特別企画脳を救う医師たちの闘い
|
![]() |
![]() |
| 太田西ノ内病院(郡山市) 神経内科医長 松浦 豊氏 |
熊本市立熊本市民病院 神経内科部長 橋本洋一郎氏 |
脳梗塞の2縲鰀3割は心疾患に伴う心原性脳塞栓症だと言われている。特に,非弁膜症性心房細動(NVAF)は心原性脳塞栓症の主因である。また,原因不明の脳梗塞には卵円孔開存の合併が多いことが注目されている。そこで第5回では,熊本市立熊本市民病院神経内科部長の橋本洋一郎氏と太田西ノ内病院神経内科医長の松浦豊氏に,「心疾患と脳梗塞」をテーマに対談していただいた。
討論のなかで,原因不明の脳梗塞では心疾患の精査が重要であること,心原性脳塞栓症の最大のリスクはNVAFであること,NVAFと他のリスクを1個でも併せ持つ患者ではワルファリンなどによる予防が必須であることなどが浮き彫りになった。
討論のなかで,原因不明の脳梗塞では心疾患の精査が重要であること,心原性脳塞栓症の最大のリスクはNVAFであること,NVAFと他のリスクを1個でも併せ持つ患者ではワルファリンなどによる予防が必須であることなどが浮き彫りになった。
施設間で診断に差が出るNINDS分類
松浦 2004年度の 1 年間に神経内科に入院した患者は284例で,その59%が脳血管障害でした。内訳としては脳梗塞156例,TIA*/TMB** 7 例,脳内出血 5 例です。当科は急性期神経疾患の診療に力を注いでいますが,特に脳梗塞が多いのが実情です。
*Transient Ischemic Attack
**Transient Monocular Blindness
橋本 脳梗塞のタイプはどうなっていますか。
松浦 NINDS分類(1990)に基づき,脳梗塞急性期106例の臨床病型を調べたところ,アテローム血栓性脳梗塞37.7%,心原性脳塞栓症22.6%,ラクナ梗塞18.9%,その他の脳梗塞20.8%でした。ただし,NINDS分類にはいくつかの問題点があります。NINDS分類は発症機序,臨床カテゴリー,病巣・灌流域によって脳梗塞を分類しています。しかし,明確な診断基準がないため,施設により分類の仕方が異なり,患者データの共用,比較ができないのです。また皮質下脳梗塞の分類がないため,主幹動脈病変のない15mmを超える穿通動脈領域の梗塞,いわゆるBAD(branch atheromatous disease)の振り分けに相違が出てきます。
原因不明の脳梗塞では心疾患精査を
橋本 BADはどこに入るのですか。
松浦 TOAST分類でもBADは区分しにくく,stroke of undetermined etiology中のnegative evaluationに入れられます。この分類を用いれば,治療内容や成績を施設間で比較できますから,脳梗塞診療のレベルアップにつながると期待されます。
橋本 同感ですね。ただ,急性期治療を行っていると,必ず原因不明の脳梗塞にぶつかります。TOAST分類では分類不能の脳梗塞が増えるのではないかという懸念があります。
松浦 急性期脳梗塞は,病歴,神経症候から責任病変,臨床病型を推定し,CT,MRIで部位診断,CTA,MRA,エコーなどで血管病変を精査することが基本です。問題はそれでも原因不明の場合ですが,状況から少しでも心原性脳塞栓症が疑われるケースでは,心疾患の精査が欠かせません。
経胸壁心エコーはもとより,ホルター心電図,経食道心エコーまで施行して原因を解明することが大事です。それにより,発作性心房細動,卵円孔開存,大動脈病変などが見つかる確率が高まります。事実,入院時点で心房細動が確認されていない脳梗塞患者に12誘導心電図,ホルター心電図,7 日間心電図モニタリングを行うと14.7%で心房細動が発見されたとの報告もあります。塞栓源が不明な脳梗塞については,徹底的なチェックが必要でしょう。
心原性脳塞栓症の最大のリスクは心房細動
松浦 臨床症候として突然の発症,単独の神経症候,発症時の痙攣発作・意識障害,複数の血管領域にまたがる症候などがあります。画像所見としては,複数の血管領域に多発する病巣,深部および表在に存在する病巣,出血性変化,主幹動脈に狭窄なしまたは責任血管の閉塞,経頭蓋ドプラ検査で急速な再開通が確認される,などが主なものです。こうした所見が見られれば,心原性脳塞栓症の可能性は高いと言えます。
橋本 心原性脳塞栓症の基礎疾患は多岐にわたりますが,特に注意を要するものは何ですか。
松浦 最も頻度が高いのは非弁膜症性心房細動(NVAF)で,心原性脳塞栓症の 6 縲鰀 7 割を占めると見られます。NVAFは加齢に伴って増加し,有病率は65歳以上で5.9%,80歳以上で10%にのぼります。このNVAFによる心原性脳塞栓症は大梗塞を生じ,予後不良で再発も多いだけに,一次予防,二次予防が重要です。
また,心臓弁膜症で人工弁,特に機械弁に置換した患者も,心原性脳塞栓症を起こしやすく,抗凝固療法施行中にもかかわらず,僧帽弁で年間 4 %,大動脈弁で年間 2 %の発症を見ると言われています。
NVAF+1個の危険因子があれば,
必ず心原性脳塞栓症の予防を!
しかし,このガイドラインがどこまで遵守されているかは疑問です。脳梗塞治療の現場から見ると,適切な抗凝固療法を受けていない方が多いという印象を持っています。
橋本 われわれは,NVAFによる心原性脳塞栓症で当院に入院した80例を調べた経験があります。71例が 1つ以上の危険因子を持っていましたが,ワルファリン服用例は17例にすぎず,ガイドラインに沿う治療を受けていたのはわずか 6 %でした。そして,入院前自立していた(mRS 2以下)64例中28例が,重度障害(mRS 3以上)に陥るという悲惨な結果になりました。
松浦 そうした事態を避けるためにも,実地診療の現場にガイドラインを根付かせていく努力が必要です。
心原性脳塞栓症の二次予防にはワルファリン
橋本 抗凝固療法の強度と退院時の転帰を検討すると,INRが1.6を超えていると再発しても軽症ですみますが,それ以下だと重症化しやすい傾向があります。ですからワルファリンを投与する場合,INR 1.6以上に維持することが大事だと思います。
松浦 逆に言うと,INRが1.6を割ったら,ワルファリンを投与している意味がないことになりますね。
橋本 そう思います。出血傾向があってワルファリンを使えない場合は,どうなさっていますか。
松浦 心房細動がある患者では可能な限りワルファリンを用いるようにしていますが,どうしても無理なときはアスピリンを使用します。
非心原性脳塞栓症の二次予防の基本はアスピリン
松浦 奇異性脳塞栓症は,静脈側に存在する血栓が心臓にある右左シャント性疾患を介して右心系から左心系に流入し,脳血管を閉塞することで発症します。その原因の 1 つが卵円孔開存です。しかしこれは健常人でも見られますから,卵円孔開存があるからといって必ずしも奇異性脳塞栓症とは言えず,下肢静脈エコーなどで塞栓源を確認する必要があります。もし,それで深部静脈血栓や肺塞栓症などの合併が見つかれば,奇異性脳塞栓症としてワルファリンの適応となります。
橋本 かつては奇異性脳塞栓症と診断されれば,全例にワルファリンが使われていました。しかし,PICSSやWARSSなどによってアスピリンの有効性が確認され,考え方が変わってきたということですね。
松浦 そうです。今後は,アスピリン服用が非心原性脳塞栓症二次予防の基本になると思います。
本態性血小板血症合併例で
アスピリンが奏効した症例を経験
松浦 患者は46歳の男性で,3 年ほど前から複視を伴う回転性めまいをたびたび起こしていました。2004年3 月胸痛があり,当院循環器科を受診,急性心筋梗塞(下壁梗塞)として入院しました。このとき血小板増多が確認され,本態性血小板血症と診断されています。
退院後一月ほどで,右顔面と右上肢にしびれが現れ当科に入院。MRIで中大脳動脈領域皮質部に小梗塞の多発,右小脳半球の小梗塞が確認され,MRAでは右MCA,M2描出がやや不良でした。以上の所見から,本態性血小板血症に伴う心筋梗塞による心原性脳塞栓症と診断しました。急性期治療はヘパリンで開始し,二次予防としてワルファリンを使用しました。ただ,本態性血小板血症があるため,INRの目標は1.6縲鰀2.6と弱めにしました。退院後しばらくして視野異常や回転性めまいを訴えるようになり,脳梗塞の再発で再入院となりました。
この時点で心エコーを見ると,左心室に血栓ができていました。これはいけないと,ワルファリンによる抗凝固療法を強めたのですが,視野異常やめまいが抑えきれません。これは,本態性血小板血症が関係している可能性があると考え,アスピリンを追加したところ,TIA様発作は消失しました。現在もアスピリンを軸とした治療を続けており,イベントは全く起きていません。
橋本 本態性血小板血症を基礎に持つ脳塞栓症にアスピリンが奏効したケースですね。興味深い症例をありがとうございました。
アスピリンの休薬はどんな例でどの程度必要か
脳梗塞や心筋梗塞の既往患者の再発リスクは消失することはなく,むしろ加齢とともに増大する。このため,二次予防におけるアスピリン療法は原則として生涯継続されねばならない。ところが従来の医療は,出血リスクをおそれるあまり,アスピリン休薬によるイベント再発リスク増大を軽視してきたきらいがある。前回対談(
1 月26日号掲載)でも指摘したように,他科で観血的治療を行う際,自動的に抗凝固・抗血小板療法を中止するような例は少なくなかった。 そこで,日本循環器学会は2004年に「循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン」を作成。そこには,抜歯,術後出血への対応が容易な体表の小手術の場合,アスピリンやワルファリンの「内服継続が望ましい」と明記された。大手術の場合,アスピリンは手術の 7 日前,チクロピジンは10縲鰀14日前,シロスタゾールは 3 日前に中止し,特に血栓症や塞栓症のハイリスク例では脱水の回避,輸液,ヘパリンの投与を考慮することとなっている。 よく知られているように,アスピリンはシクロオキシゲナーゼ(COX)-1を不可逆的に阻害することでトロンボキサン(TX)A2の産生を抑制し,血小板凝集を抑制する薬剤である。しかし,血小板は毎日 1 割程度新たに作られており,血小板凝集能は休薬後 7 縲鰀10日で完全に回復すると言われている。 一方,アスピリンを 1 か月休薬すると,イベント再発リスクは約 3 倍上昇するとの成績も最近報告されている。したがって,術後は止血が確認され次第,速やかにアスピリン服薬を再開すべきだと考える。 |
本ページはバイエル薬品株式会社の提供です












