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[2007年10月18日 (VOL.40 NO.42) p.46]

特別企画

第48回 日本神経学会総会 ランチョンセミナー2 2007年5月16日 名古屋国際会議場

「アスピリン抵抗性」の概念と実態は正しく理解されているか?

「Aspirin "Resistance" - Definition, Determination and Clinical Significance.」

Karsten Schrör 氏 内山 真一郎 氏
Karsten Schrör 内山 真一郎

 臨床使用されているほぼすべての薬剤には「反応の個体差」が存在する。近年,関心が高まっている「アスピリン抵抗性」という概念は,抗血小板薬・解熱鎮痛薬として確固たるエビデンスが確立されているアスピリンもこの例に漏れないことを再認識させてくれたが,一方で,明確な定義がないこの概念は,不応性の背景にあるさまざまな原因を見落としており,アスピリン療法に対する誤解を生んでいる。「アスピリン抵抗性」への関心が高まり始めた当初から,この用語の不適切性を指摘し続けてきたKarsten Schrör氏は,第48回日本神経学会総会(ランチョンセミナー)において,「アスピリン抵抗性」として一括りにされている現在の臨床実態について詳説し,あるべき今後の研究の方向性を示した。

演者:
Karsten Schrör 氏 Director and Chairman of the Institute of Pharmacology and Clinical Pharmacology, University Clinics Dusseldorf, Germany
座長:
内山 真一郎 氏 東京女子医科大学脳神経センター神経内科学教授

反応の個体差はアスピリンに限らず,すべての薬剤に存在

図1

 アスピリンの薬理作用は,シクロオキシゲナーゼ(COX)活性を不可逆的に阻害してトロンボキサン(TX)A2の合成を抑制することによる血小板凝集抑制であることが知れ渡っているが,その他にも,COX-2遺伝子の転写阻害,リポキシン合成による炎症抑制,フェリチン誘導による内皮機能障害の抑制など多岐に渡る効果が報告されており,現在も完全には解明されていない。
 抗血小板療法の脳・心血管イベント抑制効果を検討したAntithrombotic Trialists' Collaborationのメタアナリシスでは,脳梗塞,心筋梗塞の急性期から慢性期を含むいずれの既往疾患を有する患者においても,アスピリンによる有意な脳・心血管イベント抑制効果が得られ,全体としては22%のリスク低下効果であった。しかしながら,当然のことではあるが,全く同じ効果がすべての患者で得られるわけはない。
 Schrör氏は「アスピリンの効果に個人差があることは,かなり以前から指摘されている。どのような薬物でも,疾患の種類による差や個人差が存在するのが通常であり,アスピリンに限ったことではない」と述べた。
 しかし,このメタアナリシス発表時期の前後に,Gum1)やEikelboom2)らが「アスピリン抵抗性」の存在と「心血管予後悪化」との関係を示唆したことをきっかけに,アスピリンに対する「抵抗性」の問題に年々関心が高まっている(図1)。

定義・検査法・臨床予後との関係に統一見解なし

 「アスピリン抵抗性」という用語の問題点はこれに留まらない。まず,「アスピリン抵抗性」には明確な定義が存在しない。例えば,Gumらは「アスピリン抵抗性」の指標をADP,コラーゲン誘導における血小板凝集能抑制としているが,EikelboomらはTXA2の尿中代謝産物を指標としていた。さらにGumらの研究では,ADPおよびアラキドン酸を用いた光学的検査によるアスピリン抵抗性の同定率は5.5%であったのに対し,PFA-100装置(ずり応力測定)では9.5%となり,両検査法の間に相関は認められなかった。つまり,標準化された検査法が確立されていないなか,さまざまな手法でさまざまな結果や解釈が示されているのである。
 さらに,同グループは2003年に,アスピリン抵抗性を来すことで,主要イベント発生リスクが3倍以上になると報告しているが3),同試験は2種類の方法でアスピリン抵抗性を測定し,有意差の得られた結果のみを採用したという点で,方法論的な問題も指摘されている。これまでの臨床試験データは限られており「アスピリン抵抗性」と臨床予後との関係についても,いまだ統一した見解が得られていない。

薬理作用面での「不応性」と臨床効果は分けて考えるべき

 Schrör氏は「そもそも,薬理作用と臨床効果のどちらを示しているのか峻別できない『抵抗性(resistance)』という用語が不適切である」と指摘。統一用語の候補としては,ほかに「治療の失敗(treatment failure)」と「不応性(non-responsiveness)」が挙げられているが,「『治療の失敗』では背景・原因の相違を表現できない。薬理作用を表す『不応性』が最も適切であると考える」と述べ,「抗血小板薬不応性」を「標準用量のアスピリン(75〜300mg/日)やクロピドグレル(初回300mg負荷投与後75mg/日)によっても,血小板凝集能が十分に抑制されない状態」と仮定。「ただし,血小板凝集能検査はあくまでex vivoの検査であり,結果がそのまま臨床適用できるという意味ではない」と付け加えた。これは,血小板凝集能の測定には,光学法,インピーダンス法,欧州で普及しているPFA-100,フローサイトメトリー,TX合成能の測定などさまざまな方法があるが,いずれにおいてもin vivoでの状態を完全に再現できないからである。in vivoでは血小板機能に影響を与える白血球,NO,プロスタサイクリン(PGI2)などの因子,抗血小板薬の反応に影響するコラーゲンやTXなどの多くの因子が存在する。一方,ex vivo検査では,測定の前に血小板活性化や抗凝固剤の添加を行ったり,ずり応力や赤血球が存在しない条件下に置く,また血小板活性も単一のアゴニストを使用するなど人工的な環境で行われる。同氏は「結局,血小板凝集能検査は薬理学的な評価であり,臨床的解釈には直結しない」と指摘した。

「不応性」の原因として見落としてはいけない服薬不良と薬剤相互作用

図3 図2

 次にSchrör氏は,臨床におけるアスピリン不応性の原因を,薬剤に関連する因子(薬物動態・薬理学的因子)と疾患に関連する因子の2つの側面から検証した(図3)。
 薬物動態では,まず,自験例を交えてバイオアベイラビリティ(生物学的利用能)不足の問題を指摘した。同氏らは,脳梗塞発症患者90例をアスピリン治療群37例と治療未経験群53例に分け,多血小板血漿を採取してアラキドン酸を添加し,TX濃度を比較した。25ng/mLをカットオフ値として治療群と未治療群でのTX合成能を比較したところ,未治療群では,「TX濃度>25ng/mL」46例,「TX濃度<25ng/mL」7例であり,治療群ではそれぞれ9例と28例であった。同試験が興味深いのは,この時点で結論を出さずに,同じ患者群の血漿に続いてアラキドン酸とアスピリンを添加して,再検討したことである。
 その結果,未治療群では予想にたがわず,アスピリン添加で「TX濃度<25ng/mL」に抑制された患者が40例と,顕著に増加した。一方,治療群でも当初「TX濃度>25ng/mL」であった9例のうち8例で「TX濃度<25ng/mL」に低下し,アスピリンへの反応を示した(図2)。つまり,治療群の場合,当初の検査で「血小板凝集が十分に抑制されなかった」とされた患者の約90%は,「アスピリン不応性」というよりは,服薬不良であったか不適切な用量を処方されていたと考えるのが妥当である。
 併用薬との相互作用も考慮すべき重要な点である。イブプロフェンなどのCOX阻害薬はアスピリンの効果を減弱することが古くから知られている。イブプロフェンが,COX-1とアスピリンの結合を阻害することによりアスピリンの抗血小板作用を阻害するためである。「アスピリン抵抗性」の議論ではこうした相互作用が十分に顧みられていない。
 同氏は「脳・心血管イベント予防を目的としてアスピリンを服用している中高年患者は,一般的に複数の薬剤を併用しており,アスピリンとの相互作用を見落としてはならない」と指摘した。もちろん薬剤相互作用もアスピリンに限ったことではなく,クロピドグレルなどを含むすべての抗血小板薬で考慮されるべき事項である。

アスピリンの増量で克服できる場合も

 薬理学的因子としては,血小板上のCOX-1の感受性低下や遺伝子多型などが挙げられる。これらは,疾患に起因した変性によるもので,冠動脈バイパス術(CABG)後や,病態が不安定な心筋梗塞(MI)に伴う場合がある。
 また,脳梗塞や心筋梗塞などの血栓症,動脈硬化症,糖尿病などにおいては,健康成人と比べ血小板機能の顕著な亢進が認められる。Schrör氏らは,アスピリン治療歴のない脳梗塞患者と健康成人を比較して,脳梗塞患者群ではTXB2合成能と血小板凝集能が顕著に亢進していることを確認している。これらの患者群の血漿にin vitroでコラーゲンおよびアラキドン酸による刺激を加えた後アスピリンを添加した場合,低用量(30μmol/L)では十分な抑制効果は得られなかったが,100μmol/Lの添加では健常者と同程度の抑制効果が得られた。このことは,上記の薬理学的および疾患関連の「不応性」がアスピリンの増量で克服できる可能性を示唆している。

統一基準による臨床データの蓄積が問題克服のかぎ

まとめ

 Schrör氏らは,「抗血小板薬抵抗性」に対する関心が高まり始めた直後の2004年に,誤解を招く用語の使用に警鐘を鳴らしたが,現在でも課題は多いという。まず,血栓症患者における臨床的な「抗血小板薬感受性」の正確な定義について,疾患の種類や内皮機能の差によっても感受性は異なることを念頭に置きながら,早急に確立する必要がある。また,実験室レベルでは,臨床予後を予測可能であり,簡便かつ再現性がある血小板反応検査を開発する必要がある。薬理学的側面からは,抗血小板薬のin vivoにおける細胞レベル・分子レベル,遺伝子レベルでの作用機序の解明を進めなければならない。
 最後に同氏は,質疑に答える形で,わが国の臨床家へのメッセージとして次のように述べた。(1)抗血小板薬不応例のスクリーニング法としては,種々の血小板凝集能測定やTX測定があるが,簡便で計算も容易なのはTX合成の測定である。しかしながら,これらはいずれも薬理作用の測定に過ぎない。(2)スクリーニング検査を実施すべき患者の選定についても今後の課題である。現時点では何と言っても,臨床データが乏しく,今後臨床成績を集積することにより抗血小板薬抵抗性を示す患者背景を特定する必要がある。
 今後克服すべき課題が多い現時点で,抗血小板薬抵抗性の臨床評価は困難と言える。
 さらに同氏は最後に,服薬コンプライアンスの維持は重要であるが徹底するのは容易ではない。錠剤の計数などで改善を図っていってほしいと述べ,講演を締めくくった。

REFERENCES
1)Gum PA, et al. American Journal of Cardiology 2001; 88: 230-235
2)Eikelboom JW, et al. Circulation 2002;105: 1650-1655
3)Gum PA, et al. JACC 2003; 41: 961-965

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