Stroke2013, Evening Seminar 8
Anti-Platelet Therapy in Endovascular Neurosurgery

脳血管内治療周術期の抗血小板療法


冨永 悌二 先生

Kevin M Cockroft 先生
座長
冨永 悌二 先生
東北大学大学院 医学系研究科 神経外科学分野 教授


演者
Kevin M Cockroft 先生
Associate Professor, Departments of Neurosurgery, Radiology & Public Health Sciences Co-Director, Penn State Stroke Center, Penn State Milton S. Hershey Medical Center, USA

  抗血小板療法は,脳卒中の一次・二次予防,および急性期における内科的治療の基本であるだけでなく,血管内治療補助療法として欠くことができないものである。適切な抗血小板療法は血管内治療の良好な転帰をもたらす上で重要な役割を担うが,一口に血管内治療といっても,患者の病態や血栓塞栓症リスク,用いるデバイスなどによって必要とされる抗血小板療法はそれぞれ異なる。
  本セミナーでは,血管内治療先進国の米国Penn State Stroke CenterよりKevin M Cockroft先生をお招きし,脳血管内治療の最新事情と,その周術期に求められる抗血小板療法のありかたについて,米国のコンセンサスを中心にお話しいただいた。

脳血管内治療の際に用いられる主な抗血小板薬
  現在,米国において脳血管内治療の際に使用されている主な抗血小板薬として,アスピリン,クロピドグレル,abciximab(本邦未承認)がある。
  アスピリンは1899年に上市されて以来,抗血小板薬としても豊富な臨床エビデンスが蓄積されてきた非可逆的シクロオキシゲナーゼ阻害薬である。経口投与で速やかな効果発現が得られることや,さまざまな用量の製剤を有し,使い勝手がよいことなどが特徴であり,脳梗塞や心筋梗塞予防の基本薬として広く用いられている。
  クロピドグレルは,効果発現には時間を要するが,アデノシン二リン酸(ADP)受容体の阻害というアスピリンとは異なる機序で血小板凝集を抑制する薬剤であり,より強力な抗血小板療法が求められる局面において,アスピリンとの2剤併用療法に汎用されている。
  また,グリコプロテイン(GP)IIb/IIIa受容体拮抗薬であるabciximabは,アスピリンやヘパリンとの併用も可能な静脈内投与型製剤である。半減期は比較的短いが,GP IIb/IIIa受容体との結合活性がきわめて強いため,急速な作用消失が必要とされる場合には血小板輸血が必要となる。
  以下,これらの薬剤を用いた抗血小板療法の米国における実際について述べる。
頸動脈ステント留置術/頭蓋内ステント留置術周術期の抗血小板療法
  脳血管内治療に際して抗血小板療法が必要とされる局面は,虚血性脳血管障害における頸動脈ステント留置術(CAS),頭蓋内動脈ステント留置術,脳梗塞急性期の血栓溶解または機械的血栓回収療法,ならびに脳動脈瘤に対する塞栓術を行う場合である。
  CASの適応についてはいまだ議論のあるところであり,明確なコンセンサスが得られている適応病態は,頸動脈または前頸部の手術歴を有する患者,ないし頸部への放射線治療歴を有する患者のみである。重大な心血管疾患のために全身麻酔下での外科的治療のリスクが高いと考えられる患者にもCASを考慮できるが,無症候性狭窄をはじめとする一部の症例に対するCASに関しては,国や一部の民間保険会社からの費用償還は制限されている。
  さらに,頭蓋内ステント留置術を取り巻く現状はCAS以上に議論の余地のあるところで限定されており,保険で医療費が償還されるケースはきわめて少ない。これは,高度頭蓋内狭窄による脳梗塞患者において頭蓋内ステントと内科的治療を比較したSAMMPRIS(Stenting and Aggressive Medical Management for Preventing Recurrent stroke in Intracranial Stenosis)試験において,ステント留置術施行群において脳卒中および死亡の発症率がより高い結果が示され,試験が早期に中止されたためである。そのため現在では,頭蓋内ステント留置術の適応は,最大限の内科的治療にもかかわらず高度(70~90%)の頭蓋内動脈狭窄に関連して2カ所以上の梗塞巣を有する患者に限られている。加えて,早すぎる施術はリスク増加につながる可能性が指摘されているため,脳梗塞発症から7日後以降に施術することが条件とされている。
  CASおよび頭蓋内ステント留置術の周術期における抗血小板療法のレジメンは,表1表2に示すとおりである。なお,頸動脈は大きな血管であるため,CASの場合は万一術後の服薬を失念しても大事に至る可能性はさほど高くないが,念のため6週間程度は低用量アスピリンとクロピドグレルの2剤併用療法を継続すべきである。一方,頭蓋内動脈は細く閉塞しやすい血管であるため,頭蓋内ステント留置術後の2剤併用療法は必須である。


脳梗塞急性期の血管内再灌流療法周術期の抗血小板療法
  脳梗塞急性期の血管内治療には,t-PAの脳動脈内投与と機械的血栓回収療法がある。前者は現在ほとんど行われていない。また,機械的血栓回収療法では何らかのデバイスを用いるが,これはステントのように血管内に永続的に留置するものではないため,やはり抗血小板療法は不要である。
  デバイスで血栓を取り切れず,緊急ステント留置が必要となった場合は抗血小板療法が必要となる。その場合,緊急の抗血小板作用を要するケースではabciximab静脈投与が多く用いられる。もう1つの選択肢として,クロピドグレルを300~600mgを負荷用量として経管投与する方法もあるが,効果発現にはより時間を要する。いずれのケースにおいても頭蓋内ステント留置の場合には,術後のアスピリン・クロピドグレル併用療法が必要となる。
  なお,血管内治療を必要としない症例については,t-PA静注の有無にかかわらず発症24~48時間後にアスピリン325mgを投与することが推奨されている。これは2013年3月に改訂された米国心臓学会(AHA)と米国脳卒中学会(ASA)の急性脳梗塞の早期管理ガイドラインにおいて,クラスI・レベルAのエビデンスに裏打ちされた推奨事項とされている(表3)。

脳動脈瘤の血管内治療周術期の抗血小板療法
  抗血小板療法は,虚血性脳血管障害の血管内治療だけでなく,出血性脳血管障害である脳動脈瘤に対する塞栓術の際にも重用されている。
  脳動脈瘤の塞栓術には,バルーンまたはステントアシスト下でなされるものを含めたコイル塞栓術と,液体塞栓物質やflow diverterデバイスといった新たな塞栓術がある。このうちコイル塞栓術の施行に際しては,通常抗血小板療法は不要である。ただし,高齢者や動脈硬化性疾患を有するハイリスク患者に対しては,手技に先立って低用量アスピリンを投与することが,カテーテル関連の血栓塞栓イベントリスクを低減する上で有用である可能性がある。また,ステントを用いる場合,アスピリンに加えてクロピドグレルを併用し,両剤の併用療法を術後も継続すべきである(表4)。バルーンによる血管形成術や親動脈閉塞など,術中の血栓塞栓イベントリスクが大きいケースでは, アスピリンとクロピドグレルの術前投与を考慮すべきである。


また,コイルの留置が困難なwide-neck動脈瘤や side wall型動脈瘤,嚢状脳動脈瘤に対しては,液体塞栓物質を用いた塞栓術やPipelineデバイスを用いたflow diverter法が有用である。特に,親動脈にデバイスを留置するだけで動脈瘤を遮断できるflow diverter法は急速に普及しつつあり,液体塞栓術はその影に隠れ気味であるが,flow diverter法のデバイスは金属露出部分が大きいため,より強力かつ長期にわたる抗血小板療法の併用が必要となる。加えて,flow diverter留置後の動脈瘤閉塞は通常,即時的ではなく6~12ヵ月を要するため,通常この方法は破裂動脈瘤には不向きである。  液体塞栓術およびflow diverter法施行時の周術期の抗血小板療法は,基本的にステント留置時と同様で,術前は低用量アスピリンとクロピドグレルの2剤併用療法を1週間,術中はヘパリン静注,術後に2剤併用療法を行う。ただし継続期間に関しては,液体塞栓術が6週間であるのに対し,flow diverter法の場合は前述の理由により3~6ヵ月(または動脈瘤の閉塞まで)が必要である(表5)。  また,flow diverter法では,確実な抗血小板療法が求められるため,P2Y12 assayによる血小板機能検査が必須である。なお,検査の結果,クロピドグレルの効きが不十分であった場合は,セカンドチョイスとしてticagrelor(本邦未承認)やチクロピジンなどへの切り替えを考えるべきであろう。

質疑応答
フロア
ステント留置後の抗血小板薬2剤併用療法の期間は6週間ということだが,それ以降は抗血小板を投与しなくてもよいのか。
Cockroft
特にハイリスクではない患者へのステント留置の場合は不要と考えている。ただし,動脈硬化性疾患の既往のあるハイリスク者の場合は,その後もアスピリン単剤か,場合によっては2剤併用療法が必要となることも当然あり得る。
フロア
Flow diverterによる脳動脈瘤の塞栓を行った場合はどうか。術後の抗血小板薬2剤併用療法期間は6ヵ月程度ということだが,その後は不要なのか。
Cockroft
動脈瘤が完全閉塞している限り,塞栓術後6ヵ月以降の抗血小板薬の併用療法は必要ないものと考えている。一旦動脈瘤が完全閉塞すれば,血管内皮がデバイスを覆い血栓形成性が消失するためである。動脈瘤は動脈硬化性疾患とは異なり,患者は特に持続した血栓リスクを有していないケースが多い。