特別企画第49回日本糖尿病学会年次学術集会モーニングセミナー糖尿病患者では血小板凝集抑制を
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| 小川久雄氏 | 池田康夫氏 |
糖尿病患者では狭心症や心筋梗塞など脳・心血管イベントを発症するリスクが高く,そのリスク管理が重要である。心筋梗塞の発症には冠動脈血栓の形成が起因しており,そこには凝固系活性化や血小板凝集能亢進などが関係する。さらに最近の研究から,糖尿病患者において血小板凝集能が亢進していることが明らかになり,冠動脈疾患との関係が注目されている。
第49回日本糖尿病学会年次学術集会モーニングセミナーで,熊本大学大学院循環器病態学教授の小川久雄氏は「糖尿病と冠動脈疾患竏駐坙{人のエビデンスより竏秩vと題して講演。糖尿病患者では脳・心血管イベントを抑制するために,血小板凝集抑制を視野に入れた治療を行うべきであると指摘した。なお,座長は慶應義塾大学医学部長・内科学教授の池田康夫氏が務めた。
演者
熊本大学大学院循環器病態学教授
小川久雄氏
京都大学大学院医学研究科 脳神経外科学教授
座長
慶應義塾大学医学部長・内科学教授
池田康夫氏
糖尿病は高血圧に次ぐ冠危険因子
小川氏らは,2001年 1 月から2003年12月までに急性心筋梗塞(AMI)患者の予後を検討したJapanese Acute Coronary Syndrome Study(JACSS)の1,925例(男性1,353例,女性572例)と,健康診断の受診者で年齢・性をマッチさせた対照群2,279例(男性1,595例,女性684例)とで,ケースコントロールスタディを行い,冠危険因子の頻度を検討した。その結果,高血圧,喫煙,糖尿病が主要な冠危険因子であることがわかった。男女別で見ると,男性で最大のリスクとなったのは高血圧で,その次に喫煙,糖尿病が続いた。一方,女性では喫煙,糖尿病の順で,高血圧より糖尿病のほうが強力なリスク因子だった。
1994縲鰀96年にも同様の検討が行われており,新旧のケースコントロールスタディを比較すると,近年では糖尿病の比重が増しており,現在,糖尿病が高血圧に次ぐ強力な冠危険因子になっていることがわかる。この傾向について同氏は「糖尿病患者の増加に伴って,今後,心筋梗塞の発症は増えると考えられ,そのリスク管理が肝要となる」と指摘した。
AMIの発症に冠動脈血栓の形成が関与
前述のJACSSでは,AMI発症と血糖値の関係について検討されている。入院時に血糖値を測定したAMI患者1,253例を検討した結果,血糖値の高い患者ほど,院内死亡率が高かった(図 1)。このデータからAMI患者では,血糖値が予後に影響を及ぼしていることが示唆された。同氏によると,AMI患者にPCIを施行して冠動脈を開いても,血糖値が高い患者の場合には,No-reflow現象窶狽キなわち血管閉塞が解除された後にも血流が再開しない現象窶狽ェ発生して,死亡につながるケースが多いという。そのため,ACSの発症予防には,血糖コントロールが重要だと強調した。
高血糖が血小板凝集能の亢進を招く
この検討では,安定労作狭心症患者が糖尿病を合併すると,血小板凝集能が亢進することも示された。糖尿病を合併していない安定労作狭心症患者では,凝集促進作用のあるアデノシン二リン酸(adenosine diphosphate:ADP)を一定量添加して刺激を加えないと小凝集塊の増加は認められないが,合併例では添加するADPが少なくても増加が見られた。つまり,糖尿病患者は血小板凝集能が亢進しているわけである。
さらに,糖尿病患者における血小板凝集能亢進の実態を確認するため,冠動脈疾患患者20例に75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を実施し,形成される血小板小凝集塊数の推移を調べた。その結果,ブドウ糖負荷による血糖値上昇に伴って,小凝集塊数が増加し,血糖値低下とともに減少した。このことから,高血糖が血小板凝集能を亢進させることが示された。
血小板凝集能に関連して,最近,活性化血小板に由来する,粒子径1.5em以下のマイクロパーティクル(platelet-derived microparticle:PMP)が,生体内血小板活性化の指標として注目されている。同氏らは,糖尿病患者群105例と対照群92例で, PMPレベルを測定し,糖尿病患者群でPMPレベルが有意に亢進していることを認めた(図 3)。
以上の結果から,糖尿病患者では,血糖値上昇に伴う血小板凝集能亢進によって冠動脈血栓が形成され,その結果,ACSに代表される心血管イベントが惹起されると考えられる。糖尿病患者ではプラークが厚いことも報告されていることから,同氏は「糖尿病患者はAMIを発症しやすい条件がそろっているため,早期からの治療が不可欠だ」と述べた。
血小板凝集能が亢進するほど
心血管イベントが起こりやすい
冠動脈疾患患者を血小板凝集能により四分位に分けて,予後を比較。4 年以上の観察期間中の心血管イベント非発症率は第 1 四分位から第 3 四分位では有意な差は見られなかったが,凝集能が最も亢進している第 4 四分位では有意に低かった(図 4)。
また,血小板凝集能が亢進した患者では,PCI後の再狭窄率が高いことも報告されている。このように最近,血小板凝集能の亢進が冠動脈疾患患者の心血管イベント発症につながるというエビデンスが蓄積されつつある。そのため今後,血小板凝集能が冠動脈疾患患者の予後判定において重要な指標になる可能性があるとした。
アスピリンは心筋梗塞の
二次予防効果を有する
1994年10月から96年 3 月の間に,全国18都道府県の70施設で発症後1か月以内に入院したAMI患者744例を,アスピリン投与群,トラピジル投与群,対照群に無作為に割り付け,予後を比較した。解析対象例はアスピリン群250例,トラピジル群243例,対照群230例。約 2 年半の観察期間において,アスピリンは対照に比べ,再梗塞発症を有意に抑制することが認められた(図 5)。この結果から,アスピリンが心筋梗塞の二次予防の効果を有することが示された。
ちなみにアスピリンは,JAMIS発表後の2000年に,心筋梗塞の二次予防の適応が承認されている。
2型糖尿病患者での心血管
イベント一次予防効果を検討中
しかし,2001年の 1 年間に入院したAMI 957例において,AMI発症前のアスピリン内服状況は127例(13.2%),そのうち冠動脈疾患の既往がない糖尿病患者216例では 9 例(4.1%)に過ぎなかった。
2000年に米国糖尿病学会(ADA)で,糖尿病患者での冠動脈疾患二次予防,一次予防のためにアスピリンを投与することが推奨されたが,米国でもアスピリンの使用状況は66%に留まっていた。日本では保険適応もなく,糖尿病患者のアスピリン服用率はさらに低いのが現状である。
そこで同氏らは,2 型糖尿病患者においてアスピリンの脳・心血管イベントの一次予防効果を検討するJapanese primary Prevention of atherosclerosis with Aspirin for Diabetes(JPAD)を開始した。JPADは,冠動脈,脳血管イベントの既往のない 2 型糖尿病患者を対象に,アスピリン100mg/日または81mg/日投与群とアスピリン非投与群に分け,脳・心血管イベントの抑制効果を検討するというもの。2002年12月から 2 年半の期間で,目標症例数である2,450例を上回る,2,534例が登録され,アスピリン投与群1,264例,アスピリン非投与群1,270例に割り付けられ,現在試験が進行中である。
最後に同氏は「糖尿病患者の治療では,血糖値のコントロールだけでなく,脳・心血管イベントの予防が肝要であることがわかってきた。今後,JPADをはじめとして,日本人糖尿病患者における冠動脈疾患の一次予防,二次予防のデータが蓄積されるよう期待している」と述べて講演を終えた。
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