特別企画
第32回日本脳卒中学会総会イブニングセミナー
臨床現場におけるアスピリン療法の実際
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- 座長
- 池田 康夫 氏 慶應義塾大学内科学教授
わが国でも近年,脳卒中における脳梗塞の割合が増し,その対策が急務となっている。
先ごろ福岡市で開催された第32回日本脳卒中学会総会イブニングセミナー「臨床現場におけるアスピリン療法の実際」(座長:慶應義塾大学内科学教授・池田康夫氏)では,日米の脳卒中領域をリードする2氏が,現場の医師・歯科医師が判断に迷う観血的医学処置時の休薬の問題,ならびに脳梗塞抑制を目指した適切な抗血栓療法の在り方について解説,フロアの注目を浴びた。
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講演1
観血的医学処置時のアスピリン休薬と
イベント発症リスク
- 矢坂 正弘 氏
独立行政法人 国立病院機構 九州医療センター
脳血管センター 脳血管内科科長
抗血小板薬は、脳梗塞/TIA既往患者の治療に欠かせないが,これらを服用している患者が抜歯や内視鏡治療などの処置を受ける際,治療を継続すべきか否か臨床家が判断に迷うところである。矢坂氏は,医師・歯科医師を対象に観血的処置時の対応について調査した全国アンケート結果を紹介した。
脳梗塞/TIAの再発リスクを22%減少するアスピリン
脳梗塞/TIAの再発予防において,抗血小板療法は治療の要となる。なかでもアスピリンは,多くの大規模臨床試験で心筋梗塞・脳梗塞の再発予防効果が証明されている。国際共同研究ATTでは,アスピリンは動脈硬化性疾患の高リスク患者の脳・心血管イベントの発症リスクをおよそ20〜30%有意に低下させ得ることが示されている。これは他の危険因子,すなわち血圧や脂質などの管理によるイベント抑制効果に匹敵する効果であるが,個々のリスクを別々に考えるのではなく,総合的に管理することが重要である。
アスピリン中止により脳梗塞のリスクが3.4倍に増大
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| 表1 |
一方でアスピリンの服用中止によるイベント発症リスクに関する成績が複数報告されている。
心筋梗塞・脳梗塞の既往例において,アスピリンを服用しなかった場合には服用した場合に比べて3年後の再発リスクが約20%高まるという。また,別の報告では急性冠症候群の患者において,アスピリン服用中止例と継続例でのイベントを検討したところ,服用中止例ではST上昇型,すなわち重症例が有意に多いことが確認されている。
一方,脳梗塞/TIA既往例での検討においてもアスピリンの中止により脳梗塞の発症リスクが3.4倍増大することが示されている(表1)。
抜歯・白内障手術は抗血栓療法継続下で可能
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| 図1 |
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| 表2 |
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| 表3 |
このようにアスピリンの服薬中止はイベント発症リスクを高める。では患者が観血的処置を受ける際,実際の臨床現場ではどのような対応が行われているのだろうか。矢坂氏は,日本脳卒中協会福岡県支部の2006年度事業として,全国多施設共同脳梗塞登録調査J-MUSIC(Japan Multicenter Stroke Investigators' Collaboration)参加医(脳卒中専門医72%),国立病院機構勤務医(同27%),歯科医師を対象に実施した全国調査の成績を報告した。
それによると,抜歯時での抗血小板療法の対応として,国立病院機構の医師群38%に対しJ-MUSIC群では69%が治療を継続していると回答した。循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドラインでは「抜歯は抗血小板薬の内服継続下での施行が望ましい」と記載されており,脳卒中専門医はこれを認知していると推察される(図1)。一方,歯科医師側の調査では,抗血栓療法継続下の抜歯について,ワルファリンで53%,抗血小板療法で60%の医師がこれを受け入れると回答している(表2)。ここで矢坂氏は,服薬中止時に脳梗塞の再発を経験した歯科医師が少ないことを指摘。同氏によれば,イベント再発は薬剤休薬期間後,服薬を再開した数日後に起こりやすく,歯科医師の立ち会っていないところで起こっている場合が多いという。
イベント再発リスクを最小限にとどめるためには,医師・歯科医師の連携が重要であり,共通の認識を持って抗血栓療法継続下での抜歯に取り組む必要性を強調した。
白内障の手術時の対応についても抜歯時の結果と類似していた。
一方,内視鏡手術については,両群とも生検,ポリペクトミーにかかわらず,約6割が抗血栓療法を中止していた。日本消化器内視鏡学会の「消化器内視鏡ガイドライン第3版」によれば,ワルファリンは内視鏡施行の3〜4日前に中止し,INR(International normalized ratio)がほぼ1.5であることを確認したうえで手技を行い,高リスク群ではヘパリンを考慮することとなっている。また,アスピリンは3日前(チクロピジン併用時は7日前)に中止するが,術後止血が確認されれば速やかに再開することと記載されている。
矢坂氏は,抗血栓療法継続下で対応が可能なのは抜歯と白内障手術であり,内視鏡やペースメーカーの植え込みでは服用を中止せざるを得ないが,休薬期間は必要最短にする努力が必要であるとまとめ(表3),アスピリンは脳・心血管イベントの再発予防薬の要であり,安易な中止は危険であることをあらためて強調した。
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講演2
A Clinician's Reflection
in the Use of Aspirin in Cerebral Ischemia
- José Biller 氏
Department of Neurology,Loyola University Chicago
Stritch School of Medicine
米国の脳卒中治療の第一人者であるBiller氏は,最近のエビデンスを踏まえ,脳梗塞の予防戦略における抗凝固療法,抗血小板療法の要点を概説した。
非心原性脳梗塞の治療に有用なアスピリン
まず,Biller氏は心原性脳塞栓症について解説した。米国では心原性脳塞栓症の原因として,非弁膜性心房細動がほぼ半数を占める。非弁膜性心房細動患者における脳梗塞の発症リスクは年間約5%であるが,ワルファリンにより有意なリスク減少が得られる。
したがって,心原性脳塞栓症には一般にワルファリンが適応となるが,塞栓が心筋梗塞に起因している場合はアスピリンの投与も欠かせない。
では,非心原性脳梗塞の治療についてはどうか。Biller氏は,非心原性脳梗塞既往例を対象にアスピリンとワルファリンを比較した試験WARSSとWASIDを紹介した。WARSSでは1次エンドポイントの「脳卒中再発+死亡」について両群で差は認められなかった。一方,WASIDは頭蓋内動脈狭窄を有する例を対象とした試験である。一般に頭蓋内梗塞の発症は,アジア系住民では22〜26%と高く,両側に生じやすく,女性のリスクが高い特徴がある。再発リスクは年間約15%であるという。
WASIDでは「脳卒中+血管死」の発生率はワルファリン群とアスピリン群間に有意差が認められなかったが,死亡と重大な出血のリスクはアスピリン群で有意に低かった。
これらの成績から,Biller氏は,出血性リスクや利便性を総合すると「非心原性脳梗塞に対しては,アスピリンを中心とした抗血小板療法が治療の基本である」との見解を示した。
アスピリンは脳梗塞急性期から慢性期まで有用
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| 図2 |
脳卒中再発予防における抗血小板療法については,米国ではアスピリン,アスピリン+徐放性ジピリダモール,クロピドグレルが推奨されている。このなかで唯一アスピリンだけが,脳梗塞慢性期のみならず急性期のエビデンスも有する。
脳梗塞発症48時間以内の急性期のアスピリン投与については,2つの大規模臨床試験,ISTとCASTでその有用性が確認された。高リスクの急性期において,2ないし4週間の投与で患者1,000例当たり約10例の再発または死亡を減少させたというアスピリンの治療効果は処方意義が大きいと言える。
ATT(Antithrombotic Trialists' Collaboration)メタ解析では,アスピリンをはじめとする抗血小板薬が,基盤となる心血管疾患の種類にかかわらず,一貫して脳・心血管イベントの抑制に有効であることが証明されている(図2)。
なお,近年アスピリンを服用しているにもかかわらずイベントを再発する場合を“Aspirin Failure”と称して問題とされている。これに対しBiller氏は,まず患者の病型が心原性脳塞栓ではないか,またイブプロフェンのような高用量の非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を服用していないかどうか確認する必要があると注意を促した。イブプロフェンは相互作用によりアスピリンの効果を減弱する可能性がある。
抗血小板薬の併用は慎重に
次に,Biller氏はアスピリンとクロピドグレルのイベント抑制効果を比較したCAPRIEを示した。本試験では,クロピドグレルの効果がアスピリンに比べわずかに優れることが示されたが,解釈には注意を要すると同氏は述べる。両剤の絶対リスク差は2年間で0.9%,NNT(1例の治療効果を期待するために処方を要する人数)は222であった。すなわち両剤の治療効果の差はきわめて小さく,薬剤選択にあたっては,むしろコストや副作用を全般的に考慮する必要があると指摘した。
一方,アスピリンとクロピドグレルの併用療法については,出血性リスクが増大するとの結果が相次いで報告されている。このため両者の併用は,ステント留置例など対象疾患を限り,慎重に投与すべきという。
脳梗塞の危険因子是正のポイント“ABCDE”
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| 図3 | 表4 |
最後にBiller氏は,各種危険因子の管理によって脳卒中患者数が大幅に減少できるとの推計を紹介した(図3)。「脳梗塞の抑制には,抗血小板薬または抗凝固薬による適切な抗血栓療法に加えて,高血圧,高脂血症の治療,禁煙,アルコール摂取の減量など,危険因子の是正,心房細動の適切な管理が不可欠であることを念頭に置く必要がある」と述べ,脳梗塞対策の重要ポイントとして,“ABCDE”のコンセプトを披露した(表4)。











