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[2006年9月14日 (VOL.39 NO.37) p.80]

特別企画

第48回日本老年医学会学術集会ランチョンセミナー

高齢化ニッポン: 日本人の健康寿命を延ばすために

司 会
神戸大学大学院
医学系研究科
老年内科学教授
横野浩一氏

 未曾有の高齢化時代を迎えたわが国にとって,これからは実際の寿命の延長以上に,健康で過ごせる「健康寿命」の延長を図ることが重要である。こうしたなか,患者のQOLを大きく損ない,ときには致命的ともなる疾患,糖尿病および脳卒中が増加しつつある。この事実に対し,可及的速やかな対策が求められている。
 先ごろ行われた第48回日本老年医学会学術集会において,糖尿病専門医,脳卒中専門医,それぞれの立場から疾患の現状と課題を総括し,高齢化社会における両疾患の治療のあり方についての提言を行うランチョンセミナー(司会:神戸大学大学院医学系研究科老年内科学教授・横野浩一氏)が開催された。以下にその模様を紹介する。

本記事には国内未承認の内容が含まれています。ご使用にあたっては製品添付文書をご参照ください。

演題1. 糖尿病専門医の立場から
高齢化・肥満化の進む
わが国では食後高血糖の攻略が重要

久留米大学内科学講座心臓・血管内科講師
山岸昌一氏

加齢とともに食後高血糖の頻度が増加

 糖尿病患者の平均余命は,世界に名だたる長寿国であるわが国においても70歳に満たない。よって,日本人の「健康寿命の延長」のためには,糖尿病自体の発症を予防するとともに,糖尿病患者をその最大の死亡原因である心血管疾患から守ることがきわめて重要である。
 この意味において,糖尿病と心血管疾患双方の抑制のかぎを握る存在が,食後高血糖である。食後高血糖は糖尿病への移行リスクが高い「糖尿病予備群」の指標であるのみならず,空腹時高血糖以上に強力な心血管危険因子であることがDECODE試験などにより明らかにされている。
図1
 心血管イベントの成因である大血管障害は,酸化ストレスの亢進に伴う炎症反応や血管内皮機能の障害,血栓傾向の亢進などによって惹起される。食後高血糖は最終糖化産物の生成やポリオール経路の亢進,プロテインキナーゼCの活性化などを介して酸化ストレスの亢進をもたらすことにより,大血管障害の発症・進展を促進すると考えられている。つまり,食後高血糖のみが認められる段階から大血管障害は進行しており,心血管リスクは食後高血糖を是正しない限り回避できないことになる。
 興味深いことに,食後高血糖を呈する頻度は年齢とともに増加し,60歳を超えると,空腹時血糖値は低いが負荷後 2 時間血糖値が高い境界型を示す症例が増加してくる(図 1)。山岸氏は,こうした事実を示し,「高齢化の進行著しい現代ではなおのこと,食後高血糖の正常化を図ることが重要だ」と述べた。

食後高血糖を是正するα-GIは
高齢者にも好ましい糖尿病治療薬

図2
 そのほか,高齢の糖尿病患者には(1)口渇,多飲,多尿などの糖尿病の臨床症状が顕在化しにくい,(2)無自覚性の低血糖を起こしやすい,(3)他の疾患を併存する頻度が高い,といった特徴がみられる。したがって,高齢の糖尿病患者の治療に際しては,低血糖を引き起こすことなく血糖を低下させ,他疾患には悪影響を及ぼさずに食後高血糖を是正する薬剤が望ましいと言える。この要件を満たす薬剤として山岸氏が挙げたのが,α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)である。
 α-GIは,腸管からの糖質の消化・吸収を遅延させることによって,食後高血糖を改善する。過剰なインスリン分泌を伴わないので低血糖を呈する危険性が少ないとされるほか,中性脂肪(TG)の低下作用もあるという。
 耐糖能異常(IGT)を対象に,α-GIであるアカルボースを用いて行われた研究がSTOP-NIDDM試験である。冠動脈の内膜中膜肥厚(IMT)の変化を追跡した検討によると,平均3.9年のアカルボース投与を受けた群のIMT年間進展率は,プラセボ群のほぼ半分に抑制されていた(図2)。
 さらに,心血管イベント抑制というhard endpointに対する検討では,3.3年の追跡で49%ものイベント抑制効果が認められた(p=0.04 Log-Rank検定,p=0.03 Cox比例ハザード解析)。同試験の対象はIGT,すなわち高齢者に多くみられる食後高血糖を呈するコホートであることから,「高齢者に対するアカルボースの有用性が期待できるデータだ」と同氏は述べた。
 また,すでに 2 型糖尿病を発症した患者を対象とした場合も,アカルボースは35%の心血管イベント抑制効果(p=0.0061 Cox比例ハザード解析)を示すほか,高TG血症や肥満,高血圧の有意な改善ももたらすことが,7 つの臨床試験のメタ解析(MeRIA7)において示されている(表)。こうしたことから同氏は,「アカルボースには,近年話題のメタボリックシンドロームに対して是正効果を有する可能性もあるのではないか」と述べ,高齢化に加えて肥満人口の増加という問題も抱えるわが国におけるアカルボースへの期待の高さを示した。

演題2. 脳卒中専門医の立場から
危険因子管理の徹底と血栓対策が脳卒中予防のかぎ

九州大学大学院医学研究院病態機能内科学助教授
井林雪郎氏

アテローム血栓症の増加と
高齢化に伴い脳卒中も増加か

図1 図2
 わが国における脳卒中の発症率および死亡率は,高血圧治療の進歩と栄養状態の改善により,ここ半世紀の間に大きく改善された。しかし,井林氏によれば,脳卒中の前途は決して明るくないという。
 その理由として同氏は,アテローム血栓症に起因する脈管病が今後,日本で増加することを指摘した。アテローム血栓症とは,「全身の動脈のアテローム硬化性病変を基盤とする疾患」とみなす考え方である。これまで,冠動脈疾患,脳血管疾患,末梢動脈疾患はそれぞれ独立した疾患として捉えられてきたが,アテローム血栓は心臓や脳血管などにおいて互いに高率に併存することから,同一の基盤に立脚した病態とみなすほうが自然で,解りやすい(図 1)。
 アテローム血栓症は生活習慣病の「成れの果て」であり,高齢化社会の到来や生活習慣の欧米化(悪化)により,今後さらに増加が見込まれている。なかでも,脳血管疾患は高齢化に伴いいっそうの増加が予想される。実際,脳卒中による入院比率は,健康寿命である70歳代前後から右肩上がりに急増している(図 2)。高血圧などの生活習慣病や心疾患の多くは通院加療ですむのに対し,脳卒中は入院率が高く後遺障害が高度な場合には患者QOLに及ぼす影響も大きいことから,その増加は社会的にみても憂慮すべき問題である,と同氏は強調した。

危険因子の多くは管理不十分

 脳卒中には加齢以外にも生活習慣に根ざす危険因子が数多く起因し,それらのほとんどは人為的なコントロールが可能である。例えば,降圧薬による適切な血圧管理がなされれば,脳卒中の相対リスクはおおむね数十%も低下することが種々の大規模臨床試験により明らかになった。特に,Ca拮抗薬とレニン‐アンジオテンシン系阻害薬については,降圧を超えた抗動脈硬化作用の関与が示唆されている。
 また,糖・脂質代謝の改善や禁煙も重要な要素である。しかし,現実にこれらの危険因子が適切に管理されている割合は,高血圧では 8 人に1 人,糖尿病では20人に 3人ときわめて低い。これらの管理の徹底が今後の重要な課題である。

心原性脳塞栓症の予防にはワルファリン,
非心原性脳梗塞にはアスピリンが第一選択

図3
 脳梗塞の予防において忘れてはならない重要な要素は,血栓への対策で,その中心となるのが,アスピリンに代表される抗血小板薬と抗凝固薬ワルファリンである。両者を使い分けるポイントとして,井林氏は,非弁膜症性心房細動のリスクの正しい評価を挙げた。
 周知のように,心房細動は心原性脳塞栓症の第一原因であり,心房細動を呈する患者が脳塞栓症を発症する確率は 1 年あたり約 5 %と報告されている。久山町研究によると,心房細動の有病率は年齢とともに増加し,70歳以上の人口では約10%に一過性を含む心房細動が認められるという(図3)。こうしたことから日本循環器病学会では,心房細動のハイリスク患者および75歳を超える超高齢者における心原性脳塞栓症予防,ならびに心原性脳塞栓症の二次予防にワルファリンによる抗血栓療法を行うことを推奨している。
 一方,非心原性脳梗塞に対する再発予防策としては,抗血小板薬の有用性を示すエビデンスが数多く示されており,日本脳卒中学会のガイドラインでも「グレードA」の事項として抗血小板薬の使用を推奨している(表)。抗血小板薬にはアスピリンのほか,チクロピジンやクロピドグレル(2006年 5 月認可),シロスタゾールなどがあるが,アスピリン以外はいずれも安価とは言い難い。予防薬として生涯にわたって投与を続ける場合には,コストベネフィットも薬剤選択の大きなポイントとなる,と同氏は指摘した。
 高価な薬剤に対する消費者(患者)のシビアな視線は,降圧薬やスタチンなどにも向けられている。同氏は,薬剤負担への意識が高まりつつある現状についても言及し,「これからは,経済的かつ効果的な薬剤の組み合わせによる“Polypill療法”,すなわち,血圧・血糖・脂質・血栓などに対する多角的な危険因子管理の時代へと向かうと考えられる」と述べた。さらに「何よりも心身ともに質素な生活習慣に立ち返り,アテローム血栓症を予防することが最重要である」として,講演を結んだ。

本ページはバイエル薬品株式会社の提供です

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