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[2007年8月2日 (VOL.40 NO.31) p.30]

特別企画

対談 2007年3月15日 新神戸ポートピアホテル

経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後のアスピリンの役割

Sidney C. Smith Jr.
Professor of Medicine Director,
Center for Cardiovascular Science and Medicine
The University of North Carolina at Chapel Hill
Chapel Hill, North Carolina
梶谷 定志
兵庫県立姫路循環器病センター
副院長・救命救急センター長・
循環器科部長

 脳・心血管イベントの二次予防における抗血小板療法の重要性は周知の通りで,世界各国のガイドラインが,低用量アスピリンの継続投与を推奨している。また冠動脈ステント留置後の脳・心血管イベント抑制には,ベースドラッグとしてのアスピリンとチエノピリジン系抗血小板薬の2剤併用療法が有用であり,2006年に改訂された米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)の二次予防ガイドラインにおいては,ステント留置後の併用療法の継続が推奨されている。しかし診療の現場では,併用療法の早すぎる中止によりステント血栓を招いてしまうケースがある。今回は,AHA/ACCの2006年版二次予防ガイドライン作成委員長であるSidney C Smith Jr.氏と,兵庫県立姫路循環器病センター副院長の梶谷定志氏に,経皮的冠動脈インターベンション(PCI)によるステント留置後の抗血小板療法の在り方について話し合っていただいた。

ステント留置例にアスピリンは
必要不可欠なベースドラッグ

図1 表1

梶谷 本日は,AHA/ACCの2006年版二次予防ガイドラインの作成委員長を務められたSmith Jr.先生に,特にステント留置後のアスピリン療法について,お話を伺っていきたいと思います。Smith Jr.先生は,ノースカロライナ大学の教授でいらっしゃいますが,国際的な民間開発協力団体(NGO)であるWorld Heart Federation(WHF)の学術諮問委員長も務められており,世界の脳・心血管イベントの予防・管理向上のために尽力されています。日本を含む世界の医療状況に高い見識を持っておられるわけですが,初めにAHA/ACCの新しい二次予防ガイドラインについて,簡単に解説していただけますか。

Smith Jr. アスピリンを中心とする抗血小板療法が,脳・心血管イベントの二次予防に有効であることは,すでに多くのエビデンスが明らかにしています(図1)。
特にアスピリンは強力な抗血小板作用を有し,臨床での有用性も高く評価されているため,2006年版のAHA/ACC二次予防ガイドラインでも,すべての患者に対し75〜162mg/日の低用量アスピリンの継続投与を奨励しています。
 PCIでステント留置をした患者では血小板凝集能が非常に亢進するため,アスピリンをベースにチエノピリジン系抗血小板薬を併用することを勧めています(表1)。アスピリンとチエノピリジン系薬剤の併用療法に関しては,近年いくつかの臨床試験が実施されてきました。これまでの知見では併用療法により,より高い効果が得られると考えられてきましたが,最近幅広い患者群に関しては併用による付加的効果は認められず,むしろ出血リスクが高まることが報告されました。
 したがって,どのような病態,患者群において真に併用療法が有益かについて,現在でも活発な議論が行われています。
 ガイドラインでは,急性冠症候群の患者およびステントを留置したPCI後の患者に限り,アスピリンの併用療法を極力1年間継続するよう勧告しています。またステント留置例に対してはアスピリンを低用量でなく325mg/日で開始することとしています。
 併用療法についてはまだ議論のあるところではありますが,われわれは,ステント血栓症に対する懸念と,米国食品医薬品局(FDA)が適応承認する際にレビューしたステント留置例に対する臨床試験,さらに最新のエビデンスを極力反映して,現時点ではこのような指針内容が妥当と判断しました。

DESはもちろんBMSも
1年間の併用療法継続が理想

梶谷 アスピリンが抗血小板療法のベースドラッグとして非常に重要な位置付けであることがわかりました。では,冠動脈ステントについて詳細にお話を伺いたいと思います。まず,金属ステント(BMS)と薬剤溶出ステント(DES)の利点と欠点についてご説明いただけますか。
Smith Jr. BMSはバルーン法と比べれば,PCI後の再狭窄を大幅に軽減できますが,ある程度の確率でステント閉塞が生じてしまいます。その対策として,ステント周囲の組織増殖を抑制するシロリムスやパクリタキセルを溶出するDESが開発されました。確かにDESは組織増殖を抑えて,BMSに比べステント内狭窄は生じにくいのですが,逆に溶出した薬剤が周辺の組織増殖を抑えてしまうためにステントの内皮化が進まず,遅発性のステント血栓症を念頭におく必要があります。ですからDESを選択した場合は,BMSよりむしろ長期間の併用療法が必要となると考えられます。

梶谷 なるほど。それではそれぞれのステントに関して,まずはBMSの具体的な併用期間についてご説明いただけますか。

Smith Jr. ガイドラインではBMSの場合,最低1か月は併用が必要としました。これは1か月以上続けるか否かで結果が大きく異なるためです。

梶谷 それはBMS留置後1か月程度でステントが内皮化され,血小板凝集能の亢進が沈静化するためでしょうか。

Smith Jr. 一般的には,そう考えられるのですが,万全を期す意味で私は,併用療法を1年間続けるのが理想と考えています。

梶谷 そうすると,ステントの内皮化が遅いDESの場合は,併用療法を1年間継続することがより重要な意味を持つわけですね。

Smith Jr. その通りです。DESでも,3〜6か月という最低継続期間を設けてはありますが,禁忌でない限りは1年間継続すべきです。DESではステント留置後30日〜1年の間に現れる遅発性ステント血栓症に注意が必要です。実際,抗血小板治療法を早期に中止したDES留置例の心血管死亡リスクがBMS留置例より高いことが報告されています。抗血小板薬の併用療法が長期間必要となるのは,そのためです。

梶谷 ところで,併用期間は1年間で十分なのでしょうか。

Smith Jr. 残念ながら現時点では,はっきりしたことはわかりません。ただ,米国ではステント留置例の約90%にDESが使われていることもあり,私自身は,患者に出血の問題がなく経済的に可能であれば,1年後以降も低用量アスピリンをベースとした併用療法を続けるように勧めています。そしてBMS,DES,いずれのステントであっても,併用期間終了後は,アスピリン単独療法を無期限に継続すべきであることは言うまでもありません。
 欧州のDES留置率は45%と低いのですが,日本ではどのくらいですか。

梶谷 私の印象ではおよそ70%強だと思います。

Smith Jr. 米国に近い状況ですね。日本の先生方も同様の課題に直面されていると思います。

ステント留置後の併用療法の
早期中止は回避すべき

表2

Smith Jr. これまで述べてきましたように,ステント留置後は,DESはもちろんBMSにおいても併用療法を1年間継続するのが理想なのですが,実際には短期間で併用を中止してしまうケースが少なくありません。
 このような状況を受け,2007年に入り,AHA/ACC/心血管造影・インターベンション学会(SCAI)/米国外科学会(ACS)/米国歯科学会(ADA)の学術諮問委員会は,「ステント留置例に対する併用療法の早期中止を回避すべき」とするステートメントを発表しました。このステートメントでは,(1)抗血小板薬の2剤併用療法は禁忌がない限り12か月継続する,(2)患者および医療従事者に併用療法を早期中断することの弊害を教育する,(3)待機的外科手術はステント留置後1年以降まで待つ,(4)DES留置例において待機的外科手術を延期できない場合は,周術期のアスピリン投与の継続を考慮することが強調されています(表2)。
 DES留置例の手術時には,併用療法はやめてもアスピリンだけは継続することがきわめて重要です。
 このようにステント留置後の脳・心血管イベントの抑制に併用療法は有効なのですが,臨床現場への浸透はまだ十分ではありません。そこで,全米400以上の病院で進められているAHAの入院患者に対するガイドライン遵守推進プログラム(AHA GWTG Program)とも協力し,今後,併用療法の推進に努めていく予定です。また中国においても同様のプログラム“Bridging the Gap on CHD Secondary Prevention(BRIG)”が,63施設の6,000例を超える患者を対象に進められており,その成果に期待しているところです。繰り返しになりますが,脳・心血管イベントの二次予防戦略の柱はアスピリンを中心とした抗血小板療法です。

大血管を含む手術では休薬し,
術後数日空けてアスピリンを再開

梶谷 われわれはしばしばステントを留置した患者が外科治療を受けるケースに出遭います。このようなときには,すべての抗血小板療法を中止しなくてはならないのでしょうか。

Smith Jr. それはステントの種類と,外科治療のタイプによって異なります。例えばBMSを埋め込んだ患者に出血リスクの高い手術を行う場合には,すべての抗血小板薬を中止せざるを得ないでしょう。

梶谷 例えば抜歯手術や眼科手術の時はいかがでしょうか。

Smith Jr. 抜歯手術の場合は抗血小板薬を継続すべきです。ただ,かなり深部の切開に至る場合は,アスピリン以外の抗血小板薬の継続については注意が必要です。
 眼科手術の場合もアスピリンの継続は問題ありませんが,出血リスクを考え,併用療法は中止します。もちろんこの点を,事前に眼科医とよく話し合う必要がありますね。

梶谷 判断の難しいところがあると思いますが,まとめると大血管を含む手術の場合には,すべての抗血小板薬を一時中止し,それ以外の比較的出血リスクの低い手術の場合は少なくともアスピリンは極力継続すべきだということですね。

Smith Jr. その通りです。

梶谷 抗血小板薬を中止した場合,その後どの段階で抗血小板療法を再開したらよいのでしょうか。

Smith Jr. 私は術後数日置いてから,外科医と相談して再開の是非を判断しています。出血の問題がなく,患者の病態が安定していれば,通常,アスピリンの低用量から再スタートします。いきなり手術前の治療用量で再開することはありません。

梶谷 よくわかりました。本日は有意義なお話をいただき,どうもありがとうございました。

本ページはバイエル薬品株式会社の提供です

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