特別企画脳を救う医師たちの闘い
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| 脳神経センター 大田記念病院(福山市) 脳卒中診療部長 井上 勲氏 |
熊本市立熊本市民病院 神経内科部長 橋本洋一郎氏 |
脳卒中はmulti-disciplinary diseaseであり,この疾患に対応するためには脳卒中専門医と他科の専門医,看護師,各種療法士,管理栄養士,病棟薬剤師などによるチーム医療が求められる。しかし,現実の医療現場でチーム医療を円滑に実践するのは容易ではない。今回は,治療成績の公開やマルチオピニオン外来など,患者サイドに立った意欲的取り組みで知られる脳神経センター大田記念病院の井上勲氏に,脳梗塞急性期におけるチーム医療の実際についてうかがった。
“診療科の垣根のない脳卒中医療
チーム”で24時間の対応を実践
ハード面としては,ICU16床,SCU (stroke care unit)14床,SU(stroke unit)100床,療養型病床50床で,MRI 4 台,CT 4 台,DSA 2 台を備えています。
橋本 脳卒中センターとして機能するためには,これだけのスタッフと設備が必要だということですね。
井上 ハード面もそうですが,やはり一番重要なのは,スタッフなどのソフト面です。そこをどう充実させていくかが,カギだと思います。
橋本 救急患者への対応は具体的にどうなさっていますか。
井上 救急車からコールがあれば,到着前に発症時間や病態の情報を収集します。患者到着後直ちに血管確保や採血を行い,2 分以内に医師による診察を開始,10分以内に画像診断を開始,40分以内にSCUまたは血管造影室へ移送して治療を開始することを目標としています。
主治医は脳卒中専門医,
循環器や糖尿病の専門医がダブルチェック
井上 はい。当直は 2 人態勢で,20分以内にさらに拘束医師が駆けつける態勢で臨んでいます。
橋本 MRIは24時間稼動ですか。
井上 MRIだけでなくCTも,手術も24時間可能な態勢になっています。
橋本 脳卒中専門医は何名ですか。
井上 神経内科医が 7 名,脳神経外科医が 8 名です。PT,OT,STなどリハビリテーションスタッフは22名ですが,ベッド数からするとまだ少なく,大きな負担がかかっています。
橋本 熊本市民病院は552床なのにPTは 5 名しかいません。どうしてもリハビリテーションが手薄になり,早期にリハ施設に移ってもらうことになります。日本の脳梗塞急性期医療で一番の弱点は,急性期のリハビリテーションですね。
井上 急性期リハビリテーションは,PT,OT,STだけが行うものではなく,チームで進めるべきです。ですから,医師,看護師は起立訓練のときから関わります。特に重要なのは,脳卒中専門看護師です。彼らは神経所見や脳卒中スケールを取れますし,脳卒中ケアの専門知識を持っていますから,中心となって動いてくれています。
橋本 日本では,PT,OTがリハビリテーションを行わないと診療報酬がつかず,このために急性期リハがなかなか進まないという構造的問題があります。その点,先生の施設は医療チームが一丸となってリハビリテーションに取り組んでおられる。理想的ですね。
井上 うちの場合,医師の数が少ないため,チームで取り組まざるをえないのが実情です。脳梗塞患者の血糖値の管理は糖尿病専門医が行いますし,経食道エコーなどは循環器専門医と一緒に行っています。
橋本 主治医に任せきりにするのではなく,各科の医師がダブルチェック,トリプルチェックを行うシステムは,非常に有益だと思います。
井上 そのために毎朝,新患についてのカンファレンスをしています。
二次予防には炎症の関与も考慮して
アスピリンにスタチンを加える
井上 その点は今,院内で議論になっています。MRIだけでよいとの意見もありますが,MRIの診断基準が確立していないのが難点です。一方,t-PAが認可されましたので,最初にCTを撮り,t-PAの適応となる症例では治療を進めながらMRIを撮影すればよいとの考えもあります。
橋本 確かに今のところCTのエビデンスしかありませんから,まずCTを撮り,t-PAを投与してからMRIへ行くのが合理的かもしれません。そして,治療を開始するわけですね。
井上 搬送された時点から二次予防を考え,血栓溶解療法を行う患者は別として,禁忌のない例にはアスピリン 3錠を経口投与しています。
橋本 ラクナ梗塞の急性期治療は,どうなさっていますか。
井上 ラクナ梗塞では,NIHSS※の低い軽症例にはt-PAは用いません。その場合は,アスピリンとオザグレルで対応します。アスピリンは翌日から 1 錠に減らします。※NIH Stroke Scale
橋本 私たちは,アスピリン 2 錠を 2 週間程度続け,退・転院の前後に1 錠に減らしています。以前はオザグレルの単独投与が多かったのですが,最初からアスピリンを併用することで進行例が少なくなっているという印象はありませんか。
井上 データは取っていませんが,EBMの観点からもアスピリンは最初から使用すべきだと考えます。
橋本 アスピリンは抗血小板薬ですが,同時に抗炎症作用も持っています。私は,これが脳梗塞の進行を抑えるのではないかと考えています。抗炎症作用は用量に依存しますから,少し多めの量を長く使っていくことが大事かなと思っています。
井上 先生のご指摘の通り,脳梗塞では炎症,血小板凝集,凝固線溶系が相互に関係し合って,病態を悪化させます。この点から私たちは,抗血小板作用のみならず抗炎症効果も期待してアスピリンを用い,同時にスタチン併用も考慮します。
橋本 ラクナ梗塞にも,ですか。
井上 75歳以上,発症 6 時間以上,糖尿病合併例は梗塞が進行しやすいので,病型にかかわらず,急性期からスタチン併用を考慮しています。ラクナ梗塞も動脈硬化を基盤としたものが増えている印象があります。
抜歯や体表の小手術では,
抗血小板薬,ワルファリンの内服を継続
井上 以前は,歯科医に「抜歯のとき,抗血小板薬やワルファリンを中止しないでください」とお願いしても,苦情が相次ぎました。最近はガイドラインが出たこともあって,理解してくれる方が増えています。実際に,歯科治療時にワルファリンを中断して脳梗塞を起こす例は100人に 1 人程度ですが,発症すると死に至ることもあります。今後も,啓発を続けていくことが必要だと思います。
橋本 手術例についてはいかがですか。例えば,心原性脳塞栓症でワルファリンを服用している患者が転倒し,大腿骨頸部を骨折,当院整形外科に入院して手術となるケースがあります。そうした場合,最近ではワルファリンを切ったら,手術の 6 縲鰀12時間前までは必ずヘパリンを使い,術後,出血がおさまったらヘパリンとワルファリンを再開するようお願いしています。先生は,アスピリンについてはどうされていますか。
井上 大手術の場合,出血リスクを避けるためアスピリンは 7 日前に中止もしくはシロスタゾールに変更,3 日前にはこれも休薬します。患者には十分な説明を行い,脱水予防のため水分摂取を勧めます。止血を確認した段階で,投薬を再開します。
備後脳卒中ネットワークを構築
今のところ,年 1 回のシンポジウムやリハビリテーションやケアの質を上げるための研究会,予防に関する講演会,ホームページでの地域医療資源情報の公開などがおもな活動内容です。こうしたなかで,救急隊竏昼}性期病院竏茶潟n施設竏窒ゥかりつけ医の間の情報交換が密になり,連携できる関係を目指しています。
橋本 外科的治療は勝負が早いのですが,内科的治療は息の長い取り組みです。必然的に,神経内科医はかかりつけ医との連携,地域医療の底上げを目指さざるをえない点がありますね。
井上 私たちも,先生の主導された熊本方式,「継ぎ目のない脳卒中治療」を目指したいのですが,備後地区ではリハビリテーション病院が少ないのです。これをどうやって改善していくかも,重要な課題です。
脳卒中の背景に潜む睡眠時無呼吸症候群
竏註⊥ーのチェックも忘れるな
脳梗塞を防ぐため,一生懸命水を飲む方がいらっしゃいますが,私は不適切な生活(食・運動・睡眠・喫煙・多量飲酒)習慣を改めることの重要性を,強く訴えたいですね。
橋本 なるほど。米国のデータだと思いますが,SASを有する方が酒を飲むと,心原性脳塞栓症を起こしやすいという報告がありました。睡眠状況は,生活習慣病全般,脳卒中にも関わってくるとのご指摘ですね。
井上 そして,この症例に鼻マスクを用いるCPAP治療を行ったところ,無呼吸は改善し,4 剤併用でコントロールできなかった血圧も140/90mmHg以下まで下がりました。こうした症例を多数経験するなかで,脳卒中のリスク管理にも,睡眠の視点が不可欠だと考えるようになりました。
橋本 ご自分でCPAP治療までなさっている点には頭が下がります。今日は,本当に有益なお話をうかがいました。ありがとうございました。
糖尿病網膜症合併例でのアスピリン療法は安全か
糖尿病は脳梗塞発症の重要なリスクファクターであり,急性期脳梗塞患者が糖尿病を合併している例は多い。一方,アスピリンが脳梗塞の急性期および再発予防における標準治療薬であることは広く認められている。ところが,糖尿病網膜症を合併した脳梗塞では,出血リスクを懸念して,アスピリンの使用を躊躇するケースが見られる。 糖尿病網膜症におけるアスピリンの効果を見た大規模試験としては,1991年のEarly Treatment Diabetic Retinopathy Study(ETDRS)がある1)。糖尿病網膜症患者3,711例をアスピリン群(650mg/日)とプラセボ群に無作為割付し,7 年間にわたり観察したこの試験では,アスピリンの糖尿病網膜症に対する悪影響は何ら認められなかった。ETDRSを含むこれまでの検討から,糖尿病網膜症におけるアスピリンの効果を検証したBergerhoffらのレビュー(2002)でも,アスピリンの糖尿病網膜症に対する影響は認められないと結論されている2)。 これらを踏まえて,米国糖尿病協会のPosition Statementでは,アスピリンは糖尿病網膜症に対して禁忌ではないと言明している3)。日本循環器学会などの合同研究班による虚血性心疾患の一次予防ガイドラインでは,「冠危険因子を合わせ持つ糖尿病患者には禁忌でない限りアスピリンの使用が考慮されるべき」と記載されている4)。したがって私は,糖尿病網膜症の有無に関わらず,急性期脳梗塞患者には第 1 病日からアスピリンを使用すべきだと考えている。 1)ETDRS Research Group: Ophthalmology 98: 757-765, 1991. 2)Bergerhoff K, et al: Endocrinol Metab Clin N Am 31: 779-793, 2002. 3)Donald SF, et al: Diabetes Care 27: s84 -s87, 2004 . 4)1999-2000年度合同研究班: Jpn Circ J 65(Suppl V): 999-1065, 2001. |
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