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[2007年11月22日 (VOL.40 NO.47) p.58]

特別企画

第49回日本老年医学会学術集会ランチョンセミナー/2007年6月21日ロイトン札幌

高齢社会におけるリスク管理の新展開

小林 祥泰 氏
小林 祥泰

我が国では,65歳以上の高齢者が人口の20%を超え,未曾有の高齢社会に突入しつつある。高齢化の進展は西欧諸国と比べても急速であり,高齢者に多発する脳卒中への対策の重要度は増すばかりである。脳卒中において,発症後の対処が大切であることは言うまでもないが,ハイリスク患者に対する予防対策はそれ以上に重要である。
第49回日本老年医学会学術集会ランチョンセミナーでは,松本昌泰氏(広島大学大学院病態探究医科学講座 脳神経内科学 教授)より,高齢社会における脳卒中予防の重要性が提示され,脳卒中発症予防に対する大規模臨床試験の結果や,世界の主要ガイドラインが紹介された。

小林 祥泰 氏(司会) 島根大学医学部附属病院 院長
xx xx 氏

新局面を迎えた脳卒中医療

演者
広島大学大学院病態探求医科学講座脳神経内科学 教授
 松本 昌泰

高齢社会においては,脳卒中対策が重要となる

図1

 今後の高齢社会において脳卒中対策は,リスク管理の観点から避けて通ることはできない。脳血管疾患は,65歳以上の要介護の原因となる疾患の第1位(26%)であり,同年齢群の死亡原因の15%を占める1)。また,脳卒中による入院患者は増加の一途にあり,虚血性心疾患と比べても,その数は8倍近い(図1)。
 今後は,脳卒中の発症をいかにして予防していくか,また,発症してしまっても障害をできる限り抑え,その後の再発予防を徹底していくかが待ったなしの喫緊の課題といえる。

求められる「アテローム血栓症」再発予防の視点

図2

 WHOの2002年の報告によると,脳卒中と心筋梗塞をまとめた脳・心血管疾患は,世界における死亡原因の第1位であり,24.5%を占めている2)。さらに,2005年の脳梗塞,心筋梗塞の発症数は,1997年と比べてそれぞれ32.7%,31.6%増加しているとの報告がある3)
 昨年,米国で開催されたInternational Stroke Conference2006において,脳卒中も心筋梗塞も血管疾患(Vascular Disease)としてまとめて捉えた上で,同疾患による死亡者数が2010年に世界で1,800万例にも上るであろうことが警告された(図2)。さらに同会議では,その前段階での予防の重要性が提議された。
 こうした一連の流れは,脳卒中も心筋梗塞も,アテローム性動脈硬化症から血栓症を経て発症する疾患であり,「アテローム血栓症」というひとつの疾患概念として包括的に捉えようというものである。
 この考えのもと,我が国でREACHレジストリーに登録された5,000例余りの患者において1年間のフォローアップが実施された。そして,脳血管疾患既往患者はもちろんのこと,冠動脈疾患や末梢動脈疾患既往患者,あるいは危険因子のみを有する患者においても,脳卒中の発症率が冠動脈疾患の発症率よりも高いという日本の実態が示された。したがって,すべてのアテローム血栓症の危険因子を有する患者において,脳卒中の発症リスクを念頭においた予防戦略を立てることが重要である。そのためには,日本人の直近の危機への対応を,脳・心領域の専門家が一丸となって治療を実践するという意識改革が求められる。

質の高いエビデンスに支持されているアスピリンの脳卒中再発予防効果

図3

 我が国の「脳卒中治療ガイドライン2004」において,非心原性脳梗塞の再発予防に,抗血小板薬がグレードA(行うよう強くすすめられる)として推奨されている。
 抗血小板薬には,アスピリンをはじめ,作用機序の異なる数種の薬剤があるが,その有用性は,ハードエンドポイント(致死率や再発率)で評価された質の高いエビデンスに則り比較することが重要である。
 2002年に発表されたATTは,我が国を含む287試験,20万例にも及ぶ症例を対象としたメタアナリシである。心筋梗塞の既往,一過性脳虚血発作(TIA)・脳梗塞の既往,急性心筋梗塞,脳卒中急性期,不安定狭心症,Post-PTCA,安定狭心症,心房細動,末梢動脈疾患などの閉塞性血管イベントリスクの高い患者を対象に,抗血小板薬の効果が評価された4)
 その結果,アスピリンを主体とする抗血小板療法は,いずれの対象患者においても,脳・心血管イベント発症を有意に減少させることが示され,全ての対象患者のリスク減少率は22%であった。特に,脳梗塞既往患者の心筋梗塞発症,心筋梗塞既往患者の脳卒中の発症が抑制されることは注目すべき結果である(図3)。
 また,アスピリンの慢性期の用量についても検討されており,一日用量として75〜150mgが最も有用であることが示されている。この用量においては,チエノピリジン系抗血小板薬と同等の効果を有することが示された。

主要ガイドラインで第一選択薬に推奨されるアスピリン

図4

 我が国の「脳卒中治療ガイドライン2004」では,脳梗塞急性期において、第一選択薬として「発症48時間以内にアスピリン160〜300mg/日」がグレードAとして推奨されており,非心原性脳梗塞慢性期における抗血小板療法としても「アスピリン75〜150mg/日」はグレードAとされている。
 また,海外の主要ガイドラインにおいても,アスピリンは脳梗塞急性期から慢性期まで,抗血小板療法の第一選択薬として推奨されている(図4)。
 特筆すべきは,脳梗塞急性期・慢性期のみならず,心筋梗塞、狭心症などの心血管疾患においても,アスピリンは国内外のガイドラインにおいて第一選択薬として推奨されていることである。

脳卒中一次予防における降圧療法の有用性とアスピリンの可能性

図5

 海外では,上記のような既往歴のある患者に対してアスピリンが有益であるとの十分なエビデンスが集積されており,さらに最近ではいくつかのリスクのある患者の発症予防に関する報告がされている。ただしアスピリンのみで十分というわけではなく,基礎疾患の管理が重要であることはいうまでもない。
 特に脳卒中予防においては血圧管理が重要であり,「脳卒中治療ガイドライン2004」において,脳卒中の発症予防を目的とした,高血圧症患者に対する降圧療法がグレードAとして推奨されている。
 実際,脳血管疾患既往患者を対象とした最近の研究においても,血圧を低くコントロールするほど脳卒中の再発が少ないことが報告されている(図5)。

脳卒中予防に中心的役割を果たし続けるアスピリン

 高齢者の脳卒中予防が,ますますその重要性を増す中,今後はより積極的な抗血小板療法が求められるであろう。
 中でもアスピリンは,最も古くから使用され,依然最も汎用されている抗血小板薬である。有効性,安全性,経済性のいずれの観点から鑑みても,今後も脳卒中の予防における中心的役割を果たしていくものと考えられる。


1)厚生労働省:人口動態統計及び国民生活基礎調査
2)WHO:The World Health Report 2002
3)Guillot F et al:Circulation 98(Suppl): 1421, 1998
4)BMJ 324: 71-86, 2002

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