特別企画
座談会
脳梗塞急性期における抗血小板療法の在り方を探る
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| 長尾 省吾 氏 | 松本 祐蔵 氏 | 藤本 俊一郎 氏 |
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| 河井 信行 氏 | 細見 直永 氏 |
遺伝子組み換え型組織プラスミノゲンアクチベータ(rt-PA)静注療法が承認されて以来,脳梗塞急性期治療は新たな時代を迎えた。その有効性は大規模臨床研究によって確認され,すでに多数の患者が救われている。しかしrt-PA療法の適応例は限定されるうえ,合併症を来すこともある。従来の治療法の出番がなくなったわけではなく,特にエビデンスレベルが高いアスピリンをはじめとする抗血小板薬に関しては,むしろ積極的に活用することが求められている。
香川県で脳梗塞急性期医療を担っている専門家5氏を招き,rt-PA時代の脳梗塞急性期における抗血小板療法の在り方を探っていただいた。
- 長尾 省吾 氏(司会) 香川大学医学部附属病院 病院長
- 松本 祐蔵 氏 香川県立中央病院 院長
- 藤本 俊一郎 氏 香川労災病院脳神経外科 部長
- 河井 信行 氏 香川大学脳神経外科 准教授
- 細見 直永 氏 香川大学循環器・腎臓・脳卒中内科 講師
rt-PAは適正治療指針に基づき実施適否の迅速な判断を要する
長尾 かつて「脳卒中の患者は寝かせて動かすな」と言われましたが,今日では"time is brain"を合い言葉に超急性期の治療が重視されています。特にrt-PA療法が2005年10月に承認されて以来,脳梗塞急性期の治療成績は一段と向上しつつありますが,適応例は限定されます。そこで初めに細見先生に,適用条件を概説していただきたいと思います。
細見 日本脳卒中学会の『rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針』には,原則として発症後 3 時間以内の急性脳梗塞で症状の急速な改善が見られず,超軽症や超重症ではない例に限られることが明記されています(脳卒中 27: 327, 2005)。ここで言う「発症後 3 時間」の起点は,患者が倒れているのを発見した時刻ではなく,元気でいるのを最終確認した時刻です。頭蓋内出血既往や血糖異常(<50mg/dLまたは>400 mg/dL),血小板減少(≦10万個/mm3),CTで広範な早期虚血性変化などが認められる例は禁忌とされています。また75歳以上の高齢者,NIHSS(米国立衛生研究所の脳卒中スケール)スコアが23以上の重症例などは,慎重投与の対象になります。
長尾 一方,医療施設には迅速かつ高度な診断・検査・治療態勢の整備が求められます。『適正治療指針』にはCTまたはMRIの検査が24時間実施可能で,集中治療に対応しうる十分な人員・設備を擁することが示されています。香川県での実施状況はいかがでしょうか。
細見 香川県下ではrt-PA承認後から現在までに16施設が行い,症例数は134例となっています(2007年 9 月末)。県の人口は約100万人ですから,使用頻度はかなり高いと言えます。
長尾 ただ,使用成績は必ずしも芳しくないようですね。
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| 図1 |
細見 はい。県内13施設でrt-PA療法を受けた126例(2007年 9 月末までの症例)を解析したところ,入院24時間後のNIHSSスコアが 4 以上改善したのは62例で,49%に有効性が認められました(図 1)。しかし,入院1か月後のmodified Rankin Scale(mRS)で 4 以上の症例が38%に上り,アルテプラーゼの国内治験(J-ACT)での 3 か月後の成績と比べ,予後は良くありませんでした。
75歳以上の高齢者が68例と半数を超え,NIHSSスコアが23以上の重症も40例と多かったことが,こうした成績につながったと考えられます。リスク解析の結果,特に重症例では36時間以内の症候性脳出血の発生頻度は15%と判明しています。
長尾 一般に十数%と言われていますから,かなり高頻度ですね。他の先生方の施設では,どのような治療成績が得られているのでしょうか。
松本 われわれは22例に使用しましたが,rt-PA導入1年目は重症例が多く,閉塞血管の再開通は 9 例にとどまりました(2007年 7 月末)。また出血性梗塞が 6 例(27%)に認められたため,現在は75歳以上あるいはNIHSSスコア23以上の症例には用いないことが多くなり,そのぶん合併症も少なくなっています。
藤本 われわれの使用実績は14例(2007年12月末)です。rt-PA療法は中大脳動脈M1(水平部)~M2(島部)の閉塞例に奏効する半面,内頸動脈閉塞の重症例にはほとんど効果が認められませんでした。適用条件を満たした場合でも,rt-PA療法がどのくらい効くのか,確証が持てないのが実情ではないでしょうか。
河井 やはり内頸動脈閉塞など重度の虚血例は再開通が困難で,たとえ再開通しても出血性梗塞を来すリスクが高いと思います。MRIなどの検査を活用し,そのリスク回避に努める必要があります。問題は 3 時間以内という制約の中で,いかに効率よく検査を行うかです。
アスピリンの脳梗塞急性期治療でのエビデンスは確立している
長尾 先生方のお話からrt-PA療法の課題も浮かび上がりましたが,脳梗塞急性期の治療が新たな段階に入ったのは疑いありません。一方で,従来療法の活用法を見直す時機と言えます。まずは日本の『脳卒中治療ガイドライン2004』における抗血小板薬の位置付けを確認し,その在り方を探りたいと思います。
松本 脳梗塞急性期の抗血小板療法としては,発症後48時間以内のアスピリン160~300mg/日の経口投与,または発症後 5 日以内のオザグレルナトリウム160mgの点滴投与(心原性脳塞栓症例を除く)が推奨されています。特にアスピリンは,患者の背景因子にかかわらず,すべての病態の脳梗塞に有効で,推奨グレードAと評価されています。病型判断が難しい例にも投与でき,使いやすいと思います。
長尾 では河井先生,ガイドラインの元となったエビデンスについて説明していただけますか。
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| 図2 | 図3 |
河井 脳梗塞急性期(48時間以内)のアスピリン投与の有用性は,CAST(Chinese Acute Stroke Trial)とIST(International Stroke Trial)の成績によって確認されました(図 2)。
CASTでは,アスピリン160mg/日投与群で 4 週後の死亡または非致死性脳卒中の発症が,プラセボ群と比べて有意に少ないことが判明。その相対リスク低下率は12%と算出され,1,000人当たり6.8例の減少に相当すると報告されました。なお,出血性合併症の発生頻度は,両群間に有意差は見られませんでした。一方ISTでは,アスピリン300mg/日の投与群で 6 か月後の死亡または要介護が,非投与群と比べて有意に抑制されました。死亡または非致死性脳梗塞の再発も,アスピリン投与群で有意な抑制が認められました。
さらに国際共同研究ATT(Antith-rombotic Trialists' Collaboration)によるメタ解析で閉塞性血管障害の高リスク例に対する,アスピリンを中心とする抗血小板薬の血管イベント抑制効果が確認されました(図 3)。脳梗塞急性期におけるアスピリン療法による脳卒中・心筋梗塞・血管死の相対リスクは対照群と比べ11%減少し,絶対リスクの減少は1,000人当たり 9 例でした。
このような結果から,今なお膨大な数に上る日本の脳梗塞急性期患者へのアスピリン投与は,脳梗塞再発を含む血管イベントの予防につながることが示されました。その意義はきわめて大きいと思います。
rt-PA使用時の抗血小板療法は24時間経過後に行うのが原則
長尾 脳梗塞急性期のアスピリンの有用性は明らかなわけですが,先生方は実際にどのように使用されていますか。
松本 rt-PA療法を行った場合,実施後24時間以内の抗血小板療法も抗凝固療法も禁忌とされていますから,それ以降に行うのが原則です。われわれはアスピリンを使う際,300mg/日で開始し,3 週間経過した時点からは100mg/日に減量することが多いです。
藤本 私は,rt-PA使用の有無あるいは成否を問わず症状が強い例には,入院24時間後から脳保護薬や抗凝固薬とともに抗血小板薬の活用を考慮します。例えば穿通枝動脈の分岐部周辺が広範に障害されていたり,複数の穿通枝に血流障害が見られたりする場合です。ただ,抗血栓療法は出血合併症を来すことがあるため,松本先生が話されたように急性期を脱したら,患者の病型や症状に応じて減量や薬剤変更を検討します。
医療,運動と栄養,機能評価の情報を伝達する連携パスを開発
長尾 アスピリンは脳梗塞急性期のみならず慢性期の再発予防にも有用ですが,適正な治療を継続するには医療スタッフ全員で患者情報を共有する必要があります。また施設内だけでなく,協力施設との連携も重要です。香川県では2005年に「香川シームレス研究会」が発足し,脳卒中診療の多職種・地域連携を推進するクリニカルパスが開発されました。その推進者である藤本先生に,連携パスの意義と特徴を紹介していただきたいと思います。
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| 図4 |
藤本 クリニカルパスは,各施設で一疾患に対して作る「施設内パス」と施設間の連携を図る「連携パス」に大別されます。
施設内パスの利点としては,どの患者にもガイドラインで示されているような標準的治療を提供できる,どの医師も同じように治療を進め,看護師やリハビリスタッフとチーム医療を行えることが挙げられます。各職種のスタッフが記録した情報を一元的に管理し,患者の状態や治療手順,投薬量を包括的に把握しうるからです。
一方,連携パスは,急性期・回復期・維持期の各施設に独自のパスがあってもなくても活用できなければなりませんから,工夫が求められます。そこで私たちは,施設間の継ぎ目に重要な医療,運動と栄養,機能評価の情報伝達に特化した連携パスを開発しました(図 4)。
これにより,患者は適正な医療を一貫して受けられ,各施設はコメディカルの看護添書とリハ添書を 1 つの連携パスにまとめ,医療の効率化を図れます。患者と現施設,連携先施設の 3 者にメリットをもたらす,win-win-winの関係を築くのが究極の目標と言えます。
連携パスを利用してアスピリン使用状況を伝達することも重要
松本 われわれは最近,藤本先生が作成した香川労災病院のパスを参考にして施設内パスを作りました。実際に活用し,確かに医療行為の効率は高まり,標準的な医療の提供に役立つと実感しているところです。今後は連携パスの輪が県内全域に広がるのを期待していますが,同時に救急搬送態勢の整備,救急隊員への教育も重要と考えています。
細見 同感です。冒頭で紹介したrt-PA使用例の解析では,脳梗塞発症からrt-PA療法に至るまでに平均117分かかっていました。実施条件の「3 時間以内」をかろうじて満たした例も少なくなかったため,救急隊員に脳卒中の初療法を学んでもらう場を2007年12月に設けました。
長尾 超急性期の治療の入り口に立てなければ,連携パスがあっても生かしようがないということですね。
ほかに施設内パス,連携パスに関して質疑はありませんか。
河井 クリニカルパスで均一な医療が提供できるのは有意義ですが,その中でもエキスパートの経験を生かすことはできるのでしょうか。
藤本 患者の病型や重症度は異なり個別対応が求められますから,画一的に治療すべきでない項目はすべて医師の裁量で選べます。パスには,エキスパートの経験が生きる余地も残しています。
松本 例えばアスピリン腸溶錠の場合,連携パスではどのような形で情報が伝達されていくのでしょうか。
藤本 急性期病院で「1 日100mg錠を2錠,2 週間投与。回復期以降は1錠に減量してもよいと考えられる」などと具体的に記載していれば,回復期病院で治療の進め方を考える際に役立ちます。
細見 前施設での薬剤の種類,投与の量・期間・効果などが明記されていれば,次施設で理由もなく突然薬剤が変更されたり,用量を変更すべきなのに維持され続けたりすることは少なくなりそうですね。
長尾 本日は,脳梗塞急性期例へのrt-PA療法の承認後も,抗血小板療法が重要な位置を占めることを確認しました。とりわけエビデンスが確立し,第一選択として使われるアスピリンは,急性期・回復期・維持期を通じて活用することができます。それだけにクリニカルパスを利用し,きちんと使用状況を施設間で伝えていく重要性も明らかになりました。
どうもありがとうございました。















