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[2006年12月21日 (VOL.39 NO.51) p.101]

特別企画

第59回日本胸部外科学会定期学術集会ランチョンセミナー

心臓血管外科における
抗血栓療法の現状と課題

M. L. Jacobs氏 新岡俊治氏

 第59回日本胸部外科学会定期学術集会(会長:東京大学大学院心臓外科学・呼吸器外科学教授・高本眞一氏)において,ランチョンセミナー「Aspirin Treatment in Heart Surgery」が開催された。米国ペンシルベニア州フィラデルフィアで,ドレクセル大学教授と聖クリストファー小児病院小児心臓センター外科部長を兼務するMarshall L. Jacobs氏が講演。成人の冠動脈バイパス術(CABG)例に対するアスピリン療法の有用性を評価したうえで,小児のフォンタン手術後の抗血栓療法の重要性と方向性を解説した。座長は,東京女子医科大学心臓血管外科・心臓血管再生医療分野大学院教授の新岡俊治氏が務めた。
演 者
米国・ドレクセル大学 心臓胸部外科学教授
Marshall L. Jacobs氏
座 長
東京女子医科大学 心臓血管外科・心臓血管
再生医療分野大学院教授
新岡俊治氏

本記事で紹介する臨床試験・評価は,日本国外で行われたものです。国内において承認外の内容も含まれますので,薬剤ご使用に際しては製品添付文書をご参照ください。

 Jacobs氏は,心臓血管外科領域におけるアスピリンなどの抗血栓薬を用いた治療法について,成人例と小児例に分けて説明した。

成人CABG例へのアスピリン
療法は有用かつ経済的である

 成人例に関しては,症例の蓄積が豊富なため,エビデンスに基づいた診療が比較的容易にできる。例えばアスピリン療法は,多くの臨床試験により,CABG後の脳・心血管イベント抑制に有効であると確認されている。米国心臓協会/米国心臓学会議(AHA/ACC)のガイドラインは,CABG後48時間以内のアスピリン投与を推奨(表 1)。米国胸部疾患学会(ACCP)も,術後6時間からの投与などを勧め,アスピリン療法の有用性を評価している。
表1 表2
 こうしたことは,20年以上前から報告されている。ドイツのLorenzらは1984年,無作為二重盲検臨床試験により,アスピリン(100mg/日)投与がグラフト閉塞・周術期の梗塞などCABG関連の合併症抑制に奏効することを確認した(表 2)。
 米国では今日までに,CABG前からの抗血栓療法の有効性についても,種々の研究で検証されてきた。その結果,CABG例の臨床予後は,適切な抗血栓療法によって一昔前と比べて大幅に改善されている。
 Jacobs氏は「成人のCABG例へのアスピリン療法は,有効性と安全性が立証されているだけでなく,医療経済性に優れる。術後の脳・心血管イベントを予防するのに活用しない手はない」と語った。

フォンタン手術後の血栓
塞栓症の発症機序は不明

 一方,心臓血管手術を要する小児例には,総じて成人例より慎重かつ個別的な診療が求められる。小児心臓外科を専門とするJacobs氏は「小児例の場合,多様な先天性病変が認められる。成人例と異なり,病態の均質性・類似性は見出しがたく,手術機会が少ないため症例蓄積も十分ではない」と説明した。
 そこで同氏は,小児のフォンタン手術例を取り上げた。初めに手術の方法と課題を説き,続いて術後の抗血栓療法の在り方を論じた。
 フォンタン手術は,右室を経由させずに上大静脈と下大静脈を肺動脈に直接つなぎ,静脈血が肺に直接流れるようにする手術である。正常に機能する心室が1つしかない単心室症や三尖弁閉鎖症,左心低形成症候群などを来している小児例・成人例に対し,チアノーゼを解消する機能的根治術として行われている。
 この手術法は,フランスの外科医Francis M. Fontanによって開発された。Jacobs氏によると,その発表当初は手技が複雑であったため,術後の死亡率は30%と高かった。しかし,徐々に術式の改良が進められ,最近の術後死亡率は5%以下となっている。
 その半面,フォンタン手術例は,他の心疾患例に比べて血栓塞栓症を起こしやすいと言われるようになった。その発症機序に関しては,凝固活性の亢進など多くの仮説が提唱されているが,明確になっていない。
 同氏らが2000〜05年の文献を検索したところ,フォンタン手術後の血栓塞栓症の関連研究22件,症例報告8件などの報告が見出された。それらのデータを解析すると,血栓発症率は 3 〜16%,脳梗塞や全身的な動脈塞栓症の発症率は3〜19%であった。血栓塞栓症を来して治療を受けた67例のうち,16例(24%)が死の転帰をたどったことも判明した。
 血栓塞栓症の危険因子としては,年齢・術式・血行動態・開窓術・蛋白喪失性腸症などが指摘されているが,確証は得られていない。同氏は「最近はフォンタン手術例では,他の先天性心疾患例と比べて術後の血小板活性が高くなっているとの報告が注目されている」と述べた。

小児のフォンタン手術後の
抗血栓療法の在り方を模索

 次にJacobs氏は,フォンタン手術後の血栓塞栓症予防に用いる抗血栓薬について見解を示した。現在頻用されているのは抗凝固薬であるが,同氏は「小児例での用量調節は難しく,不測の事態を招きかねない」と懸念し,臨床研究を続けている。
 同氏らは,フォンタン手術後に抗凝固薬を用いず,抗血小板薬を使った小児72例(生後平均26か月)を対象に後ろ向き研究を行った。平均40か月追跡した結果,早期・後期とも死亡例はなく,血栓塞栓イベントの発生例も見られなかった。また,出血イベントや抗血小板薬の使用に伴う合併症の発生も認められなかった。このため,同氏は「抗凝固療法を積極的に勧める根拠はなく,抗血小板療法のほうが有用であることが示唆された。今後検討を重ね,明らかにしていきたい」と結んだ。

本ページはバイエル薬品株式会社の提供です

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