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[2006年9月21日 (VOL.39 NO.38) p.94]

特別企画

座談会
日米の脳卒中ガイドラインにおける
抗血小板薬の位置付けを考える

棚橋紀夫氏 P. B. Gorelick氏 内山真一郎氏

松本昌泰氏 峰松一夫氏 井林雪郎氏

 抗血小板薬は,血小板の凝集を阻害して動脈硬化巣での血栓形成を防止するのに役立つ。このため日本の「脳卒中治療ガイドライン2004」,米国心臓協会/米国脳卒中協会(AHA/ASA)が2006年2月に発表した「脳卒中予防ガイドライン」とも,抗血小板薬の活用を推奨している。しかし,推奨薬の種類や使用法は日米で異なり,各薬剤の有用性を探る臨床研究が現在も活発に行われている。
 座談会「日米の脳卒中ガイドラインにおける抗血小板薬の位置付けを考える」では,埼玉医科大学神経内科学教授の棚橋紀夫氏の司会により,日米の脳卒中専門家に議論していただいた。米国からは,AHA/ASAガイドラインの作成に携わったイリノイ大学神経学・リハビリテーション学主任教授のPhilip B. Gorelick氏を招聘した。
出席者(発言順)
埼玉医科大学神経内科学 教授
棚橋紀夫氏〔司会〕
米国・イリノイ大学神経学・リハビリテーション学 主任教授
Philip B. Gorelick氏
東京女子医科大学神経内科学 教授
内山真一郎氏
広島大学大学院脳神経内科学 教授
松本昌泰氏
国立循環器病センター内科脳血管部門 部長
峰松一夫氏
九州大学大学院病態機能内科学 助教授
井林雪郎氏

本記事で紹介する臨床試験は,日本国外で行われたものです。国内において承認外の内容も含まれ ますので,薬剤ご使用に際しては製品添付文書をご参照ください。

脳卒中再発予防における
抗血小板療法のエビデンスは?

棚橋 最初にGorelick先生,アスピリン療法を中心とする脳卒中再発予防について,今日までの歩みと代表的知見を概説していただけますか。
Gorelick アスピリン療法の歴史は半世紀に及びます。発端は1953年,米国の実地医家Cravenが発表した論文に見出されます。彼は「術中にアスピリンを用いた患者は,後年に心筋梗塞や脳卒中を起こさない」との観察結果を示しました。しかし,当時はアスピリンの基本的な作用機序でさえ不明でした。その抗血小板効果が認められ,エビデンス集積が本格化したのは80年代以降です。
 おもな大規模臨床試験の成績を整理すると,まずCanadian Cooperative Study(1978/80)で,脳卒中既往の男性患者に対するアスピリン投与が,脳卒中再発と死亡の抑制に有効であることが示唆されました。Dutch-TIA Trial(1991)では,一過性脳虚血発作(TIA)と軽度脳梗塞既往の患者にアスピリン低用量(30mg/日)または中用量(283mg/日)が投与されました。その結果,低用量群の血管イベント抑制効果は中用量群と同等で,副作用出現がより少ないことがわかりました。
 また,アスピリンとチエノピリジン系薬の効果を比較する試験も行われました。TASS(1989)でチクロピジンが,CAPRIE(1996)ではクロピドグレルが,アスピリンの心血管イベント抑制効果をわずかに上回りました。しかし,有害事象の出現リスクは同等で,その他のベネフィットは示されませんでした。すなわち有用性に優劣はなく,このことはATT(Antithrombotic Trialists' Collaboration)のメタ解析結果からもうかがえました(図)。
棚橋 最近では,抗血小板薬の併用効果を検討した大規模臨床試験の成績が相次いで報告されていますね。
Gorelick はい。ただ,これまでに種々の抗血小板薬や,それらの併用療法に関する有効性と安全性が検討されてきましたが,脳卒中再発予防においてアスピリン単独療法を明らかに上回るベネフィットを備えた抗血小板療法は見当たりません。
 これらのことを踏まえ,コストや入手のしやすさといった面も考慮すると,脳卒中再発予防のゴールドスタンダードとしてのアスピリンの地位に揺るぎはないと言えます。

日米ガイドラインが推奨する抗血小板薬の違いは?

表1 表2
棚橋 日本のガイドラインでは,非心原性脳梗塞の再発予防に有用な薬剤としてアスピリン,チクロピジン,シロスタゾールが推奨されています(表 1)。一方,AHA/ASAのガイドラインはアスピリン,アスピリン+徐放性ジピリダモール,クロピドグレルを推奨しています(表 2)。日米で差異が見られるわけですが,先生方はどの点に注目されますか。
内山 脳梗塞と頸動脈狭窄を有する患者には,どのような治療が望ましいでしょうか。
Gorelick NASCET(1998)・ESCT(1998)の結果に基づき,症候性頸動脈狭窄病変が中等度(狭窄率50縲鰀69%)以上の場合,頸動脈内膜剥離術の実施が推奨されます。術後は,心筋梗塞リスクを考慮してアスピリンを用います。軽度狭窄例は内科的治療の適応となり,基本的にアスピリンを投与します。
松本 日本では,脳出血の発症頻度が高いため,抗血小板薬の投与以前に厳格な血圧管理が重視されています。米国でも同様でしょうか。
Gorelick やはり,脳卒中再発予防の前提条件は降圧であると考えられています。また,頸動脈内膜剥離術の適応例には術前と術後に,スタチンを用いたコレステロール管理を積極的に行います。
内山 LDLコレステロールの目標値はどのくらいですか。
Gorelick 100mg/dL未満ですが,複数の危険因子を伴う場合は70mg/dL未満としています。ただし,ハワイ在住日系人を対象とした疫学研究Honolulu Heart Programで,コレステロール低下が頭蓋内出血リスクを高める可能性が指摘されています。アジア人へのスタチン療法の影響は,欧米人とは異なる可能性がありますね。

日米におけるアスピリンの処方実態とその背景は?

棚橋 確かに抗血小板療法の前提として,血圧・コレステロール管理が重要です。この認識は日米共通ですが,抗血小板薬の処方実態についてはいかがでしょうか。
峰松 アスピリンは,再発予防で最も多く使われています。循環器病研究委託費15公- 1 による前向き調査における脳梗塞患者約2,000例に対する処方データを解析すると,アスピリン60%,チクロピジン20%,シロスタゾール 5 %でした。残りの15%にはアスピリン+チクロピジンまたはシロスタゾール,チクロピジン+シロスタゾールの併用療法が行われていました。ちなみにアスピリン承認前は,チクロピジンが50縲鰀60%以上の患者に使われていました。
井林 日本ではシロスタゾールも使えますが,現時点ではアスピリン投与が中心になっていると思います。米国でのアスピリン最小推奨用量は50mg/日と,日本より低いですね。
Gorelick 脳梗塞とTIAの再発予防効果を検討したESPS-2(1996)の結果を踏まえた設定です。この試験では,アスピリン50mg/日の投与で脳卒中リスクが,プラセボと比べて有意に18%減少しました。米国で実際に用いられているのは81mg,162mg,325mgの経口薬ですが,50mgでも十分なベネフィットが得られることを示したものと言えます。
井林 日本人の場合,欧米人と比較して出血イベントが多い傾向がありますから,より低用量で効果が得られるとの知見は参考になります。それにアスピリンは,他の抗血小板薬と比べて医療経済性で勝ります。
Gorelick そうですね。米国ではアスピリンは 1 日 2 縲鰀 5 セントで,他薬と比べて 1 か月当たり100縲鰀150ドルもコストを削減できます。有効性・安全性とともに,世界的に評価されているメリットであると思います。脳卒中は先進国で第三の,発展途上国での増加を背景に全世界では第二の死因となっています。今や脳卒中予防は世界的課題ですから,アスピリンの有用性が注目されています。

アスピリン投与例への他の抗血小板薬追加は有用か?

棚橋 次に,抗血小板薬の併用療法について議論したいと思います。併用療法を選択する際,どのような点に注意すべきでしょうか。
Gorelick 薬剤の組み合わせは,医師の好みや思い込みを排除し,科学的見地から決めるべきです。米国とカナダで,多くの医師が犯した過ちを教訓とすべきです。われわれは,最近の大規模臨床試験の成績が報告されるまで心疾患患者と同様,脳梗塞患者にも抗血小板薬の併用が有用と考えていました。その結果,脳・消化器系の重大な出血イベントが増加してしまいました。アスピリン+チエノピリジン系薬はアジア人,特に血圧コントロール不良例には要注意であると理解すべきでしょう。
棚橋 日本ではアスピリン+シロスタゾールの選択も考えられます。シロスタゾールは,米国では主として末梢動脈疾患の治療に使われていますが,日本・韓国・中国などでは脳卒中への適応が認められています。
Gorelick 興味深い組み合わせですが,その有用性は科学的に証明されていません。今後の研究進展が期待されます。
内山 米国で推奨されているアスピリン+徐放性ジピリダモールの選択については,いかがでしょうか。われわれは現在,頭蓋内動脈狭窄症を対象にアスピリン単独と同じホスホジエステラーゼ(PDE)阻害薬であるシロスタゾール併用の比較試験を計画しています。
Gorelick 脳卒中既往患者を対象としたESPS-1(1990)でアスピリン+ジピリダモールがプラセボと比べ,先に紹介したESPS-2ではアスピリン+徐放性ジピリダモールがアスピリン単独と比べ,脳卒中再発を有意に減少させました。脳卒中の臨床家・研究者は,さらに検討を要するとして,現在アスピリン+徐放性ジピリダモールとクロピドグレル単独の有用性を比較するPRoFESS(Prevention Regimen For Effectively avoiding Second Stroke)試験を進めています。

抗血小板薬の抵抗性の有無を正しく評価する方法は?

棚橋 ところで,抗血小板療法に際し,薬剤抵抗性が認められることもあります。この問題にはどのように対処すべきでしょうか。
Gorelick 抵抗性の有無を正しく評価することが先決です。血小板機能テストの多くは感度や特異度が十分でなく,実際は血小板凝集が阻害されていても「抵抗性あり」の結果が出ることが多々あります。また,患者の服薬コンプライアンスが不良であっても,抵抗性が示されます。こうした「偽抵抗性(pseudo resistance)」を排除するため,尿中トロンボキサン値の測定や服薬状況の確認に努めなければなりません。
内山 同感です。実際にアスピリン抵抗性が認められる患者は,あまり多くないと思います。われわれが,アラキドン酸で誘発される血小板凝集について検討したところ,凝集阻害が認められなかったのは 8 縲鰀13%でした。アスピリン抵抗性に,アラキドン酸代謝系酵素や血小板膜上のアゴニスト受容体の遺伝子多型などの遺伝的要因が関与している可能性も考えられます。クロピドグレルやチクロピジンに対する抵抗性も見られますから,アスピリン抵抗性のみが問題になるわけでもありません。
フロア 抗血小板薬を服用しているにもかかわらず,脳卒中を何度も起こす患者がいます。そこで血小板機能テストを行いながら,薬剤の併用や変更を試みていますが,どのような対応がベストでしょうか。
Gorelick まずはリスク因子の適切な管理,特に血圧コントロールに努め,脳卒中の機序を正しく評価し得ているかを精査します。ただ,原因がつかめないことも少なくなく,その場合は先生がおっしゃったような併用療法か,アスピリンの増量による対応が考えられます。
内山 併用療法では,出血リスクの高いチエノピリジン系薬を避け,PDE阻害薬を使うという選択肢もありますが,先述されたように科学的な実証が必要です。
松本 高血圧治療における降圧薬の選択と同様,ある薬剤で十分な効果が得られない場合,患者の病態に応じて異なる種類の薬剤に変更する意義は大きいと思います。併用療法も各薬剤のベネフィットを踏まえ,患者ごとに組み合わせを吟味することが重要であると考えます。

脳梗塞急性期における抗血小板療法の在り方は?

棚橋 最後に,脳梗塞急性期における抗血小板療法の在り方について,お話しいただきたいと思います。
表3
Gorelick 米国ではCAST(1997)とIST(1997)の結果に基づき,脳梗塞発症後48時間以内にアスピリン投与を開始することが推奨されています。再発予防の早期開始がねらいであり,急性期治療としての劇的な効果は期待できません。大動脈内のプラーク剥離に対しては積極的な抗血小板療法が有効と考えられますが,エビデンスがありません。そこで現在,TIA急性期患者に対するアスピリン+クロピドグレルの有用性が検討されています。
井林 日本のガイドライン(表 3)は主としてCASTやISTといった海外知見に基づいて作成されていますから,日本人でのエビデンスの必要性を感じています。
峰松 J-MUSIC(脳梗塞急性期医療の実態に関する研究グループ)が,1999年 5 月縲鰀2000年 4 月に国内156施設の脳梗塞急性期患者約 1 万7,000例を登録して行った研究によると,オザグレル使用例が48.7%でした。アスピリンは10.3%,チクロピジンは14.1%と少なく,欧米の処方状況とかなり異なります。
松本 薬剤の選択は,人種や生活背景の違いによって変わってくると思います。日本でも独自に大規模臨床試験を通じ,エビデンスを蓄積していかなければなりませんね。
棚橋 抗血小板薬の位置付けは,Gorelick先生が強調されたように科学的見地から決められるべきです。本日は,現時点でのエビデンスの評価と今後の研究課題が明示され,非常に有意義な時間が過ごせました。どうもありがとうございました。

本ページはバイエル薬品株式会社の提供です

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