特別企画脳を救う医師たちの闘い
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| 東京都立荏原病院 神経内科医長 長尾毅彦氏 |
熊本市立熊本市民病院 神経内科部長 橋本洋一郎氏 |
脳梗塞急性期の治療は時間との勝負である。タイムリミットは発症後3時間以内。この段階で血栓溶解療法を行えば,後遺症を残さず回復する可能性も高い。そのためには,救急搬送体制の確立,住民の啓発などが欠かせないが,最も重要なのは脳卒中の専門医療チームによるstroke
unitでの治療である。実際,stroke unitの有効性はヨーロッパにおける多くの研究で証明されている。ひるがえって日本の実情はどうか。今回はこのstroke
unitにスポットを当て,そこでの治療の実際について話し合ってもらった。
チーム医療で患者を救うStroke unit
日本でstroke unitと言うと,重症例に濃厚な治療を行うstroke care unit(SCU)と混同されがちです。しかし,stroke unitのハードウエア自体は一般病棟と同じです。相違点は,脳卒中に関する専門知識を持つ医師(脳神経外科医,神経内科医),看護師,OT・PTなどのセラピスト,薬剤師,管理栄養士などが学際的チームを組み,高度医療や感染対策・栄養管理,早期離床・早期リハビリテーションに当たる点です。つまり,stroke unitは救急車で搬送され,超急性期治療をすませた後の受け皿と位置付けられます。
都立荏原病院は,早くからstroke unitを立ち上げ,目覚ましい成果を挙げておられます。開設の経緯や治療の実際について,ご紹介ください。
1994年から当直2系列化などに
取り組んできたパイオニア
そして2003年10月,これを原型にstroke unitを設け,(1)急性期専用病床の確保,(2)診療マニュアルの作成,(3)救急隊・連携医専用のホットライン開設,(4)専任ソーシャルワーカーの任命,(5)16列マルチスライスCTの導入などを行いました。stroke unitと言っても,ハード面では過去10年間進めてきたものを踏襲しており,ソフト面を強化したというのが実態です。
さらに今年10月,stroke unitの二次開設ということで,(1)MRIなど診断装置の更新,(2)MRI画像を病棟でリアルタイムに見られるシステムの整備,(3)脳卒中専用病室(4 床 2 室)への改修,(4)stroke unit専任看護チームの結成など,ソフト・ハード両面から診療態勢のいっそうの充実を図っています。
橋本 実際に診療に当たる医師は,何名ですか。
長尾 現在は神経内科医 9 名,脳神経外科医 4 名という構成です。
橋本 それだけのスタッフがいれば,2系列の当直も可能ですね。
長尾 以前は脳神経外科医も 6 縲鰀 7 名いましたが,転勤などで 4 名に減ったため,今は週末だけ 2 系列,平日は神経内科のみの 1 系列で対応しています。
MRIの24時間稼動をいち早く実施
長尾 国公立病院では最初だったと思います。これは,放射線科医と技師の努力のおかげと感謝しています。
橋本 それから,stroke unitのなかに脳卒中専用病室を設けられたとのことですが,これも新しい試みですね。
長尾 2 室を監視できるモニタールームを挟んで,その両側に脳卒中急性期患者専用ベッド各 4 床の専門病室をつくりました。ここにstroke unit専任の看護スタッフに常勤してもらい,より高度なケアの実現を目指しています。
橋本 入院期間はどのくらいですか。
長尾 平均 5 日を目標にし,症状が安定したら一般病棟へ移り,その後リハビリテーション科へ転科,または連携している病院に転院してもらいます。
橋本 神経内科と脳神経外科を合わせたベッド数はどのぐらいですか。
長尾 約90床で,うち50縲鰀60%が脳卒中患者です。しかも,他の変性疾患を含めても 8 割が緊急入院ですから,きわめて多忙な第一線病院と言えます。
地域の中核に1個のCSC,
周辺に数個のPSCが点在する形が理想
長尾 それを目指して努力している,というのが現状だと思います。先生のところはいかがですか。
橋本 うちの施設には,脳血管内治療の専門医がおらず,ICUはあってもSCUがありません。ですから,どちらかと言えばPSCに近いですね。熊本地域でCSCに相当するのは済生会熊本病院,その周囲にわれわれの熊本市民病院,熊本赤十字病院,熊本医療センターなどのPSCが点在する形になっています。
長尾 発症後 3 時間以内に血栓溶解療法を行うには,遅くとも 2 時間以内に病院に到着しなければなりません。住民が短時間で到着できる範囲にPSCがいくつか配置され,脳血管内治療などの高度医療を実施するCSCが広域に 1 つはある形が理想的です。この点で熊本は,診療態勢が整っていますね。
脳卒中患者の多くに「安静」は不要!
長尾 実際,われわれの施設でもstroke unitの設置で,好結果が得られています。脳卒中の早期診断・治療には,やはり専門チームの存在が欠かせないというのが実感です。特に重要なのは,経験豊富なコメディカルスタッフがそろっているかどうかで,それによって患者の予後は大きく変わりますね。
橋本 何か,問題点はありますか。
長尾 受け持ち医によりリハビリテーションの開始がやや遅れる点です。今回のstroke unit二次開設では,この点を改善していきたいと考えています。
橋本 それは,荏原病院に限らず日本全体の課題ですね。わが国では,脳卒中患者の「安静」を重視しすぎる傾向があります。ドイツでは,内頸動脈閉塞や脳幹梗塞の患者でも入院したその日から歩かせますが,それで悪化する例はほとんどありません。私も原則的に安静は不要と考えており,早期離床と早期リハビリテーションを心がけています。
長尾 まったく同感です。ただ,なかにはハイリスクの例もいますから,これを的確に選別することが必要です。24時間MRIは,その点でも有用な情報を提供してくれます。
病型により抗血小板療法と
抗凝固療法を使い分けることがポイント
具体的には,急性期に抗血小板療法を行うのはアテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞で,3 日間を目処にオザグレル点滴投与を行います。以後,経口摂取開始とともにアスピリン内服に切り替えます。オザグレルを 3日としたのは,予後改善に影響するのは最初の 3縲鰀 5 日で,以降は自然経過と変わらないという成績を持っているためです。
ドイツで学んだ入院初日からのアスピリン使用
長尾 今のところしていませんね。
橋本 これもドイツで学んだことですが,向こうでは入院当初からヘパリン点滴と同時に,アスピリンの内服を開始します。それで予後がよいため,以来私も入院初日からアスピリンを用いるようにしています。
長尾 オザグレルはどうされていますか。
橋本 入院日からアスピリンに併用する形で使っています。例えばラクナ梗塞の場合,オザグレル単独使用の時代は 2 割程度の患者が進行していましたが,アスピリンとの併用に切り替えてからその割合が確実に減っています。この同系統の 2 剤の併用について疑問視する向きもありますが,アスピリンは抗血小板作用に加え抗炎症作用も持っています。私は,この抗炎症作用が奏効しているのではないかと推測しています。
長尾 これまで両薬併用で脳出血を招いたようなケースはありませんか。
橋本 1 例も経験していません。アスピリンとオザグレルの併用には今のところ確固たるエビデンスはなく,われわれの臨床経験に基づくものです。しかし,予後に好影響をもたらし,他剤を短期間で終了できるメリットがあります。コスト削減にもつながりますから,私はとても有益な方法ではないかと考えています。
長尾 ぜひ,参考にさせていただきたいと思います。
t-PA療法はDWI-MTTミスマッチより
DWI-CBFミスマッチを指標に
長尾 現時点で血栓溶解療法を行うのは,MRIの拡散強調画像(DWI)と灌流画像(PWI)/局所脳血流量(CBF)イメージのミスマッチ(DWI-CBF mismatch)例に限定しています。このため出血性合併症はほとんどなく,成績も良好です。
橋本 Ischemic penumbraの検出にはDWI-PWIミスマッチが有用で,PWIのパラメータとしてはMTT(局所平均通過時間)が一般的だと思います。DWI-CBFミスマッチを重視するのはなぜですか。
橋本 血栓溶解療法の適用症例についてはどうお考えですか。
長尾 まず,t-PAは治験段階ではおもに心原性脳塞栓症に用いられてきましたが,ラクナ梗塞での効果はどうなのか。またCTやMRIの標準化,diffusion-perfusion mismatchをどう扱うかも課題です。さらに,カテーテルを用いた経動脈的血栓溶解法と機械的血栓破砕療法との住み分けについても,議論していかねばならないと思います。
橋本 まだお聞きしたいことは山ほどありますが,それは次の機会ということにしましょう。本日は,興味深いお話を長時間ありがとうございました。 脳梗塞急性期におけるアスピリンの予後改善効果は,1997年に発表されたIST*,CAST**の 2 つの大規模臨床試験で確立したと言える。
嚥下困難な症例でアスピリンをどう用いるか
脳梗塞急性期におけるアスピリンの予後改善効果は,1997年に発表されたIST*,CAST**の 2 つの大規模臨床試験で確立したと言える。両試験の結果から,アスピリンは投与開始後
2 縲鰀 4 週間で,1,000例当たり約10例の死亡または脳卒中再発を減少させることが確認された。また,その使用は,発症後できるだけ早期に開始すべきであることが示唆された。 ここで問題となるのは,脳梗塞急性期の患者には,嚥下困難な例が少なくない点である。アスピリンが安全に服用できない患者に対し,ISTでは坐薬または静脈内投与が採用された。CASTでは,経鼻胃管による投与が行われた。ところが日本では,アスピリンに注射剤はなく,脳梗塞に適応を有するのは腸溶錠と緩衝錠のみである。このうち緩衝錠は,粉砕が望ましくないとされている。 したがってわれわれは,腸溶錠を粉砕し経管投与する方法を行っている。消化管での忍容性を高めた腸溶錠の場合,胃では溶けない設計のため,通常は薬効発現まで 4 時間程度を要する。しかし,噛み砕いて服用した場合,約15分で効果が発現するという。 錠剤の経口投与が可能となった段階で,速やかに内服に切り替えるべきであるが,それまでは(1)胃に食物が残存しているとき投与する,(2)水分制限がなければ十分量の水とともに投与する,(3)胃腸薬と併用するなど,胃腸障害軽減のための工夫が必要となるだろう。 **International Stroke Trial **Chinese Acute Stroke Trial |
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