Medical Tribune 2011年5月12日掲載
特別企画
座談会
ガイドラインと実臨床における抗血小板薬の位置付けを考える


棚橋紀夫氏

Udaya S. Tantry氏

Charls P. Warlow氏

Jay P. Mohr氏

長尾毅彦氏

久門良明氏
司会
  • 棚橋 紀夫 氏 埼玉医科大学 国際医療センター 副院長
ディスカッサント
  • Udaya S. Tantry 氏 米国・ボルチモアサイナイ病院 サイナイ血栓症研究センター 研究室長
  • Charles P. Warlow 氏 英国・エジンバラ大学 神経内科学 名誉教授
  • Jay P. Mohr 氏 米国・コロンビア大学 臨床神経学 教授
  • 長尾 毅彦 氏 東京女子医科大学 神経内科 臨床准教授
  • 久門 良明 氏 愛媛大学大学院 脳神経病態外科学 准教授
   脳梗塞急性期・慢性期の抗血小板療法,心房細動や頸動脈病変を有する脳梗塞例に対する抗血小板療法の在り方を探るため,日米欧の専門家6氏を招へいし,座談会を開催した。治療ガイドラインと実臨床における抗血小板薬の位置付けの共通点や相違点を明らかにしながら,議論していただいた。




脳梗塞急性期の抗血小板療法
第一選択薬はアスピリン

棚橋 欧米および日本のガイドラインは,いずれも脳梗塞急性期の抗血小板療法の第一選択としてアスピリン投与を推奨しています(表1)。一方,アスピリン以外の抗血小板薬は十分なエビデンスがなく,勧められないと評されています。先生方,急性期の抗血小板薬の使い方について質問や意見はありますか。


長尾 Tantry先生にお尋ねしたいのですが,心原性と非心原性脳梗塞に対する急性期の血栓止血学的な治療アプローチは,基礎医学の観点からは同じと考えておられますか。
Tantry 心原性と非心原性では病態生理が大きく異なります。心原性ではトロンビンや凝固系が主に働き,非心原性では血小板がメジャープレーヤーです。アスピリンは血小板の凝集を来すトロンボキサン(TX)のみならずトロンビンにも関与しますので,どちらの病態にも急性期にはアスピリンの効果が期待されます。
Mohr 私は心原性にはまず未分画ヘパリンを用い,その後ワルファリンを使います。しかしアスピリンは救急搬送途中,あるいは組織プラスミノゲンアクチベータ(t-PA)療法や血管内治療を行えない施設でも使用できます。それに抗凝固薬と比べて出血リスクも低いですから,脳梗塞急性期での使用意義は非常に大きいといえます。
久門 そうした認識は市民レベルにまで十分浸透しているのでしょうか。
Mohr はい。米国では,脳梗塞は一刻を争う急性疾患として知られ,できるだけ発症早期にアスピリンを投与することが望ましいと考えられています。
Warlow 英国の標準治療では,アスピリン投与を300mg/日で始めます。エビデンスが乏しい他の抗血小板薬はほとんど使われていません。
長尾 アスピリンがt-PA療法の障害になることはありませんか。
Mohr むしろt-PA静注前のアスピリン投与は歓迎されることです。

脳梗塞慢性期の抗血小板療法
併用の適否は慎重に判断を

棚橋 慢性期の非心原性脳梗塞に対しては,欧米と日本のガイドラインで少し異なる抗血小板薬が推奨されています(表2)。第一選択薬にアスピリンを含む点は共通していますが,日本ではアスピリンとクロピドグレルを「グレードA」,シロスタゾールとチクロピジンを「グレードB」と位置付けています。米国ではアスピリン,アスピリンと徐放性ジピリダモールの併用,クロピドグレルを推奨しています。ただ,最新版ガイドラインはアスピリン単独投与のみを「クラスⅠ・レベルA」とし,後二者のエビデンスレベルを下げましたね(Stroke 2011; 42: 227)。


Warlow PRoFESSをはじめ,アスピリン+徐放性ジピリダモール併用の効果を検討した試験や,アスピリンとクロピドグレルの効果を比較したCAPRIE試験についても見解が述べられています。
Tantry アスピリン抵抗性例は非常にまれと考えられますが,クロピドグレルについては肝でシトクロムP450(CYP)2C19など複数のCYP酵素で代謝されて活性体となるため,プロトンポンプ阻害薬などと相互作用を来し,臨床効果が低下することが指摘されています。またアジア人ではCYP 2C19*2の遺伝子多型が欧米人と比べて多く見られ,クロピドグレルの活性が低下している可能性もあります。血小板機能検査を実施して効果が見られなければ,他薬への変更が望ましいと思います。
Warlow 多数の臨床試験を通じて,脳梗塞慢性期例に対するアスピリンの有用性は確立しています。クロピドグレルは一部のアスピリン禁忌例に用い,アスピリンとクロピドグレルの併用は出血リスクを考慮し,慎重であるべきです。
Mohr アスピリンは安価で効果が大きいので当然選択されるべきです。
棚橋 コストとベネフィットの観点からもアスピリンは重要視されているというわけですね。
Tantry さらにアスピリンには抗血小板作用のほか,抗炎症作用や抗動脈硬化作用などが認められ,多面的作用による血管内皮機能の改善が低用量アスピリンの抗血小板効果にプラスアルファの効果をもたらすと考えられます。アスピリンの注目すべき特性といえます。

CEA・CAS施行時の抗血小板療法
アスピリンが基本薬になる

棚橋 ところで日常臨床において,心房細動を合併した脳梗塞患者には従来ワルファリンなどを用いた抗凝固療法が選択されてきましたが,こうした症例に対してアスピリンはどのように位置付けられていますか。
長尾 日本のガイドラインはJAST試験の結果(Stroke 2006; 37: 447)などを受けて,アスピリン投与を推奨していません。しかし欧米のガイドラインは,抗凝固薬の代替薬として唯一アスピリンを挙げています(Eur Heart J 2006; 27: 1979)。ただしACTIVE-W,ACTIVE-Aの両試験では,アスピリンとクロピドグレルの併用でもワルファリンと同等の予防効果は得られていません(Lancet 2006; 367: 1903/N Engl J Med 2009; 360: 2066)。心房細動合併脳梗塞例に対する抗血小板薬の併用は望ましくないと考えます。
棚橋 では,最後に頸動脈内膜剥離術(CEA),頸動脈ステント留置術(CAS)を施行する際の抗血小板薬の選択についてはいかがでしょうか。
久門 アスピリンとクロピドグレルないしシロスタゾールを2剤投与されているケースでは,CEA施行時は術後の創部出血が懸念されるため,術前・術後はアスピリン単独投与が基本です。不安定プラークの場合,アスピリンとクロピドグレル併用の継続も考慮します。一方CAS施行時は,アスピリンとクロピドグレルの併用を術前と術後約1~3カ月間続けるのが一般的です。それでも脳梗塞を生じるリスクが高い場合,シロスタゾールを加えた3剤併用を行います。抗血小板薬の併用を考慮する際は血小板機能検査を行い,その適否を見極めることが望ましいと思いますが,それがなされていないことが多いのが現状です。
Tantry 血小板活性以外に原因があるのに抗血小板薬を追加しても意味がありませんから,炎症・凝固系因子の測定も必要かもしれませんね。
棚橋 まだまだ論点は見いだせますが,CEA・CAS施行時もアスピリン投与をベースとする抗血小板療法が行われていることは確認できました。
  本日は日米欧のガイドラインと実臨床における脳梗塞急性期,そして慢性期の抗血小板療法を中心に議論しました。その結果,アスピリンが抗血小板薬の中で最も豊富かつ良質なエビデンスを有し,今も基本薬と位置付けられていることが分かりました。アスピリンは医療経済性にも優れ,近年その多面的作用が次々と明らかとなり,古くて新しい薬剤として今後も目が離せません。有意義な話題や観点を提示していただき,ありがとうございました。
日本におけるバイアスピリン®錠の承認用量は1日1回100mg。症状により1回300mgまで増量できる。



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