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[2006年2月9日 (VOL.39 NO.6) p.56]

特別企画

第64回日本脳神経外科学会総会ランチョンセミナー

米国オピニオンリーダーに聞く,
脳卒中治療の最前線
窶箔ェ蓋内外動脈狭窄病変窶鐀

名古屋市立大学医学部
脳神経外科学講座 教授
座長 山田和雄氏

 脳卒中急性期の死亡率は高く,たとえ救命されても長期の生命予後は不良であることから,その予防と治療が極めて重要となる。米国では医療従事者だけでなく,広く一般市民の認識が不可欠と考え,脳卒中の啓発活動として,テレビを使ったキャンペーンを実施し,脳卒中の前触れ症状が表れたら,すぐに救急車を呼ぶように強く訴えかけているという。本セミナーでは,米国において脳卒中治療の最前線で活躍される二人の専門医に,脳梗塞および頸動脈狭窄症の診断と治療の最新知見について,ご自身の臨床経験を踏まえて解説いただいた。

講演1
脳卒中診断と管理の最近の進歩
窶箔ェ蓋内動脈硬化性狭窄病変の急性期を中心に窶鐀

Randall T. Higashida氏
University of California, San Francisco Medical Center, USA

脳卒中発症後の60分が,
その後の患者の人生を左右する

 脳卒中急性期の死亡率は30縲鰀35%と極めて高く,たとえ救命されても35縲鰀40%の患者に高度障害が残り,米国では1年間に500億ドル(入院,診断,治療に費やされる直接費:300億ドル,高度障害により社会復帰が困難となることで生じる間接費:200億ドル)が脳卒中の治療に費やされている。したがって,米国において,脳卒中は社会保障上で1番の問題であり,それは日本においても同じであろう。
 脳卒中発症後の60分をどのように過ごすかによって,患者のその後の人生が左右されるといっても過言ではない。脳卒中は一秒毎に脳細胞が破壊される極めて重篤な疾患であり,診断や治療の遅れが,ただちに高度障害や死につながる。したがって,私は一分一秒でも早く確定診断を行い,適切な治療を開始することを心掛けている。現在,米国のわれわれの施設では,搬送された患者の臨床所見を速やかに確認するとともに,5分以内にCTによる検査を開始し,出血性か否かを判定した後に治療方針を確定している。また,画像診断に関しては近年進歩が著しく,最新の三次元CTAや三次元MRAを導入することで,より短時間で明瞭に病巣を検出することができる。

脳梗塞急性期の抗血小板療法は,
アスピリン投与が基本

 国や人種によって頻発する脳卒中の臨床病型は異なるが,米国では脳梗塞,特に頭蓋内動脈硬化性狭窄病変の患者が多い。脳梗塞と一過性脳虚血発作(TIA)を合わせると患者数は約90万例と考えられ,毎年,7縲鰀9万例の新規脳梗塞・TIA患者が発症していると推計される。また再発率は年間12縲鰀15%にも及んでいる。特にアジア人,アフリカ系アメリカ人とヒスパニックは脳卒中発症率が他の人種に比べて高く,その予防と治療は米国だけではなく世界中で重要な課題となっている。
 脳梗塞急性期に対する薬物治療に関しては,抗血小板薬と抗凝固薬のエビデンスに基づいたガイドラインが米国脳卒中協会・脳神経学会から共同で発表されており,脳梗塞急性期の抗血小板療法として,アスピリンを推奨している1)。この推奨は,Chinese Acute Stroke Trial(CAST)2)とInternational Stroke Trial(IST)3)の2つの大規模臨床試験の成績を根拠としている。
表1
 CASTでは脳梗塞発症後48時間以内からのアスピリン160mg/日服用により,生存率が有意に改善され(3.3%vs 3.9%, =0.04),脳梗塞再発も有意に減少し(1.6%vs2.1%,P=0.01),先に報告されていたISTにおけるアスピリンの効果が,東洋人を対象にしても認められた形となった。
 さらに,CASTとISTにおける約40,000症例に及ぶデータの複合解析の結果では(表1),脳梗塞急性期からのアスピリン投与により「脳梗塞再発+全死亡」は相対的に9.9%有意(P=0.001)に減少し,また脳梗塞再発リスク減少率は30%(P<0.000001)に低下している4)
 このように,アスピリンは脳梗塞急性期において唯一エビデンスが確立された抗血小板薬であり,世界中のガイドラインで急性期からの投与が推奨されるようになった。

高度狭窄病変においても
アスピリンはベースドラッグ

表2
 頭蓋内高度狭窄病変における抗血栓療法において,アスピリンと抗凝固薬のいずれを優先すべきかという点について,最新のエビデンスはアスピリンを支持している5)。症候性の頭蓋内動脈狭窄(≧50%)を認める569例を,アスピリン腸溶錠群とワルファリン(INR:2縲鰀3)群に割り付けた二重盲検試験では,脳・心血管イベントの発症率は両群で差は見られなかったことと安全性の面から,「ワルファリンにアスピリン腸溶錠を上回る有用性は認められなかった」と研究者らは結論している。もちろん抗血小板薬である以上,出血リスクはアスピリンにも認められるが,欧州心臓病学会(ESC)の臨床ガイドライン委員会は,「アスピリン投与の有用性は,出血のリスクを上回る」との見解を公表し,有用性が期待できるすべての患者へのアスピリン投与を検討すべきであるとしている(表2)。

頭蓋内動脈ステント留置時にもアスピリン

 頭蓋内動脈に対するステント留置においても,われわれはステント留置の3縲鰀5日前よりアスピリン投与を開始しており,留置前から留置後長期にわたってアスピリンを投与する。昨年報告されたSSYLVIA(Stenting of SYmptomatic Atherosclerotic Lesions in the Vertebra lor Intracranial Arteries)試験では,留置48時間前からアスピリン投与を開始し,チエノピリジン系薬剤などとの併用によって95%の留置成功率が得られている6)
 以上のように,(1)脳梗塞急性期からのアスピリン開始は,脳卒中再発,院内死亡を減少させ,さらに予後も改善する,(2)脳梗塞後,再発予防のため生涯にわたりアスピリンを服用するのが望ましい,と結論することができる。さらに,長期にわたる投薬においては副作用を考慮する必要があり,消化器症状の少ない腸溶錠を用いるべきであろう。また,アスピリンは安価である点においても,長期投与に適していると考える。
 脳卒中急性期の診断機器,手術手技,薬物療法などの進歩を臨床に反映し,一人でも多くの患者を通常の生活に戻したいものである。

講演2
頸動脈狭窄症を伴う脳卒中の治療戦略:
内膜剥離術,ステント留置とアスピリン

Christopher M. Loftus氏
Temple University School of Medicine, USA

アスピリンは頸動脈内膜剥離術中も継続投与

表3
 頸動脈内膜剥離術(以下,CEA)は頸動脈狭窄患者における脳梗塞発症予防に極めて有効な外科的処置である。過去のエビデンスを検証すると,無症候性頸動脈狭窄で5報,症候性頸動脈狭窄で3報の無作為化比較試験が報告されており,その結果は,無症候性では狭窄率が60%以上(ACAS試験),症候性では,狭窄率50%以上(ECST,VACSP309,NASCET試験)で薬物治療を上回る脳卒中発症抑制作用が認められている。
 一方,頸動脈狭窄を認める患者に対する薬物治療として,米国ではアスピリンが第一選択薬として推奨されている。また,推奨用量としては低用量(75縲鰀150mg)が用いられる。チクロピジンなどのチエノピリジン系薬剤は,特にCEA施行時における出血合併症の懸念から,アスピリンの禁忌例にしか用いないのが一般的である。アスピリン単独では出血リスクが低く,またイベント抑制効果が高いため,抗血小板薬の中心的薬剤として用いられる。他の抗血小板薬や抗凝固薬をアスピリンと併用している患者にCEAを行う場合は,少なくとも1週間前に併用薬を中止するが,アスピリンは術前術後を問わず必ず継続する(表3)。

頸動脈内膜剥離術と比較した
経皮的頸動脈ステント留置の有用性は確立していない

 CEA施行に高いリスクが伴う症例に対しては,経皮的頸動脈ステント留置が適応となる。高リスクの定義として,次のようなものが挙げられると考えている。すなわち,(1)手術困難が予見できる,(2)薬物治療による副作用のリスクが高い,(3)術中虚血のリスクが高い,(4)術後閉塞・脳梗塞のリスクが高い──の4項目である。
 症候性頸動脈狭窄患者において,CEAと経皮的頸動脈ステント留置を比較した無作為化試験CAVATASでは,脳卒中発症率に差はないものの,脳神経障害はCEA施行群で有意に高かった。しかし残存狭窄・再狭窄は経皮的頸動脈ステント留置群で有意に高く,全般的有用性は同等と考えられた7)。一方,症候性で狭窄度60%以上の患者を対象としたSchneider Wallstent Trialは,経皮的頸動脈ステント留置群における安全性に問題があり,早期に中止された8)。この結果はより早期に行われた英国の無作為化試験と同様である9)
 しかし,より高リスク例を対象とした無作為化試験SAPPHIREでは,経皮的頸動脈ステント留置による予後改善はCEA施行群と同等であった10)。ただし同試験では登録された747例のうち,無作為化されなかった413例中406例に経皮的頸動脈ステント留置が施行されているが,その成績は報告されていない。また,症候性の患者では転帰に差がなく,無症候性でのみ有意差が認められていた。この無症候性患者における成績については,脳卒中・死亡率がCEA施行群(6.1%),経皮的頸動脈ステント留置群(5.8%)いずれにおいても,先述のACAS試験における薬物療法群よりも高いとの指摘があり11),基礎の薬物治療が十分であったか疑問視されている。
表4
 これらの結果に基づき,米国心臓病協会(AHA)ガイドラインでは,無症候性頸動脈狭窄に対する治療として,CEA周術期合併症リスクが3%未満の場合をCEAの適応ありとし,周術期合併症リスクが3%を超える場合,CEAの適応はなしとしている(表4)。この観点からもSAPPHIRE参加患者はCEAの適応ではなかったと考えられる。
 このように考察するならば,頸動脈狭窄に対する頸動脈内膜剥離術は有用であり,症候性なら狭窄率50%以上,無症候性ならば60%以上の狭窄が適応となる。また経皮的頸動脈ステント留置は,高リスク頸動脈狭窄患者においてのみ頸動脈内膜剥離術と同等の有用性が示唆されているにすぎない。
 そして薬物療法として,頸動脈狭窄を認める患者は常に,アスピリンを永続的に服用することを忘れてはならない。

REFERENCES
1)Coull BM, et al. Stroke. 2002;33:1934-1942
2)Chen ZM, et al. Lancet. 1997;349:1641-1649
3)International Stroke Trial Collaborative Group. Lancet. 1997;349:1569-1581
4)Chen ZM, et al. Stroke. 2000;31:1240-1249
5)Chemowitz MI, et al. N Engl J Med. 2005;352:1305-1316
6)The SSYLVIA Study Investigators. Stroke. 2004;35v1388-1392
7)CAVATAS Investigators. Lancet. 2001;357:1729-1737
8)Alberts MJ. Stroke 2001;32(Oral Abst):325
9)Naylor AR, et al. J Vasc Surg. 1998;28(2):326-334
10)Yadav JS, et al. N Engl J Med. 2004;351:1493-1501
11)Barr JD, et al. Am J Neuroradiol. 2003;24:2020-2034

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