特別企画脳を救う医師たちの闘い
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| 川崎医科大学 神経内科脳卒中部門助教授 木村和美氏 |
熊本市立熊本市民病院 神経内科部長 橋本洋一郎氏 |
“Time lost is brain lost”のスローガンが米国で盛んに用いられているように,脳梗塞の急性期治療は時間との闘いである。発症後3時間以内なら,t-PAによって脳のダメージを最小限に食い止めることも可能になった。しかし,それを実践していくには,脳卒中専門医を中心とするストロークチームの存在やCT/MRIの24時間稼動など,救急医療態勢の整備が欠かせない。川崎医科大学はそうしたシステムの構築に力を入れ,大きな成果を上げている。今回は,同大における急性期脳梗塞診療の現状を紹介していただくとともに,大学病院などに導入されている診断群分類別包括評価・包括支払い方式(DPC)の影響について伺った。
脳卒中専門医12人を中心とするチームで
24時間365日の脳卒中に対応
まず,川崎医科大学ではどのようなシステムで急性期脳梗塞に対応しているのか,教えてください。
木村 私の在籍する神経内科脳卒中部門は,脳卒中の診断・治療・再発防止を専門とする診療科で,国内の大学病院としては初めて設置されました。スタッフは12名,レジデントや研修医を合わせると医師が16名になります。
脳卒中では“Time is brain”と言われるように,超急性期の対応が予後を決します。そこで,来院までの時間をできるだけ短縮するため,救急隊や近隣の医療機関との間に専用ホットラインを設けました。医師が24時間携帯するPHSに,直接連絡が入るシステムです。
診療に際しては神経内科,脳神経外科,救急部がacute stroke teamを組み,24時間365日,あらゆる脳卒中を受け入れる態勢を組んでいます。これにリハビリテーション科,看護部,栄養部,薬剤部が加わり,重症例では循環器内科,呼吸器内科,麻酔科などの協力を得て循環呼吸管理などを行う,チーム医療の仕組みを整えています。
MRIは24時間稼動,
神経超音波検査は世界でも有数の実績
木村 日中は 3 名の神経内科医が待機し,患者の到着を待ちます。夜間は脳神経外科と神経内科が交代で当直を担当しますが,緊急時にはオンコールですぐ 3 縲鰀 4 名の脳卒中医が駆けつけるようになっています。
橋本 急性期の緊急検査は,どのように進めておられますか。
木村 MRIは24時間稼動していますから,夜間でも30分以内に撮影可能です。撮影準備に多少時間がかかりますから,その間に頸部血管エコーで頸動脈の動脈硬化病巣の程度を調べ,経頭蓋ドプラ(transcranial Doppler;TCD)で,右左シャントがないかどうかを確かめます。TCDは24時間以内,7 日後,退院時にも行っており,施行実績は世界有数のはずです。これらの検査が済んだあとMRIを撮り,脳血管に大きな病変がありそうなケースは血管造影検査を行います。さらに病棟に移ってから,心エコーで心臓における異常の有無をチェックします。
橋本 スタッフに恵まれている点もありますが,そこまで完璧にやっている施設は少ないと思います。
容易でない来院60分以内のt-PA施行
木村 現時点(2005年12月22日)で6例です。
橋本 それは国内屈指の実施件数ですね。ところでAHAのガイドラインでは,患者到着の10分以内に臨床評価,45分以内にCT読影,60分以内にt-PA静注開始,ということになっています。実際のところ,これはかなり難しい条件ではないでしょうか。
われわれの施設では,救急隊などから搬送の連絡が入ると,まず 3 名の脳卒中医が集合し,来院後直ちに検査を行います。脳梗塞と判明し,t-PAの適応になると,10数名のスタッフ全員に招集をかけ,各自が手分けして準備します。それでも60分以内というのはギリギリです(図 1)。
救急隊の第1報で始まる急性期治療
木村 意外にも血液検査のオーダーとデータ入手に,30縲鰀40分かかってしまいます。これをいかに迅速に行うかが,1 つのカギになりますね。
橋本 私の施設ではt-PA治療はまだありません。先生の病院でこの 2 か月に 6 例も経験されているのは,救急システム,院内の態勢がきっちり構築されていることの証ですね。
木村 いや,課題はまだいくつもあります。ただ,これまでの経験から強調しておきたいのは,t-PA治療は第 1 報を受けたときから始まるということです。発症後 1 時間以内に来院する患者はわずかで,多くは 2 時間以内です。すると残りは 1 時間。第 1 報で,t-PAの可能性があると分かった時点で動き出さないと,とうてい間に合いません。
木村 われわれは,倉敷中央病院と協力して,倉敷プレホスピタル脳卒中スケール(KPSS)を作りました。救急隊員が患者の症状をチェックして点数化する,現場用の簡易スケールです(表)。意識水準,意識障害,運動麻痺,言語の 4 項目があり,2分ほどでチェックできるようになっています。救急隊は,搬送のコールとともにKPSSの点数も連絡しますから,われわれは患者の状態を予測して待機できるわけです。
エコーによる大動脈解離検出も重要
木村 これは,TIAの74歳女性で,発症後30分ぐらいで搬送されてきました。NIHSSが 5 点で,MRAを撮ると中大脳動脈主幹部に閉塞が確認されました。そこでt-PAを投与したところ,1 時間後にはNIHSSが 4 点,24時間後には 0 点になり,MRAで血行再開も確認されました(図 2)。
橋本 見事なケースですね。この方は心原性脳塞栓症ですか。
木村 塞栓源は不明ですが,脳塞栓症だと思います。
橋本 t-PA後はどのような治療をされていますか。
木村 この症例は塞栓源が明らかでないので,24時間後からアスピリン200mg/日を始め,2 週間後に100mg/日に減量しました。
橋本 2 週間後に減量するのは,私の施設と同じですね。オザグレルやアルガトロバンは使っていますか。
木村 使用する症例もあります。
橋本 すでに,t-PA施行例で死亡が報告されているようです。先生の施設では,t-PA後に脳出血を起こした例はありますか。
橋本 面倒でもエコーを当てるということが,大事なポイントですね。
ラクナ梗塞の経口摂取可能例では
初日からアスピリンを使用
木村 MRI,MRAで病巣と脳血管を,頸部血管エコーで動脈硬化を評価,神経症候をチェックする。これでラクナ梗塞の診断はつきます。治療に関しては,食事を取れる患者には初日からアスピリン200mg/日を与え, 2 週後から100mg/日に減量するか,症例によってはシロスタゾールへの変更を考慮します。嚥下障害で食事ができず,点滴している例ではオザグレルを使います。オザグレルは長くても 1 週間で,食事が取れるようになればアスピリンに変更します。
橋本 ラクナ梗塞でエダラボンを使うことはありますか。
木村 ほとんど使っていませんね。
橋本 とすれば,DPCを気にせず治療できますね。エダラボンを14日,オザグレルを14日併用するとDPCでは赤字になるため,脳梗塞はDPCにそぐわない,という意見も出ています。アテローム血栓性脳梗塞についてはいかがでしょう。
木村 皮質症状があるような場合にはアルガトロバン,エダラボンを併用します。ですから,DPCでいくとやや厳しくなりますね。
橋本 アスピリンとアルガトロバンを併用することはありますか。
木村 ないです。
橋本 グリセオールやデキストランは用いますか。
木村 グリセオールは使いますが,デキストランはあまり使いません。
医療費包括化の影響は少ない
木村 適応があれば,t-PAが第一選択です。問題は二次予防に何を用いるかですが,エビデンスが確立しているのはワルファリンですね。われわれは国立循環器病センターの指針に準拠して,24時間後CTで出血がなければヘパリンを用い,2 日目からワルファリンを使っています。
橋本 ワルファリンの用量はどのぐらいですか。
木村 70歳以上なら 2mg/日,以下なら 3mg/日で開始しています。
橋本 私の施設も 3mg/日が基本ですが,INR(international normalized ratio)を早く1.6にするため 4 縲鰀 5mg/日を使う例もあります。エダラボンは何日間続けますか。
木村 長くても 1 週間。それ以上になることはありません。
橋本 先生の方法では,薬剤コストはそれほど高くなりません。DPC導入で,治療内容が大きく変わるということはなさそうですね。
木村 今のところ,DPCのために問題が生じたことはありません。
橋本 最後に,先生の施設における課題,展望を聞かせてください。
木村 現在,当科ではacute stroke teamによる診療を進めていますが,まだまだ改善すべき点が多々あります。救急隊や看護師との勉強会を盛んに行い,チーム医療全体のレベルアップを目指しています。設備面でいうと,独立した脳卒中病棟が確保できていませんから,それを構築していくことも緊急の課題ですね。
橋本 米国では,t-PA治療の導入以降,地域に数多くのPrimary Stroke Center(一次脳卒中センター)を作ってきました。しかし最近,それだけでは不十分なことが分かり,Comprehensive Stroke Center(総合脳卒中センター )を作ろうという構想が生まれています。日本もそうした方向に進むことになるでしょうし,先生の施設はその先導役を果たすものと期待しています。本日は,ありがとうございました。
アスピリン(NSAID)不耐症とは何か
アスピリン不耐症とは,アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)服薬後数十分縲鰀 3 時間以内に現れる過敏症状のことである。喘息発作(いわゆるアスピリン喘息)または鼻炎を呈する気道型と,蕁麻疹ときに血管浮腫を生じる皮膚型に大別される。気道型では慢性副鼻腔炎や鼻茸の合併,嗅覚低下を示す例が多く,皮膚型は慢性蕁麻疹患者でよく見られる。 発症頻度については,日本での正確なデータはない。Settipaneによると,成人の0.30%,子供の0.32%に認められるという。喘息患者におけるアスピリン喘息の比率は,厚生省成人気管支喘息研究班のアンケートで7.7%と報告されている。 この点から,喘息を有する急性期脳梗塞患者にアスピリンを用いる場合には,可能な限り,かぜ薬等による喘息既往の問診を行わねばならない。また,服用後の患者状態を注意深く観察し,本症が懸念される場合には,他の抗血小板薬への切り替えを考慮する。ちなみに当院では,年間およそ200例の急性期脳梗塞患者にアスピリンを処方しているが,問診をきちんと行えば問題となるようなことはまずない。 発症機序に関しては,NSAIDのシクロオキシゲナーゼ(COX)-1阻害作用により,アラキドン酸カスケードがリポキシゲナーゼ系にシフトし,強力な気管支平滑筋収縮作用や血管透過性亢進作用,鼻汁分泌作用を持つシスティニルロイコトリエン(LTC4,LTD4,LTE4)が増加することで症状が発現するとされている。すなわち本症は,COX-1阻害作用を持つNSAID全般に対する過敏症状なのである。アスピリンに対する特異的アレルギーとの誤解を生みやすい「アスピリン不耐症」は不適切で,「NSAID不耐症」と呼ぶべきであろう。 |
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