特別企画
第71回日本循環器学会総会・学術集会ファイアサイドセミナー
2007年3月16日(金)神戸ポートピアホテル
糖尿病患者の脳・心血管イベント予防戦略
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| 小川 久雄 氏 | 湊口 信也 氏 | 島袋 充生 氏 |
とどまることのない糖尿病の増加に,脳・心血管イベント増大の危機感が高まっている。このような中,種々の研究によりそのイベント発症に深く関与しているのが食後高血糖といわれている。糖尿病の脳・心血管イベント発症の鍵を握る血管内皮機能障害は,食後高血糖のみを呈する早期の段階ですでに生じている。本セミナーでは動物実験において,α-グルコシダーゼ阻害薬による食後高血糖の改善が,心筋梗塞サイズ縮小に影響を及ぼすことなどが紹介され,食後高血糖治療の重要性が強調されるとともに,アスピリンによる抗血小板治療をはじめとする積極的なマルチリスク管理の重要性が指摘された。
- 小川 久雄 氏(座長) 熊本大学大学院医学薬学研究部循環器病態学教授
- 湊口 信也 氏 岐阜大学大学院医学研究科循環病態学教授
- 島袋 充生 氏 琉球大学医学部第2内科講師
講演1
Ischemic Preconditioningによる心筋保護への期待
- 湊口 信也 氏 岐阜大学大学院医学研究科循環病態学教授
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| 図1 | 図2 |
Ischemic Preconditioning(PC)とは短時間の虚血,再灌流ないしその反復が,続発する持続性虚血による心筋梗塞に対し,保護的に作用する効果である。(図1)1986年に,Murryらがイヌの心臓で短時間の反復虚血が心筋梗塞サイズを縮小することを報告して以来,ヒトにもこのPC効果が存在すること,単回の短時間虚血でもPC効果が出現することなどが明らかとなり,世界中でその臨床応用を目指したメカニズムの解明が進められてきた。そして,そのような研究をとおし浮上してきたのが,α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)による虚血心筋保護作用の可能性である。湊口氏は,α-GIのアカルボースに関する自身の最新研究結果を紹介し,同薬が食後高血糖の抑制と虚血心筋保護作用の両面で有益な作用をもたらす可能性を指摘した。
湊口氏によると,現時点でPC誘導のメディエータとしては,アデノシン,ブラジキニン,ノルアドレナリン,アンジオテンシンII,オピオイド,フリーラジカル,プロテインキナーゼC(PKC)活性化,ATP感受性カリウム(KATP)チャネル開口,ミトコンドリアKATPチャネル開口などが挙げられている(図2)。しかし,血圧上昇,低下などの血行動態上の制限などにより,このうち,現在臨床応用されているのは,KATPチャネル開口薬のニコランジルのみである。
これらの一方で,PCでは,血中のATP保持と同時に,乳酸蓄積抑制,H+蓄積抑制がもたらされることがわかっており,そのメカニズムとして嫌気的糖代謝の抑制が考えられている。実際にイヌの心臓に持続性虚血を与えると,嫌気的糖代謝が亢進し,グリコーゲン分解や乳酸蓄積が生じるが,PCではその程度が抑制されることが報告されている。
そこで湊口氏らは,「虚血中のグリコーゲン分解を薬理学的に抑制すれば,虚血心筋保護効果が得られるのではないか」との仮定を立て,嫌気的糖代謝抑制作用を有するα-GIの虚血心筋保護効果研究に取り組んでいる。
心筋梗塞サイズに対するアカルボースの影響を検討
アカルボースの2型糖尿病患者における大規模臨床試験において,著明な心筋梗塞抑制効果が確認されたことから,「その強力な心血管イベント抑制効果の背景には虚血心筋保護効果があるのではないか」と,湊口氏らは考えた。
ウサギ・モデルにおいて,虚血前にアカルボースを投与すると,虚血後の心筋梗塞サイズが有意に縮小するということが示されている。この梗塞サイズはミトコンドリアKATPチャネルブロッカーである5-hydroxydecanoateにより抑制されるということから,アカルボースはミトコンドリアKATPチャネルをダイレクトに開口させることで,梗塞サイズを縮小させる可能性があることが示唆される。
アカルボースは摂食後の血糖上昇を有意に抑制しており,「これらの結果から,アカルボースは,冠動脈疾患合併の高リスク群である糖尿病患者に対し,食後高血糖の改善だけでなく虚血心筋保護ももたらす有益な治療法となりうる」と,湊口氏は期待をよせた。
講演2
高血糖スパイクによる血管内皮障害:治療のターゲット
- 島袋 充生 氏 琉球大学医学部第2内科 講師
長寿の島として世界的に知られる沖縄県に,2000年,男性の平均寿命が全国26位に転落するという異変が起きた。その大きな要因を占めているのが,中高年男性における脳・心血管イベントの増加であるといわれている。戦後,全国に先駆けて食生活の欧米化が進んだ沖縄の現状は,未来の日本全体の姿だと考えられる。島袋氏は,今後,全国的な広がりが予想される「脳・心血管イベントの増加と寿命の低下の傾向」に歯止めをかけるには,「食後高血糖による血管内皮障害の改善」と,「重積するマルチリスクの積極的改善」が有効であることを強調した。
食後高血糖は脳・心血管イベントの予測因子
沖縄県における中高齢男性の脳・心血管イベント増加の一因として,メタボリックシンドロームの増加と若年化が考えられる。
「特に,食後高血糖は脳・心血管イベントの重大な予測因子であり,できるだけ早期に見つけ介入すべきである」と,境界型の耐糖能異常(食後高血糖)も見据えた脳・心血管イベント予防の必要性を訴えた。
ドイツのDiabetes Intervention Studyにおいて,空腹時血糖のコントロールが良好でも,食後血糖のコントロールが不良だと,心筋梗塞発症率が約3倍に増大することが報告されるなど,食後高血糖は,脳・心血管イベントの重大なリスクファクターとして認識されており,空腹時血糖のみでの診断では不十分であると考えられる。
食後高血糖の改善が血管内皮機能を保護して脳・心血管イベントの抑制導く
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| 図3 |
脳・心血管イベント増大の主因と考えられるのは,血糖の変動や重責リスクファクターによる血管内皮機能障害である。島袋氏の研究では,食後高血糖を有する例では,糖尿病と同様の血管内皮機能障害が存在することが確認されている。
また,島袋氏は,糖尿病患者における食後の血管内皮機能障害が,α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)であるアカルボースにより改善したことも報告している(図3)。さらにアカルボースは2型糖尿病患者で,脳・心血管イベントの発症を抑制することも報告されている。以上のことからアカルボースによる食後血糖値の低下が,血管内皮機能の保護ひいては脳・心血管イベントの抑制をもたらすと考えられる。
もうひとつの鍵は,高血圧,高脂血症,血栓形成など重積するリスクの積極改善
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| 図4 |
このように食後高血糖の改善は非常に重要だが,同時に,脳・心血管イベントの抑制にとって不可欠なのが,重積するリスクファクター(マルチプルリスク)の是正だ。Steno-2スタディでは,「高血圧,糖尿病,高コレステロール血症,高トリグリセライド血症の治療,および脂肪摂取量の抑制,アスピリン投与による血栓形成リスクの低減」という多面的なリスク管理により,2型糖尿病患者の脳・心血管イベントが半減した。
また急性心筋梗塞既往の入院患者2万5,633例を対象にした大規模コホート研究では,各種の治療的介入により1年間の死亡リスクが大幅に低下すること,なかでもアスピリンが強力な死亡抑制効果を示すことが明らかにされている。アスピリン投与による糖尿病患者の1年死亡リスク(ハザード比)は0.50,非糖尿病患者では0.57であり,糖尿病,非糖尿病患者共に死亡リスクを減らしている(図4)。これらから島袋氏は,「リスクの重積がみられる患者には,それらひとつひとつに対するマルチプルなリスク管理が望まれる」と,アスピリンをはじめとする積極的介入の重要性を強調した。















