にわたって抗血栓療法を行う必要がある。特にソフトプラークの症例は要注意である。
CAS周術期の抗血栓療法では,最もエビデンスが豊富な低用量アスピリンが必須の薬剤として評価され,世界的に頻用されている。国際共同研究ATT(Antithrombotic Trialists' Collaboration)では,287の無作為化比較試験(約21万2,000例)の成績をメタ解析。主としてアスピリンを用いた抗血小板療法が,脳卒中既往・脳卒中急性期を含む閉塞性血管障害の高リスク例の脳・心血管イベント予防に有効であることが明らかになった(図 3)。
また,非心原性脳梗塞既往例を対象としたWARSS試験(2001)では,アスピリンの効果はワルファリンと同等であったが,出血リスクはアスピリン投与群で低い傾向が示され,アスピリンの有用性が高く評価された。ただしCAS施行例の場合,施行後の血栓性リスクが高いことから,一定期間は低用量アスピリンと他の抗血小板薬の併用が考慮される。
CARESS試験(2005)では,症候性頸動脈狭窄症例に対する抗血小板薬の併用により,微小塞栓シグナル(microembolic signals)が単独投与と比べて有意に少なくなることが示された。しかし抗血小板薬の併用療法は,脳出血のリスクを高めることにもつながるため,漫然と行うべきではない。
吉村氏は,現時点でCAS周術期の抗血栓療法を考慮する際,米国心臓学会財団と血管治療関係4学会が2007年に発表した臨床専門家合意文書が参考になるとし,その概要を説明した(図 4)。CAS施行前は低用量アスピリンとクロピドグレルを4日間併用し,施行時はヘパリンを静注。施行後はアスピリンとクロピドグレルを1か月間併用し,以後はクロピドグレル投与を中止しアスピリン投与のみを継続することが推奨されている。
このように低用量アスピリンは,CAS施行例に対してもベースドラッグとして,長期にわたって服用が継続される。同氏は「低用量アスピリンの薬価は1日当たり約6円にすぎず,患者負担はきわめて小さい。有効性と安全性に加え,医療経済性が厳しく問われる現代にもマッチしている」と付言した。
そのうえで同氏は,近年臨床家の関心事となっている「アスピリンレジスタンス」について言及した。
「アスピリンレジスタンス」という言葉は,しばしば「アスピリンの抗血小板作用が十分に発揮されない状態」を表す際に用いられている。しかし公式な定義は存在せず,その機序の理解も確立された検査法もないなか,さまざまに解釈されて論じられているのが実情である。
同氏は「アスピリンに限らず,どんな薬剤を用いても,効果が現れやすい患者もいれば現れにくい患者もいる。今のところ知見は少ないが,将来的には効果を測定する正確なマーカーの開発,それに伴う個々の患者での用量調節が望まれる」との見方を示した。
病態に適した手技の選択と薬物療法の活用が治療成績向上の鍵
頸動脈狭窄症に対するCAS施行において「合併症ゼロ」という目標を達成するのは難しいが,吉村氏は今回紹介した要点を踏まえ,工夫を重ねながら着々と成果を上げている。
同氏らによる,2004年1月1日以降のCAS施行140例の総合成績を見ると,周術期死亡はなく,周術期合併症は5.0%(麻痺,視野異常),永久合併症は2.1%(視野異常)となっている。CAS施行6か月後に実施したCTA検査または血管造影検査で,再狭窄が認められたケースはなかった。フォローアップ中のCAS施行以外の原因による死亡は1例(肝炎),合併症は1例(同側脳卒中〔脳出血〕)であった。
終演に当たり,同氏は「頸動脈狭窄症の治療成績を向上させるため,症例蓄積を通じて狭窄度およびプラーク性状の診断基準を確立したい。CASとCEAで治療効果を競う"CAS vs CEA"ではなく,"CAS with CEA"すなわち病態に適した手技を選択し,さらには薬物療法をうまく組み合わせていくことが重要と考えている」と総括した。












