特別企画
座談会
脳梗塞予防戦略における抗血小板薬の位置付けを考える:
日米ガイドラインの推奨とエビデンス
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| José Biller 氏 | 山口 修平 氏 | 豊田 一則 氏 |
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| 長田 乾 氏 | 長尾 毅彦 氏 |
抗血小板療法は脳梗塞再発予防の要であり,わが国のガイドラインにおいても,とくに非心原性脳梗塞の再発予防を目的としてアスピリンをはじめとする抗血小板薬の服用が強く推奨されている。このたび,米国より「TIA管理ガイドライン」の編集委員を務められたJosé Biller氏をお招きし,米国のガイドラインについてご講演いただくとともに,日本の専門医の先生方と,ガイドラインの背景にあるエビデンスやその解釈について議論していただいた。
- José Biller 氏 Professor of Neurology and Neurological Surgery, Chair, Department of Neurology, Loyola University Chicago Stritch School of Medicine, USA
- 山口 修平 氏(司会) 島根大学医学部内科学講座内科学第三教授
- 豊田 一則 氏 国立循環器センター脳血管内科医長
- 長田 乾 氏 秋田県立脳血管研究センター神経内科学研究部研究部長
- 長尾 毅彦 氏 東京都保健医療公社荏原病院神経内科医長
オープニングトーク
- José Biller 氏
Professor of Neurology and Neurological Surgery, Chair, Department of Neurology, Loyola University Chicago Stritch School of Medicine, USA
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| 表 |
昨年,米国心臓協会(AHA)と脳卒中協会(ASA)によって発表された『脳卒中再発予防ガイドライン』では,非心原性の脳梗塞あるいはTIA(一過性脳虚血発作)に対して抗血小板薬が推奨されている。
初期治療薬としてアスピリン単剤,アスピリンとジピリダモール徐放剤の併用,クロピドグレル単剤が推奨されている。ただし,「アスピリン以外の抗血小板薬については,これを推奨する十分なエビデンスはない」ことが明記されている。また,クロピドグレルは,アスピリンにアレルギーを有する患者に妥当とされる(表)。
また米国では同年,National Stroke Associationによって『TIA管理ガイドライン』も発表された。
抗血小板薬は,心原性脳塞栓症を除き,TIAを繰り返す患者への長期投与が推奨され,アスピリンとジピリダモール徐放剤の併用が第一選択薬とされている。アスピリン服用患者がTIAを発症した場合には,クロピドグレルまたはアスピリンとジピリダモール併用が一般的に推奨される。アスピリン単独またはアスピリン/ジピリダモール併用に忍容性がない患者に対しては,クロピドグレルが選択肢となるかも知れないが,これはカテゴリー4である。
また,TIAと不安定狭心症もしくは非Q波心筋梗塞(MI)を発症した患者にはアスピリンとクロピドグレルの併用が推奨されている。
TIA既往歴があり,頸動脈内膜剥離術(CEA)を受ける患者には,手術前にアスピリンの投与が推奨されている。
TIAは再発や梗塞に移行する前触れであることから,TIA既往歴のある患者には,適切な診察を実施し,ガイドラインに則った治療を行うことを強く推奨している。
ディスカッション
- 司会
山口 修平 氏
島根大学医学部内科学講座内科学第三教授
日本のガイドラインと抗血小板薬使用の現状
山口 Biller先生から米国のガイドラインについてお話いただきましたので,日本の「脳卒中治療ガイドライン(2004年)」(脳卒中学会ほか5学会の合同ガイドライン)について,脳梗塞慢性期の管理を中心に,豊田先生,ご説明いただけますか。
豊田 はい。わが国のガイドラインでも,アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞などの非心原性脳梗塞の二次予防として,抗血小板薬の投与が推奨されています。最も推奨レベルの高い「グレードA」として挙げられているのは,アスピリンとチクロピジンです。クロピドグレルはガイドラインが発表された後に上市されました。そして日本ではシロスタゾールがあります。本剤は米国では脳梗塞治療薬としては使われていませんが,日本のガイドラインでは「グレードB」として位置付けられています。一方,心原性脳塞栓症の再発予防においては,抗凝固薬が第一選択とされています。
山口 米国,日本ともアスピリンとチクロピジンまたはクロピドグレルがあり,そして,ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤としては米国ではジピリダモール,日本ではシロスタゾールが処方されているということですね。
脳梗塞再発予防で評価が確立しているのはアスピリン
山口 ガイドラインではこのような提唱がされているわけですが,実際の臨床における抗血小板薬の使用についてはいかがですか。
長田 抗血小板薬の使い方は診療科によって違いがあるように思います。神経内科ではアスピリンやシロスタゾールが最初に投与されることが多く,脳外科ではチクロピジンが多く使われているような印象があります。また,ハイリスクの患者さんに対してはクロピドグレルが投与される傾向にあるようです。
長尾 私は,原則的には全例アスピリンの適応を検討し,危険因子に応じて他剤を用います。
豊田 私はいずれの抗血小板薬も使用しますが,ただ,やはりエビデンスが確立している安心感と低価格であることから,アスピリンで開始することがもっとも多いです。また,急性期の脳梗塞に有用性が示されている経口抗血小板薬はアスピリンだけですね。
長田先生や長尾先生にもご参加頂き2003年から2年間行った共同研究においても,抗血栓薬内服患者4,000例の対象のうち7割がアスピリンを服用していました。
エビデンスの解釈は絶対リスクやNNTを踏まえて慎重に
長尾 高リスク患者においてアスピリンとクロピドグレルを比較したCAPRIE試験では,クロピドグレルのイベント抑制効果がアスピリンに比べてわずかですが有意に優れるとの報告がされました。日本では昨年から使用可能になりましたが,米国においてクロピドグレルは長い使用経験があります。CAPRIE試験の結果も含め,現在米国でクロピドグレルはどのように評価されているのですか。
Biller 確かにCAPRIE試験では,クロピドグレルのイベント抑制効果がアスピリンよりわずかに優れるという結果でしたが,その解釈には注意が必要です。
本試験では,対象患者として脳梗塞,心筋梗塞,および閉塞性末梢血管疾患(PAD)既往患者が含まれています。脳梗塞と心筋梗塞の既往患者ではアスピリンとクロピドグレルの効果に有意差は認められませんでした。一方,PAD患者群ではクロピドグレルが有意に優れており,この結果が全体の結果に影響を及ぼしたことがわかります。
さらに全体として,クロピドグレルのアスピリンに対する相対リスク低下率は8.7%とされていますが,絶対リスクで見るとその差は1%未満,1年当たりのNNT(numberneededtotreat:1人の治療効果を期待するために処方を要する人数)は222でした。つまり両剤の治療効果の差はきわめて小さなものであることがわかります。薬剤の選択に当たっては,この点を正しく理解し,むしろ安全性やコスト面をも考慮した総合的判断が重要であることをあらためて認識する必要があります。
長田 CAPRIE試験のサブ解析から,糖尿病や虚血性心疾患を有する高リスク患者では,クロピドグレルとアスピリンの治療効果の差が大きくなると言われていますが,この点についてはいかがですか。例えば高リスク患者はクロピドグレル,低リスク患者はアスピリンといったような,危険因子による層別化は可能でしょうか。
Biller CAPRIE試験では高度の頸動脈狭窄例や,TIAまたは脳梗塞発症後24〜48時間以内の患者など,超高リスクの患者は除外されていますので,同試験の結果をもとに,高リスク患者に対してクロピドグレルが適当かどうかの判断はできません。
山口 そういたしますと,リスクレベルに応じた選択についてはまだ明快なエビデンスはないということですね。
Biller その通りです。いずれの患者でもアスピリンを第一選択薬とします。
アスピリン効果不十分例では,まず心原性塞栓と薬剤相互作用の可能性を疑う
山口 では,アスピリンを単独で服用している患者が脳梗塞を再発した場合は,次にどのような治療手段を取るべきでしょうか。
豊田 他の薬剤へ処方を変更する場合もありますが,アスピリンを100mgから200mgに増量して6か月〜1年経過をみる場合も多いです。もちろん,症例ごとに判断し,その患者さんにとって最も有効であろうと考えられる対策を講じます。
長田 私の施設ではアスピリンにチクロピジンまたはシロスタゾールを併用する場合も多いです。それでも不十分なときは高血圧,高脂血症など,血小板以外の危険因子をより厳格に管理します。
山口 薬剤を変更するか併用療法にするか,それぞれに異なるようですね。Biller先生はいかがでしょうか。
Biller アスピリンの服用にもかかわらず再発した例についてはその真の原因をよく検討する必要があります。まず,心原性塞栓である可能性を疑い,これが原因と考えられる場合は抗凝固薬に変更します。また,他の薬剤との相互作用も疑います。イブプロフェンなどのCOX阻害薬はアスピリンの効果を減弱する可能性があります。そのような場合は,アスピリンの効果減弱を招く薬剤の服用中止を考慮しなければなりません。以上を検討したうえで,初めて他の薬剤への切り替えを考慮します。
抗血小板薬の併用は慎重に
山口 続いて併用療法について伺います。米国では,心臓疾患にアスピリンとクロピドグレルの併用療法が行われるようですが,脳梗塞既往例においてはいかがですか。
Biller アスピリンとクロピドグレルの併用療法を検討した最近の試験では,併用によって出血リスクが増大することが示されています。このため私は,非Q波MIやステント留置例を除き,TIAや脳梗塞の患者に両者の併用を行うことには危惧を覚えます。抗血小板薬同士の併用よりもむしろ,高血圧,高脂血症,高血糖などの危険因子を管理するほうを考慮します。
長尾 米国では保険適応がありませんが,私は高リスク患者に対しては,シロスタゾールを処方します。
長田 ジピリダモールは使用経験がありませんが,海外の成績をみると頭痛の発現が多いようですね。
Biller 程度の差はあるでしょうが頭痛は,PDE阻害薬全体にみられる問題です。先に低用量アスピリンから投与を開始し,その後,PDE阻害薬を低用量から開始して,徐々に増量するなどの工夫により,解決できる場合が多いようです。
抗血小板薬とともに他の危険因子の多角管理が重要
山口 先ほど他の危険因子の管理が重要というお話がありましたが,スタチンは,脳卒中再発予防効果を検討したSPARCL試験でわずかながら出血リスクの増加が報告されています。この点への危惧はありませんか。
長田 同試験のサブ解析によると,出血は,もともと出血の既往がある患者や血圧管理が不良な患者に多く発生していますので,この点に注意して管理する必要がありますね。ただ,本試験ではコレステロール値が通常の目標値以下に管理されました。このようなアグレッシブな治療が必要かどうか疑問ですが。
長尾 私は,初回のTIAや脳梗塞を起こした時点から,危険因子の管理を厳しく指導し,そのうえで抗血小板療法を行っています。したがって,すでに管理目標値に到達している患者に対して,更に低下させるとなると正直躊躇します。たとえばコレステロール低下薬や降圧薬においても,その効果が単に血圧や脂質の低下によるものだけでなく,抗炎症作用などの多面的効果が影響している可能性も考えられるからです。
山口 なるほど,どうもありがとうございました。本日のお話を踏まえ,日米のガイドラインが推奨する通り,エビデンス,コストの面からみても,脳梗塞治療の基本はアスピリンであり,またこれに加えて,高血圧,高脂血症,糖尿病などの危険因子の管理が不可欠であることを再認識できたと思います。また,併用療法など,今後解決すべき課題があることも認識しました。本日はありがとうございました。















