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[2005年12月22,29日 (VOL.38 NO.51,52) p.22]

特別企画

脳を救う医師たちの闘い
脳梗塞急性期治療の最前線

No.3 急性期画像診断, その最新の考え方

熊本大学大学院
神経内科学分野
平野照之氏
熊本市立熊本市民病院
神経内科部長
橋本洋一郎氏

 脳梗塞に対するt-PA静注療法が承認され,急性期治療に有望な武器が加わった。しかしこれを活かすには,血栓溶解療法が有効な症例を画像診断で正確かつ迅速にピックアップする必要がある。そのためには従来通りCTを第一選択とするか,あるいは情報量の豊富さで上回るMRIを行うべきか。今回は,熊本大学大学院神経内科学分野の平野照之氏をゲストに迎え,CTとMRIの優劣や使い分けについてうかがった。併せて,診断・治療面で判断に迷った症例をご紹介いただき,脳梗塞治療における臨床のコツを語ってもらった。

t-PA承認で超急性期の選択肢が拡大

橋本 先ごろ,日本でもようやく脳梗塞に対するt-PA静注療法が承認され,超急性期治療の選択肢が広がりました。しかし,これを活用するには迅速で正確な病態診断が必要で,CT,MRIなど画像診断の適切な施行がますます重要になっています。
 そこで今日は,まず画像診断の現状や課題をお聞きし,続いて急性期の抗血小板療法についてうかがっていきたいと思います。ちなみに平野先生は,この分野の気鋭の研究者で,脳卒中領域の最優秀論文に贈られる日本脳卒中学会・日本心臓財団の草野賞も受賞されています。
 では,まずCTの話から始めましょう。脳梗塞急性期の診断では,MRIを主体にするところも増えていますが,多くの施設で利用可能な装置といえばCTです。発症 3 時間以内に血栓溶解療法の適応を判定するには,CTで初期の虚血性変化,すなわち“early CT sign”を捉えることが必要ですが,その意義や判読のポイントなどを教えていただけますか。

early CT signは虚血性組織障害の重症度を反映

図1
平野 early CT signは,脳実質に見られる虚血性変化で,主に細胞傷害性浮腫を反映しています。かつてCTでは,発症24時間以内の脳梗塞を検出することは難しいといわれてきました。しかし,1980年代後半に島回消失,レンズ核不明瞭化,皮髄境界不鮮明などの所見が報告され,しっかり見れば,脳虚血の初期変化を検出できることがわかってきました(図 1)。ガイドラインではearly CT signが広範に認められる症例は,超急性期の血栓溶解療法から除外することになっています。
 では,early CT signはどのような脳梗塞患者に見られるのか。この点について,中大脳動脈領域の梗塞患者53例を調べたところ,残存血流量と虚血持続時間が,early CT signの出現に関係する有意な因子であることが判明しました。つまり,残存血流量が低下しており,虚血時間が長い症例ほどearly CT signが出やすいということです。したがって,early CT signが出ている患者は重症度が高く,血栓溶解療法を行っても効果が期待できないということになります。
橋本 なるほど,それがearly CT signの臨床的意義ですね。これが認められた部位は,すべて梗塞を起こすのでしょうか。
平野 ほとんどが梗塞に移行しますが,皮質低吸収を伴わない脳浮腫では,梗塞を免れうることが報告されています。
橋本 するとCTを撮る場合,early CT signだけでなく,そこまで読む必要があるということですね。
平野 たとえearly CT signが出ていても,皮髄領域が保たれていれば血栓溶解療法の可能性もあることになりますから,皮質低吸収を伴わない脳浮腫の存在もチェックすべきだと思います。ただしearly CT signの可逆性,不可逆性については議論が分かれており,今後のさらなる検討が必要です。

early CT sign検出にはCT標準化が不可欠

橋本 脳実質のearly CT signは,CTフィルムを慎重に読まないと見落とすことがあり,判読者によって検出率に差が出るといわれます。
表1
平野 early CT signはきめて微細な変化ですから,検出率向上のためにはCT撮像法の標準化が必要です。この点については,大阪大学大学院の畑澤氏らの厚生労働省研究班が検討し,コンベンショナルスキャン(非ヘリカルモード)で撮影,管電圧135kV,管電流200mA,1 スライス当たり 2 秒,スライス厚10mmという至適撮像条件を導き出しました。
 しかし,この条件で撮影された脳梗塞超急性期のCT像を,専門医67名に読影してもらったところ,正診率は68%に止まりました。そこで表示方法を変え,window幅を狭くすると92%へと上昇しました。したがってearly CT signを見逃さないCTの撮像条件として,(1)管電流・回転速度の最適化,(2)window幅の最適化窶狽ェ欠かせないと思われます(表 1)。
 ウロキナーゼ動脈内投与の有効性を検討する無作為化比較試験MELT Japan*でも,これが画像診断のプロトコールになっています。ただし,撮像条件が同じでも,機種によって違いも出てきますで,そこでの調整も必要です。* MCA Embolism Local Fibrinolytic Intervention Trial1

注目されるDiffusion/Perfusion Mismatch

橋本 CTは判読が難しい,担当医によって検出率に差が出るということから,最近ではMRIを軸に脳梗塞急性期の診断を進めていこうという施設が増えています。こうした動きについて,どうお考えになりますか。
平野 これまでお話ししたように,CTで初期の虚血性変化を捉えることは可能ですが,撮像条件により検出率にバラツキの生じることが難点です。これに対してMRIは,拡散強調画像(diffusion-weighted image: DWI)や,灌流強調画像(perfusion-weighted image: PWI)が一般化し,超急性期から脳虚血の広がりや組織障害の分布を描出できるようになっています。これがMRIの最大の利点です。しかも判読が容易ですから,見落としのリスクはほとんどありません。したがって,MRIは今後,脳梗塞診療において中心的な役割を果たしていくとみています。
 MRIに関して現在,最も注目されているのが“Diffusion/Perfusion Mismatch”という概念です。MRIの灌流画像(PWI)では,脳虚血によって血流が低下している部位を平均通過時間が延長した領域として描出します。この低灌流域が,拡散強調画像(DWI)の高信号域(組織障害部位)より広いことが多く,合致しない部分をDiffusion/Perfusion Mismatchと呼びます。これが,血栓溶解療法のよい適応になると考えられます。
図2
橋本 血流が低下していても拡散障害のない領域では,血流再開により回復の可能性があるということですね。
平野 そうです。このミスマッチ領域は,ペナンブラとほぼ同義とみなされ,血栓溶解療法のターゲットになるというのが,現在の世界標準の考え方となっています(図 2)。
橋本 するとMRIでは,DWIとPWIの両方を施行する必要がありますね。
平野 そのとおりです。ただし,Diffusion/Perfusion Mismatchのすべてが血栓溶解療法の適応になるかというと,必ずしもそうとは言えないようです。例えば秋田県立脳血管研究センターと大阪大学のグループは最近,PETを用いて酸素代謝率を調べ,同じミスマッチ領域でも酸素代謝率が60%以上なら脳梗塞を免れるが,40縲鰀60%だと脳梗塞へ移行するという興味深いデータを報告しています。
 また,Diffusion/Perfusion Mismatchを正確に評価することで,血栓溶解療法の適応時間を 3 時間以上に延ばせるのではないか,との指摘もあります。これについても同じグループが,ミスマッチ領域では発症 3 日以内の再開通でも梗塞巣拡大を抑制できる可能性を示唆しています。しかし,Diffusion/ Perfusion Mismatchについてはまだデータが乏しく,今後の詳細な研究が待たれるところです。

病巣検出率はMRIが優れる

橋本 CTとMRIの利点や課題について教えていただきましたが,そこで知りたいのは,まずどちらを行うべきか,2 つの画像診断法の病巣検出率に差があるのかという点です。これについてはいかがでしょう。
表2
平野 その点を探るため,発症 6 時間以内にCTとDWIを実施した中大脳動脈領域の心原性脳塞栓症43例を調べました。方法はCT,DWIにより初期虚血病巣の有無,部位,梗塞体積を判定し,梗塞サイズ別に病巣検出率を比較するというものです。初期虚血病巣はCTではearly CT sign,DWIでは高信号域となります。
 その結果,CTでは陽性率が58.1%(43例中25例),中大脳動脈領域の 3分の 2 を超えるような大きな梗塞の予見率が44.7%。一方DWIの場合,陽性率97.7%(43例中42例),予見率65.5%で,虚血病変検出率はDWIが優れていました(表 2)。しかし,梗塞領域が中大脳梗塞動脈の 3 分の 1 以上の症例を除外する,いわゆる1/3ルールを適応すると,出血性梗塞の出現率は両者でほぼ同等でした。したがって,病巣検出率ではDWIが圧倒的に優れていますが,DWIを撮ることで出血性梗塞を減らせるとまでは言い切れません。
 では,まずCT,その後にDWIを行えば出血性合併症を減少できるかというと,それも難しいようです。
橋本 現時点で,CTとMRIの優劣は簡単にはつけられないわけですね。
平野 全国の救急施設へのアンケート調査によると,60%がMRIを保有していますが,24時間フル稼働しているのはその半数にとどまります。撮影方法についても,DWIは75%の施設が実施していますが,PWIとなると 5 %に過ぎません。超急性期診断にはMRIが有用と,私は考えていますが,こうした現状を見ると,MRIにこだわらず早く撮れるほうを優先することが大事だと言えます。

症例(1)TIAを繰り返すSLE43歳女性

橋本 脳梗塞治療をサッカーチームに喩えますと,フォワードに当たるのが,血栓溶解療法や血管内治療です。攻撃的治療で得点を稼ぎます。それを支えるのがミッドフィルダーで,アスピリンを中心とした抗血小板療法や抗凝固療法が主要メンバーです。これらをどう使うかで,予後は大きく変わります。二次予防を見据えた抗血栓療法をどう進めるか,先生のお考えを聞かせて下さい。
平野 ガイドラインに沿うことが基本ですが,実際にはケースバイケースで対応せざるを得ないのが実情です。そうした 2 症例を紹介します。
 第 1 例は,繰り返すTIAにアスピリンが有効だった全身性エリテマトーデス(SLE)患者です。43歳の女性で,失語,右手の脱力を来すTIAを繰り返すようになったため,当科に入院しました。SLEの治療薬としてプレドニゾロン10mg/日,抗リン脂質抗体症候群を合併していたためワルファリンも 5mg/日服用していました。
 画像診断ではMRAにより中大脳動脈の狭窄が検出されたものの,DWIで新たな梗塞巣は認められませんでした。入院後,常用していたワルファリンに加えてヘパリンを投与し,さらにアテローム血栓の可能性も考えアスピリン腸溶錠100mg /日を投与しました。その結果,TIAの発作はピタリと止まりました。その後,ヘパリンを漸減し,アスピリンとワルファリンの併用でフォローしていますが再発はありません。
橋本 ガイドラインでは,抗リン脂質抗体症候群があればワルファリンとなっていますね。
平野 ワルファリンにアスピリンを加えると,出血性合併症のリスクがありますが,中大脳動脈の狭窄が明らかだったので,低用量のアスピリンを併用してみました。
橋本 アスピリンとワルファリンをうまく使うことで,ドラマチックな改善が得られた例ですね。ぜひ参考にさせていただきたいと思います。

症例(2)アスピリンでTIAの頻度が
減少した頭蓋内血管炎の37歳女性

平野 もう 1 例は,高用量のアスピリンでTIAの頻度が減少した頭蓋内血管炎の症例です。この方は37歳で,ピル服用の既往があり,2 年前から子宮内膜症の治療のためホルモン療法を始めています。今年になって,顔面を含む右麻痺,失語などが頻発し,当科へ入院しました。CTAやMRAで,中大脳動脈起始部,内頸動脈遠位部に炎症が認められ,それによるTIAと診断しました。
 以前からワルファリンにシロスタゾールを併用していたのですが,今回の再発となったため,シロスタゾールをアスピリン200mg/日に変え,その後300mg/日に増量,さらにステロイドを加えました。まだ完全には症状を抑えきれていませんが,TIA発作は軽減しています。
橋本 なぜ,シロスタゾールからアスピリンに切り替えたのですか。
平野 アスピリンには,抗血小板作用以外に多くの作用があります。今回は,血管炎に対するアスピリンの抗炎症効果を期待して変更したのですが,それが奏効したかたちです。
橋本 なるほど。だから,アスピリンの用量を増やしたわけですね。アスピリンには抗血小板薬としてだけでなく,そうした使い方もあることがよくわかりました。本日は,貴重なお話をありがとうございました。

Aspirin Aspects-3

通常用量への切り替えはいつ行うのか

熊本市立熊本市民病院神経内科部長 橋本洋一郎

 よく知られているように,脳梗塞急性期におけるアスピリンの効果を証明したのは,ISTとCASTの 2 つの大規模臨床試験である。ISTでは,発症48時間以内の急性期患者19,435例をアスピリン300mg/日投与群と非投与群に無作為に割り付け,2 週間観察した。CASTでは,同じく発症48時間以内の20,655例に,アスピリン160mg/日またはプラセボを投与し,4 週間追跡した。そして,いずれの試験でも,アスピリンは有意なリスク減少効果を発揮したのである。
 これらの成績から,欧米や日本のガイドラインでは,発症48時間以内の脳梗塞急性期患者に対して160縲鰀300mg/日のアスピリン投与が推奨されている。一方,慢性期の二次予防に関して,日本では75縲鰀150mg/日が承認されている。すなわち,いずれかの時点で急性期の用量から100mg/日前後の維持用量に減量することが必要となる。しかし,このタイミングについては,世界的にもコンセンサスの得られていないのが現状である。
 私たちは,ISTおよびCASTの投与期間を踏まえ,第一病日より200mg/日を 2 週間投与し,その後100mg/日にて維持することを基準としてアスピリンを処方している。ただし,事前に依頼しているにもかかわらず,退院後の治療を担う実地医家で,維持用量への減量をためらうケースがある。専門病院の処方を変更することに,抵抗を感じているようだ。こうした点から現時点では,急性期用量は 2 週間を原則としつつ,退院を 1 つの目処とするのが,現実的な線引きではないかと考えている。

本ページはバイエル薬品株式会社の提供です

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