Medical Tribune 2011年5月5日掲載
特別企画
Bayer Stroke Forum 2010: "Real World and Evidence"
抗血栓療法の実際とエビデンスを探る


篠原 幸人 氏

山口 徹 氏

峰松 一夫 氏

井上 亨 氏
世話人
  • 篠原 幸人 氏 国家公務員共済組合連合会 立川病院 院長
座長
  • 山口 徹 氏 国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 院長
  • 峰松 一夫 氏 国立循環器病研究センター 副院長
  • 井上 亨 氏 福岡大学脳神経外科 教授
  • 井上 亨 氏 福岡大学脳神経外科 教授
   先般Bayer Stroke Forum 2010(世話人:篠原幸人氏)が東京で開催された。アスピリンをはじめとする抗血栓薬の臨床使用実態とエビデンスを探るフロンティア・セッション(座長:山口徹氏),クリニカル・セッション(座長:峰松一夫氏・井上亨氏),パネルディスカッション(同)が展開され,全国から集まった臨床家らが議論を深め合った。当日の模様を報告する。

フロンティア・セッション
炎症,動脈硬化とアスピリン:新たな洞察
Udaya S. Tantry 氏 米国・ボルチモアサイナイ病院 サイナイ血栓症研究センター 研究室長


Tantry
   アスピリンは今日,抗血小板療法の基本薬として脳・心血管イベント予防に活用されている。一方でアスピリンは解熱・消炎・鎮痛に使われてきたほか,最近では抗酸化,抗動脈硬化作用なども報告されている。Tantry氏はアスピリンの多面的作用(pleiotropic effect)を概説,有用性を最大限引き出す要点を示した。
COX-1阻害による抗血小板作用以外も臨床効果に関与か
  アスピリンの脳・心血管イベント抑制効果は多数のランダム化比較試験(RCT)で証明され,日米欧の抗血栓療法ガイドラインで基本薬として推奨されている。国際共同研究,Antithrombotic Trialists'(ATT) Collaborationのメタ解析でアスピリンは,重大な血管イベント(心筋梗塞・脳卒中・血管死)発生の相対リスクを12%,再発の相対リスクを19%低減しうることが示された(Lancet 2009; 373: 1849)。
  アスピリンは,その構造中のアセチル基が血小板のシクロオキシゲナーゼ(COX)-1をアセチル化し,不可逆的に不活化させる。COX-1の作用が阻害されると血小板膜のアラキドン酸の代謝が抑えられ,強力な血小板凝集促進物質であるトロンボキサンA2(TXA2)の生成抑制につながる。しかし最近,アスピリンの脳・心血管イベント抑制機序はCOX-1阻害による抗血小板作用のみで説明できないと考えられるようになってきた。
アスピリン抵抗性の発現頻度は測定法によって大きく異なる
  アスピリンを投与しても血小板凝集が十分に阻害できず,その活性が維持されるケースがアスピリン抵抗性として近年話題になっている。だが,アスピリン抵抗性を臨床的に評価することは容易でない。その理由として,(1)アスピリンは主にCOX-1を不活化させることで血小板凝集を抑制するが,COX-1を介さない経路でも血小板が活性化する,(2)血小板の活性は性,年齢,糖尿病合併の有無など患者背景によっても大きく変動する—などが挙げられる。
  血小板凝集能の測定法はCOX-1特異的方法と非特異的方法に大別されるが,非特異的方法ではアスピリン抵抗性の発現率が高くなる傾向が見られる。また,アスピリン抵抗性には服薬コンプライアンスが大きくかかわっている。経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行患者を対象とする検討では,服薬コンプライアンスの改善によりアスピリン抵抗性を示す例は減り,真のアスピリン抵抗性例は全体の1%未満にすぎないことが確認された()。さらに安定冠動脈疾患患者を対象とするASPECT研究では,アスピリンの増量によりCOX-1を介さない経路でも抗血小板作用が発揮されることが示唆された(Circulation 2007; 115: 3156)。

アスピリンは抗血小板以外の多面的作用を有する
  アスピリンの脳・心血管イベント抑制の一部を担うものとして新たに着目され始めているのが,アスピリンの多面的作用である。アスピリンは抗炎症作用を有し,例えば安定狭心症患者に300mg/日を投与した検討では,インターロイキン-6やC反応性蛋白(CRP)の低下が認められている(Circulation 1999; 100: 793)。
  また,アスピリンはCOX-2の修飾を介して血管内皮に影響し,アラキドン酸からのアスピリン誘導リポキシン(ATL)の合成を促す。ATLは強力な抗炎症物質で,抗血栓効果を併せ持つ血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の産生を促し,一酸化窒素(NO)を産生させる。実際,高血圧症患者にアスピリン162mg/日を8週投与したところ,内皮依存性血管拡張反応が有意に改善したことが報告されている(Clin Cardiol 2001; 24: 705)。さらにアスピリンの構造中のサルチル基もNF-κB依存性の遺伝子発現を抑制することで抗酸化作用を示すことが知られており,これも抗炎症・抗血栓効果につながると考えられる。
  Tantry氏は「アスピリンは発見後110年を経た最古の抗血小板薬だが,抗炎症・抗動脈硬化といった多面的作用を有している。新たに見いだされてきた抗血小板以外の作用にも着目し,上手にアスピリンを活用することが重要である」と結んだ。

クリニカル・セッション講演1
抗血栓薬アスピリンの60年史
Charles P. Warlow 氏 英国・エジンバラ大学 神経内科学 名誉教授


Warlow
   ドイツ・バイエル社のHoffmanが1897年に合成したアスピリンは20世紀前半,最も有名な鎮痛薬として世界中で広く用いられた。しかし,その抗血栓作用が見いだされたのは20世紀後半である。Warlow氏は,米国の開業医Lawrence L. Cravenの報告に始まる,アスピリンの抗血栓薬としての60年を振り返った。
1950年代:アスピリン例での脳卒中,心臓発作減少に気付く
  Cravenは1953年,Mississippi Valley Medical Journalに驚くべき論文を発表した。約8,000例に毎日アスピリンを投与した結果,誰も脳卒中や心臓発作を起こさなかったという報告が,アスピリンの抗血栓作用を指摘した最初の成績である。
  続く1960年代は,「抗血小板作用発見の時代」と位置付けられる。この時期,英国のO'Brienと米国のWeissによりアスピリンの抗血小板作用が発見されたからである。とはいえ,Warlow氏が医師資格を得た60年代後半,脳卒中急性期の治療法は皆無で,この病気に興味を持つ臨床家はほとんどいなかったという。
70年代:RCTが開始されるがなかなか有意差が得られない
  1970年代は,アスピリンを用いたRCTが始まった時期である。冠疾患患者における冠疾患予防,脳血管障害既往例での脳卒中予防の効果を見るため,いくつものRCTが実施された。
  このうち最も重要なのは,78年のCanadian Cooperative Studyである。同試験では虚血発作既往585例を対象に,高用量アスピリンとプラセボの脳卒中または死亡に及ぼす影響が比較された。アスピリンはオッズ比0.7と予後改善を示したが,95%信頼区間は0.5~1.0で,有意とはいえなかった。そこでBarnettらは,現在なら行われないであろうpost-hoc解析を施行,女性では予後改善が見られないものの男性では有意だと報告した。これは例数が少な過ぎたためであろうと,Warlow氏は推測する。
  一方,同氏も参加して79年に始まったUK-TIAは,この点を踏まえて2,345例の一過性脳虚血発作(TIA)または軽症脳梗塞を対象にした多施設大規模試験である。アスピリンの高用量と低用量,プラセボが比較された。しかし,血管イベント発症は高用量群と低用量群で差がなく,プラセボとの比較でも期待された改善が得られなかった。副作用は,高用量群で著明に多かったという。
80年代:メタ解析で二次予防効果が明白に
  1980年代に入ると,RCTの隘路を切り開く画期的発明がなされた。メタ解析である。その発明者の1人であるオックスフォード大学教授のPetoは,それまでのRCTでアスピリンの心筋梗塞,脳梗塞予防効果が証明されなかったのは,症例数が少ないためと考え,対象,方法,目的が同種のRCTの結果をまとめて解析する手法を考案した。Petoが主導したAntiplatelet Trialists'(APT) Collaborationでは,アスピリンを主体とする抗血小板療法が脳卒中/心筋梗塞/血管死を25%有意に減少させることを見事に立証したのである。
  APTはその後,ATT Collaborationと改称。1994年以降,膨大なトライアルの解析を続け,75~150mg/日のアスピリンは既往例での血管イベント予防に有効であることも確認した()。サブグループ解析から,女性における有効性も明らかにされた。Warlow氏は「メタ解析は,研究者が求める結果を導く恣意性や偶然の誤差を最小化する」と,有用性を強調した。


  1990年代以降,脳梗塞急性期のアスピリン使用に関する知見が蓄積された。IST,CAST,MAST-Iのメタ解析結果からは,既往例における二次予防効果ほど大きくはないが,急性期のアスピリン使用も確実に予後を改善することが確認されている。
2010年代:アスピリンと発がん抑制
  2010年代のトピックとしては,アスピリンの抗がん作用が示された。
  Rothwellらは2007年,UK-TIAとBritish Doctors Aspirinの2つの大規模RCTの長期にわたる追跡から,5年間の高用量アスピリン服用が10年目以降の大腸がん発症を有意に低下させることに気付いた。2010年には低用量アスピリンでも同様の結果が得られ,近位結腸での抑制作用が強いことが報告されたという。
  最後にWarlow氏は,これらRCT,メタ解析の結果から,アスピリンのベネフィットを要約した。脳梗塞後の二次予防に関しては,重篤な血管イベントは相対リスクが5分の1に低下し,絶対リスク低下は約1.5%/年である。急性期使用に関しては,1,000例中12例の死亡または要介護を予防する半面,出血の副作用が現れるのは1~2例で,脳梗塞のほぼ全例で使用すべきであるとした。
  「誕生して100年を経た今でも,アスピリンは可能性に満ちたワンダードラッグかもしれない」と同氏は述べ,講演を締めくくった。

クリニカル・セッション講演2
アスピリン vs 他の抗血小板薬
代表的な臨床試験の結果

Jay P. Mohr 氏 米国・コロンビア大学 臨床神経学 教授


Mohr
   Mohr氏は,脳梗塞に対する抗血栓療法と再発予防におけるアスピリンの役割を検討した主な臨床試験成績を整理し,アスピリンが今も抗血栓療法薬の中心であることを示した。
有害事象としての脳出血を回避せよ
  アスピリン単独療法は,無治療の場合と比べ脳梗塞の再発リスクを約25%低減する。抗血小板効果が強くなると,虚血性イベントの抑制が期待できるものの,出血リスクも増大する。Mohr氏は,治療に関連する有害事象としての脳出血は抗血栓薬のベネフィットを無に帰する点を強調,その回避を目指す探索が続けられているとした。
  その一端を示すものとして,脳梗塞の二次予防に関する大規模臨床試験の知見が紹介された。1万9,000人以上の動脈硬化性疾患患者を対象としたCAPRIE試験(Lancet 1996; 348: 1329)では,脳梗塞既往例の脳・心血管イベント抑制効果に,アスピリンとクロピドグレルとの間で有意差はなかった()。


  急性心筋梗塞の既往歴を有する8,802例を対象としたCARS試験(Lancet 1997; 350: 389)では,アスピリンはアスピリン+ワルファリンよりも脳卒中を抑制する傾向が確認された。またCHAMP試験(Circulation 2002; 105: 557)では,心筋梗塞既往例における脳卒中の抑制効果はアスピリン単独とアスピリン+ワルファリンで同等だが,脳の大出血は単独群で有意に低減することが示された(P<0.001)。
アスピリンの有効性は他剤と同等,出血リスクは低い
  次にMohr氏は,自らが主導したWARSS試験(N Engl J Med 2001; 345: 1444)の詳細を紹介した。30日以内に脳梗塞を発症し,Glasgow Outcome Scale3以上の2,206例を対象に,ワルファリンの再発予防効果がアスピリンに勝るか否かの検討を行った。
  その結果,平均追跡期間2.2年における再発/死亡および大出血に関する無イベント生存率に有意な差はなく,むしろアスピリン群で良好な傾向を認め(ハザード比:1.15,95%信頼区間:0.95~1.39,P=0.16),大出血の頻度も同等であったが小出血はアスピリン群で有意に少なかった(オッズ比:1.61,P<0.001)。また,サブグループ解析では潜因性脳梗塞(cryptogenic stroke),小血管/ラクナ梗塞,重篤な大動脈狭窄/閉塞の間に有意な差はなかった。この結果について,同氏は「長年ワルファリンはアスピリンよりも脳卒中の再発予防効果が高いと考えられてきたが,本試験によって両者に差はないことが検証された」と指摘した。
また,TIAまたは障害を伴わない脳卒中例を対象としたWASID試験(N Engl J Med 2005; 352: 1305)でも,ワルファリンにアスピリンを超える効果はなく,大出血が有意に多かった。「主任研究者のChimowitzはこのような患者ではアスピリンを使用すべきと結論している」という。
  一方,ESPS-2試験(J Neurol Sci 1997; 151 Suppl: S1)では,アスピリン/徐放性ジピリダモール配合薬はアスピリン単独よりも良好な再発予防効果を示し,重篤・致死的な出血のリスクは両群で同等であることが報告されている。

脳梗塞に対するジピリダモールの使用は国内未承認
アスピリン抵抗性例の半数がコンプライアンス不良
  続いて,Mohr氏はアスピリン抵抗性の問題に言及した。アスピリン抵抗性を呈する患者は非抵抗性例に比べ死亡,心筋梗塞および脳卒中のリスクが有意に高いことが示されている。しかしその一方で,Dawsonらによる最近の報告(Cardiovasc Ther 2010; Jun 11/Epub)では,アスピリン療法が無効であった患者の約半数は服薬順守率が低いことが示唆され,アスピリン抵抗性例とされる患者にはコンプライアンス不良例が多く含まれている可能性が少なくないことが指摘された。Mohr氏は,このDawsonらの知見から「アスピリン抵抗性を示す症例は,実際には極めて少ない」と推測している。
  以上のような臨床成績から,アスピリンは依然として最良の抗血栓療法薬の1つと考えられており,現在,70歳以上の健常者約1万9,000人を対象に,一次予防としてのアスピリン腸溶薬100mg/日投与による無障害生存期間の延長効果を評価する二重盲検ランダム化プラセボ対照比較試験であるASPREE(aspirin in reducing events in the elderly)試験が進められている。
  最後に同氏は,これらの知見に基づいて米国心臓協会/米国脳卒中協会が2011年に発表した『脳卒中/TIA患者における脳卒中予防ガイドライン』(Stroke 2011; 42: 227)の改訂点に触れ,「非心原性脳梗塞およびTIAに対する抗血小板療法として2008年版から続いてクラスⅠ/エビデンスレベルAとして推奨されるのは,アスピリン(50~325mg/日)単独療法のみである」として,講演を終えた。

パネルディスカッション
実地臨床におけるEBM:日常診療のための教訓

司会
峰松 一夫 氏 国立循環器病研究センター 副院長
井上 亨 氏 福岡大学 脳神経外科 教授

パネリスト
Udaya S. Tantry 氏 米国・ボルチモアサイナイ病院 サイナイ血栓症研究センター 研究室長
Charles P. Warlow 氏 英国・エジンバラ大学 神経内科学 名誉教授
Jay P. Mohr 氏 米国・コロンビア大学 臨床神経学 教授
一色 高明 氏 帝京大学 内科学 教授
伊苅 裕二 氏 東海大学 内科学系循環器内科 教授

急性期の2剤併用が単剤より優れることを示すエビデンスはない
峰松 本日は抗血栓療法をめぐる2つの問題について議論していただきます。会場の先生方への質問を用意しましたので,それに対する回答も踏まえて議論を進めたいと思います。
  最初の問題は,脳梗塞急性期における抗血栓療法です。質問は「急性期に抗血小板薬の併用は必要か」ということですが,これに対する皆さんの回答は,「そう思う」が20~30%,「そうは思わない」が約10%,「場合によっては必要」が60~70%でした。
Warlow 抗血小板薬の2剤併用療法がアスピリン単剤よりも優れていることを示すエビデンスはありません。また,併用療法は単剤よりも出血リスクを増加させます。なぜ併用療法を選ぶのか理解できません。
峰松 最近,脳の領域でも,循環器と同様に,ステントなどのインターベンションが増えてきています。循環器の立場からはいかがですか。

一色
一色 日本では急性冠症候群のほとんどの症例にステントが使われていますが,その場合,アスピリンとチエノピリジン系薬の2剤を併用します。そのエビデンスも得られています。ただステントを使わない場合,2剤投与のエビデンスはほとんどありません。脳の領域でも,ステントを使わない場合,単剤でよいのではないかという印象を持っています。
峰松次の質問は「急性期に抗血小板薬の使い分けは必要か」ということですが,これに対する回答は,「そう思う」が約60%,「そうは思わない」が約40%です。
Mohr 心房細動患者が実際に脳卒中を発症してもアスピリン以外の抗血小板薬を使うことはありません。慢性または発作性心房細動があるかどうかを調べて治療します。ただ,抗血小板薬を使っていた患者が脳卒中を発症したときには,別の抗血小板薬に切り替えます。
峰松脳梗塞急性期の抗血小板療法に関するデータは十分ではない。ところが,臨床的に大きな問題になってきているというのが現状です。今後,検討する必要があります。

冠動脈・頸動脈ステント留置後は2剤併用で
井上 もう1つ問題は,冠動脈・頸動脈ステント(CAS)留置例における抗血小板療法です。これに関する最初の質問は「CAS留置例の標準的な抗血小板療法は」ということです。これに対する回答はアスピリン+クロピドグレルが圧倒的に多いのですが,これはステント留置の1週間から10日ほど前から使用することが重要だと思います。
  また,次の質問は「CAS留置例の標準的な併用期間は」ということですが,これに対する回答は,「1カ月以内」,「1カ月~3カ月」および「3カ月~6カ月」がほぼ同数でした。

伊苅
伊苅 私は冠動脈と頸動脈のいずれのステントも行っています。冠動脈ステントは1990年に始めましたが,当時はステント血栓症を予防するため抗血栓療法としてアスピリン+ワルファリンを用いていました。その後,ステントの十分な拡張やアスピリン+チエノピリジン系薬の導入により,90年代後半にはステント血栓症は1%以下まで減少しました。これにより冠動脈ステントが標準治療として確立されたと思います。
  一方,CASは2002年に開始しましたが,現在はアスピリン+クロピドグレルを使っています。ただ,出血リスクを回避するため,クロピドグレルは1カ月で中止し,その後はアスピリン単剤を使用します。
一色 問題は出血リスクとイベント抑制効果のバランスにあると考えています。急性期のステント血栓症の頻度は1%を下回っており,その後の頻度はさらに少なくなります。一方,2剤投与の投与期間が延びると出血リスクが増加します。そこで,私たちは,冠動脈にベアメタルステントを入れる場合,2剤投与は原則的に3カ月で中止しています。
Tantry 現在,血小板機能がどのように変化するのか,それぞれの時点で血小板機能と臨床イベントがどう関係するのかは分かっていません。これが分からない限り,抗血小板療法をいつまで続ければよいと言うことはできません。GRAVITAS試験はこの点を明らかにしようとしています。インターベンション後3カ月,6カ月の血小板機能を測定し,臨床イベントとの関係を検討しています。

心房細動合併例でのステント留置後の抗凝固薬併用は慎重に
峰松 最後の質問は「冠動脈・CAS留置例で,心房細動を合併している場合,抗凝固薬も併用するべきか」ということですが,これに対する回答は「抗血小板薬1剤と抗凝固薬を併用」が約80%,「抗凝固薬も併用する(3剤併用)」が10~20%,「抗凝固薬は併用しない(抗血小板薬2剤)」はわずかでした。
伊苅 CAS留置後の1カ月間は抗血小板薬2剤が必須です。私の場合,CHADS2スコアが2点ぐらいであれば,最初の1カ月を抗血小板薬2剤で乗り切り,落ち着いた時点でアスピリン単剤にして,そこにワルファリンを併用するかどうか検討します。
一色 私は抗血小板薬2剤に抗凝固薬を併用する3剤投与を基本としていますが,出血リスクに対応することが不可欠です。脳梗塞の既往のない患者に冠動脈ステントを入れる場合,3剤投与でマイナーな出血を来すことはあっても生命を脅かすほどではないとのデータもあるため,心房細動患者には抗凝固薬をできるだけ使いたいと思いますが,脳梗塞既往例に入れる場合はかなり慎重に対応します。ワルファリンは0.5錠ぐらい少なめに使用して,INR(プロトロンビン時間国際標準比)1.5~1.8を維持するようにします。
峰松 新しい抗凝固薬として,Ⅹa阻害薬や抗トロンビン薬が間もなく登場してきます。これらの薬剤をどのように評価されますか。
Mohr ワルファリンは70年ほど使われており,出血時の対応も含めて,安全性がよく分かっています。新しい抗凝固薬はワルファリンと違ってINR検査が不要とされています。新しい抗凝固薬で出血が起きた場合にどう対応するか,長期的な安全性はどうかといった点の評価が今後重要になってくるのではないでしょうか。
峰松 アスピリンが抗血栓療法の息の長いメジャープレーヤーとして,今後も重要であることは間違いありません。この議論が実地臨床に役立つことを期待して終わります。

閉会の辞
篠原 幸人 氏 国家公務員共済組合連合会立川病院 院長

  本日の演者の方々の講演と議論を通じて2つのポイントが浮かび上がりました。1つはアスピリンの多面的作用,もう1つは脳卒中予防戦略の多様性です。
  100年も前に上市されたアスピリンが有する作用は,実に多彩で興味が尽きません。この最古にして新しい面の多々ある,またエビデンスが最も豊富な薬剤が,今後さまざまな疾患の治療・予防に活用されることが期待されます。既にアスピリンは日米欧の脳卒中予防ガイドラインで基本薬として推奨され,その地位は新たな抗血栓薬の登場にも揺らぐことなく維持されています。臨床現場ではこうした基本を踏まえつつ,個々の患者にとって最良のアウトカムを迎えるにはどのような選択がよいかを常に考えていきたいと思います。
  長時間にわたり聴講・議論していただき,ありがとうございました。

本ページはバイエル薬品株式会社の提供です