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[2008年2月14日(VOL.41 NO.7)p.44]

特別企画

第30回日本高血圧学会総会ランチョンセミナー

脳梗塞の再発予防戦略

血圧管理の重要性と抗血小板療法

上島 弘嗣 氏 橋本 洋一郎 氏
上島 弘嗣 橋本 洋一郎

 脳梗塞は,近年の医療の進歩にもかかわらず,今なお再発しやすい疾患である。久山町研究では,脳梗塞初発例における累積再発率は1年間で10%,10年間ではなんと50%に上ることが報告されている(2005)。第30回日本高血圧学会総会ランチョンセミナー「脳梗塞の再発予防戦略:血圧管理の重要性と抗血小板療法」(座長:滋賀医科大学社会医学講座福祉保健医学部門教授・上島弘嗣氏)では,"熊本方式"といわれる地域の脳卒中診療ネットワークを構築したことで知られる熊本市立熊本市民病院神経内科部長の橋本洋一郎氏が,脳梗塞の再発を予防するための実践について解説。抗血小板療法や抗凝固療法のほか,高血圧症や脂質異常症,糖尿病や喫煙などの危険因子に対する多角管理が重要であることを強調した。

座長
上島 弘嗣 氏 滋賀医科大学社会医学講座 福祉保健医学部門教授
演者
橋本 洋一郎 氏 熊本市立熊本市民病院 神経内科部長

すべての地域に多科多職種の脳卒中診療ネットワークを!

図1

 脳卒中は高度な急性期治療を要する疾患だが,のみならず回復期に身体機能回復のリハビリテーション(リハ),維持期には日常生活への復帰と維持のためのリハ,急性期から維持期まで長期にわたる再発予防が必須である。したがって,多科多職種による病期に応じた多面的ケアが求められる。これを単独の医療施設で行うことは難しく,時に現実的でない。例えば熊本市とその周辺の人口約100万の医療圏では,急性期病院である済生会熊本病院,熊本赤十字病院,熊本市民病院,熊本医療センターの神経内科に年間約1,500例の脳梗塞患者が入院する。この 4 施設の神経内科医は,レジデントを含めて15名にすぎない。この限られた人数で日々運ばれる患者に対応するには,急性期病院の在院期間をできるだけ短縮,リハ専門病院に回復期医療を担ってもらう必要がある。この点から橋本氏は,個々の病期を担当する病院と病院,診療所がネットワークを作る必要があると考えた。
 こうして,かかりつけ医,急性期病院,リハ専門病院,療養型病院・施設がそれぞれの役割を受け持って連携する地域完結型診療ネットワークが,10年ほど前に構築された。地域連携クリティカルパスを開発し,施設間での診療情報の共有や診療指針の共通化を図ることにより,継続的医療の実現(シームレスケア)やその質の向上に努めてきた(図 1)。
 このシステムは熊本方式として知られ,厚生労働省の推進する地域医療連携のモデルにもなっている。成功の背景には,熊本地域では回復期リハ病院が充実していたという事情があった。これに対して,首都圏ではリハ病棟の病床数が少なく,多くの患者が地元でリハを受けられない状況だという。同氏は地域の医療施設がネットワークを作ることの意義を強調し,リハ専門医とリハ病床の不足をいかに克服するかが,今後の大きな課題だと指摘した。

入院当日から再発予防のアスピリン投与を始める

表1 表2

 脳梗塞の急性期治療は,近年のCTやMRIの進歩,rt-PA療法の導入で大きく前進した。しかしMRIが24時間稼働する施設は限られ,rt-PA療法の適応となる患者は一部であるなど課題も多い。橋本氏は臨床病型別に急性期治療を概説。入院当日から再発予防を始める意義を強調した。
 再発予防について抗血小板療法のエビデンスは確立している。30万例に及ぶ国際共同研究ATTのメタ解析では,アスピリンを主体とする抗血小板療法は急性期脳卒中で11%,脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)の既往例では22%,血管イベントを減少させた。このため日本,米国,欧州の脳梗塞急性期ガイドラインは一致して発症早期のアスピリン投与を推奨する(表 1)。欧米ではエビデンスに基づきアスピリンだけが推奨されているが,日本ではオザグレルがあるため,アスピリン開始が遅れる傾向がある。同氏は入院当日から数日間両薬を併用し,以降はアスピリン単独に切り替えるという。
 非心原性脳梗塞慢性期の再発予防に関しては,各国のガイドラインでやはり共通してアスピリンを第一選択薬に挙げる(表 2)。日本ではチクロピジン,シロスタゾール,クロピドグレルも選択できる。その使い分けについては,「原則的にエビデンスが豊富で安価なアスピリンを用い,合併症などの病態に応じて高価な薬を選ぶ場合もある」という。再発予防のための薬物治療は,加齢とともにリスクが高まることを考えれば,生涯継続してもらうことが肝心である。急性期病院入院中は高価な抗血小板薬を使用できても,リハ病院ではそれを継続できないケースがあることには注意すべきである。
 用量について,急性期病院の処方をリハ病院で変更しにくいことがある。アスピリンは急性期の推奨用量160~300mg/日から慢性期の75~150mg/日に減量することになるが,これは急性期病院で行うほうが適切であろう。同氏は,「入院当日からアスピリン腸溶錠を 2 錠,2 週間後に 1 錠」を基本とする。連携先である回復期リハ病院での処方継続率も85%と,非常に高く維持されているという。
 抗血小板薬の併用をめぐっては,最近ではアスピリン+クロピドグレルに期待が寄せられた。しかし,脳梗塞患者では出血性合併症のリスクを上回るベネフィットは確認されていない。「再発予防における抗血小板薬併用は慎重に」と同氏は語る。

抜歯や体表の小手術では抗血栓療法の休薬は不要

表3

 心原性脳塞栓症の予防では,ワルファリンが中心となる。このため,心原性脳塞栓症のおもな原因である非弁膜症性心房細動(NVAF)を持つ患者では,高齢,TIAまたは脳梗塞の既往,高血圧症,糖尿病,冠動脈疾患,心不全のうち 1 つでも該当すればワルファリンを投与することが日本循環器学会のガイドラインに明記されている。しかし,この推奨項目はあまり守られていないようだ。橋本氏の行った後ろ向き検討では,NVAFのため心原性脳塞栓症を発症した80例中,危険因子(+)群は71例で,うちワルファリン服用患者は17例にすぎなかったという。
 ワルファリンに関しては,INRが2.0を割ると脳梗塞が増加し,逆に3.0を超えると脳出血が増えることが知られている。しかし,日本では2.6を超えると高齢者の脳出血が増えるため,高齢者ではINR1.6~2.6という目標が決められた。抗血栓療法中の脳出血を回避する方策としては,(1)INRを3.0以下(70歳以上では2.6以下)に維持,(2)高齢者と脳卒中者ではワルファリン+アスピリン併用には特に注意,(3)脳卒中者ではクロピドグレル+アスピリン併用は避ける,(4)中等度の降圧を継続する―が推奨されている。
※ プロトロンビン時間国際標準比
 抗血栓療法に関しては,観血的手技を行う場合の休薬も問題となる。従来,他科の医師は休薬のリスクを過小評価しがちであったが,最近はコンセンサスが生まれつつある。抜歯や体表の小手術では,ワルファリンやアスピリンの休薬の必要はないことが広く理解されてきている。内視鏡治療でも,出血リスクの低い例ではアスピリンなら 3 日間の休薬でよいと,日本消化器内視鏡学会のガイドラインで定めている(表 3)。

まず行うべきは高血圧治療―Ca拮抗薬の優位が明確に

図2

 続いて橋本氏は,危険因子の管理について解説を行った。脳梗塞発症の危険因子としては,高血圧症,糖尿病,心房細動,喫煙,脂質異常症などが知られている。日本の脳梗塞の実態を調査したJ-MUSICでは,高血圧症患者は61.7%と,糖尿病の25.2%,心房細動の21.8%を引き離して最も多くの患者に認められた。脳梗塞の再発予防では,高血圧の是正が最優先の課題となる。日本脳卒中協会の"脳卒中予防十か条"でも,第一条は「手始めに高血圧から治しましょう」である。
 脳梗塞後患者の降圧をめぐっては従来,過度の降圧は再発リスクを高めるという J カーブの存在が信じられてきた。しかし,PROGRESS試験のサブ解析から,治療中の血圧値が低いほど再発も少なく,115/75 mmHgまでは J カーブは認められないことがわかったのである。
 これを踏まえ,日本の高血圧治療ガイドライン2004では,脳血管障害合併例の降圧目標が「一次目標(治療開始 2 ~ 3 か月)150/95mmHg未満,最終目標140/90mmHg未満」に改められた。高血圧治療ガイドライン2000の一次目標150~170/95mmHg未満,最終目標140~150/90mmHg未満に比べると大きな変化である。ただし,この最終目標は合併症のない高齢者と同じである。65歳未満なら脳卒中の既往があっても130/85mmHg未満を目指すべきだと,同氏は言う。
 では,降圧治療ではどんな降圧薬を用いればよいのか。BPLTTCのメタ解析では,降圧薬のクラスごとに脳卒中の発症リスクを比較。Ca拮抗薬が良好な降圧効果を示し,脳卒中抑制作用も利尿薬/β遮断薬やACE阻害薬より高い点が示された(図 2)。
 Verdecchiaらのメタ解析(2005)でも同様の成績が報告され,脳卒中予防にはACE阻害薬よりCa拮抗薬が優れていると結論されている。

危険因子の多角管理で,脳梗塞再発予防を目指す

図3 図4

 糖尿病は高血圧に次いで合併率の高い危険因子だが,厳格な血糖管理を行っても通常の管理に比べて脳卒中が減らないとの成績がUKPDSから発表され,衝撃が拡がった。以来,糖尿病例では血糖と血圧,血清脂質を多角的に管理しなければ,脳・心血管イベントの十分な予防はできないと考えられている。
 脂質異常症については,脳卒中またはTIA既往例に対するスタチン投与で,再発が16%抑えられたとするSPARCL試験の報告がある。半面,この試験ではスタチン投与で脳出血が増加した。脳出血の発生因子を調べると高血圧が関与しており,強力な脂質低下療法を行う場合,血圧管理も重要となることが示唆された。
 こうした糖尿病と脂質異常症の臨床試験などから,危険因子の多角管理の必要性が浮き彫りになった。これに関連してWaldらは,大規模試験の成績などから興味深いシミュレーションを報告した。アスピリン,スタチン,3 種の降圧薬,葉酸を比較的低用量で併用(polypill strategy)すると,虚血性心疾患を88%,脳卒中を80%低下させることができるとした(図 3)。もちろん,危険因子の多角管理は,薬物療法だけではない。理想体重維持や運動も,脳・心血管イベント予防に有益である。なかでも最も予防効果の高いのが禁煙であり,禁煙対策の遅れは日本の最大の問題の 1 つだと,橋本氏は語る。
 最後に同氏は,生活習慣病の進展過程における位置付けを論じ,心筋梗塞と脳卒中は同じ段階ではないとした。第 1 段階は不適切な生活習慣,第 2 段階は境界領域期,第 3 段階は高血圧症や糖尿病,第 4 段階が虚血性心疾患や糖尿病による透析・失明とすれば,より予後の悪い脳卒中は第4.5段階に相当する(図 4)。進展の最終段階に位置するだけに,そこからの再発予防も容易ではない。同氏は「少しでも前段階からの予防を目指し,循環器専門医やかかりつけ医と協力していきたい」と講演を締めくくった。

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