Medical Tribune 2009年10月15日号掲載
特別企画
Bayer Stroke Forum 2009: “Warning Stroke” Think TIA again
TIA診療を問い直す
日米欧の現状と課題を踏まえて


篠原 幸人 氏

松本 昌泰 氏

山田 和雄 氏
世話人
  • 篠原 幸人 氏 国家公務員共済組合連合会立川病院 院長
座長
  • 松本 昌泰 氏 広島大学大学院脳神経内科学 教授
  • 山田 和雄 氏 名古屋市立大学脳神経外科学 教授
   今夏2日間の日程で,Bayer Stroke Forum 2009(世話人:篠原幸人氏)が東京で開催された。
   初日のクリニカル・セッション(座長:松本昌泰氏・山田和雄氏)では,日米欧の専門家3氏が一過性脳虚血発作(transient ischemic attack; TIA)の診療の現状と課題について講演した。翌日のモーニング・セッション(司会:岡田靖氏・橋本洋一郎氏)は抗血小板療法を主題とし,参加者アンケートの結果に基づいて議論を展開。非心原性TIA後,頸動脈狭窄の外科的治療後に行う同療法の意義や在り方が確認された。

クリニカル・セッション「TIA患者のリスク評価と抗血小板療法」

講演1
日本の現状と課題
岡田 靖
国立病院機構九州医療センター脳血管内科 部長
岡田氏は,TIAの定義の変遷史を俯瞰したうえで,その疫学と診療の現状,研究課題を解説した。
TIA診断基準を見直す研究が日本でも2009年度から始動
  TIAの病態概念は1951年,Fisherが「脳卒中発症前の警告発作」として初めて報告した(AMA Arch Neurol Psychiatry 65: 346, 1951)。
  日本では,文部省研究班が1963~66年に脳血管障害の分類にTIAを加え,「脳血栓,脳塞栓,脳出血,脳梗塞を伴わない一過性虚血」と提唱した。厚生省研究班は1985年,TIAに伴う局所神経徴候は24時間以内(多くは1時間以内)に消失し,発作の起こり方は急速で,内頸動脈系と椎骨動脈系の病態に大別されると紹介。1990年には,CT検査で「責任病巣に一致する器質的病変は見られない」と補説した。
  一方,米国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)は1990年,脳血管障害の分類第III版にTIAを「24時間以内に消失する,虚血による一過性の脳局所症状であり,CTやMRIでの病巣の有無を問わない」と定義した。この見解はやがて世界標準となったが,MRI拡散強調画像(DWI-MRI)を撮ると病巣が見つかるTIA例が多い(30~60%前後)との報告が相次いだ。そこでAlbersらは2002年,TIAを症状持続時間ではなく組織変化に基づいて捉える考え方を提案した。
  こうした経緯を踏まえて米国心臓協会(AHA)/米国脳卒中協会(ASA)は2009年6月,TIAの新定義を発表(Stroke 40: 2276, 2009)。Albersらの前説を支持し,TIAを「急性梗塞を伴わない,脳や脊髄,網膜の局所虚血によって起こる神経学的障害の一時的発作」と提唱した。しかし日本では,現時点でTIAの定義は明確に示されていない。このため2009年度から厚生労働科学研究費補助金事業として,TIA診断基準を見直す研究が始動している。
TIA例でAF合併・脳卒中の早期再発・頸動脈狭窄が多い
  TIAの病態特性は,国内外の疫学研究で明らかになってきている。
  日本脳卒中協会の『脳卒中データバンク2009』に登録されたTIA例は虚血性脳卒中例の8.7%で,アテローム血栓性梗塞・塞栓やラクナ梗塞より少ない。しかし心房細動(AF)の合併率は他の病型と比べて高く,心原性TIAが多いと推定される。また現在進行中の福岡脳卒中データベース研究では,2009年1月までに虚血性脳卒中1,542例が登録され,うちTIAは132例(8.6%)である。岡田氏らが病型別データを概観したところ,TIA例で退院後の脳卒中再発率が最も高く,とりわけ3か月以内の再発が多いことがうかがえたという。
  国際観察研究REACH Registryのサブ解析では,TIA単独例で無症候性頸動脈狭窄や頸動脈プラークの頻度が高いことも示されている(Cerebrovasc Dis 25: 366, 2008)。TIA例の動脈硬化リスクが高いことは,頸動脈狭窄率≥50%を対象とした日本の多施設共同研究JCASでも認められている。
TIAは『急性脳血管症候群』として迅速・適正に扱うべき
  TIAの診療についてAHA/ASAは,発作後24時間以内に神経画像解析,特にDWI-MRI検査を行って診断し,同72時間以内でABCD2スコアが3以上の高リスク例に入院治療を行う重要性を強調(Stroke 40: 2276, 2009)。薬物療法に関しては,2006年の『脳梗塞/TIA患者に対する脳卒中予防ガイドライン』で「アスピリン(50~325mg/日)の単独投与または徐放性ジピリダモールとの併用,クロピドグレル単独投与」を推奨している。
  日本でも非心原性TIAはアスピリン療法,心原性TIAは抗凝固療法を軸に治療が進められている。九州医療センターなどの専門施設では,病態に応じた治療戦略も整備している()。しかし,岡田氏は「一般施設ではTIAが重大であるとの認識,リスクの層別化に必要なABCD2スコアの活用が十分でなく,適正な初期診療が行われているとは言いがたい」と指摘する。MRI検査も「普及率は高いものの,病歴聴取が不確実であったり撮像時機を逸してしまったりするケースが少なくない」という。

  同氏は「TIA後は脳卒中を発症・再発する頻度が非常に高く,決して軽視してはならない。そのリスクは,特にAFや頸動脈狭窄を伴う症例で高い。したがってABCD2スコアによるリスク層別化の普及,高血圧症や糖尿病といった基礎疾患のトータルケアの充実を図る必要がある。TIAは『急性脳血管症候群』として対処すべきである」と述べ,講演を結んだ。
*:脳梗塞/TIAへのジピリダモールの使用は本邦未承認
講演2
欧米の現状と課題:内科的治療の観点から
Larry B. Goldstein
米国・デューク大学神経学 教授

 Goldstein氏は,欧米におけるTIA後の脳卒中リスクの評価と管理,抗血小板療法の現況を概説した。
TIA後は高血圧・AFなどの主要リスク因子の管理が重要
  TIAは良性のイベントではなく,緊急医療を要する。発作後早期に脳梗塞を来すことが少なくないからである。近年TIA後の脳卒中リスク因子の研究が進み,2007年にはABCD2スコアが新たに開発された()。これはTIA患者の脳卒中早期発症リスクの高低を見極める従前のリスク評価ツールに基づくもので,TIA後初期における有用性が確認されている。

  内科的治療では,主要なリスク因子である高血圧やAF,脂質代謝異常,糖尿病,頸動脈狭窄の対策に重点が置かれる。このうち治療しうる最も重要なリスク因子は高血圧で,米国での人口寄与リスクは20~40%と推定される。Goldstein氏は,メタ解析や大規模臨床試験の結果を示しながら「収縮期/拡張期血圧を10/5mmHg程度下げると,脳卒中再発の相対リスクはプラセボと比べて最大40%程度低下(PROGRESS試験〔2001〕ではACE阻害薬+利尿薬併用で血圧は12/5mmHg下がり,脳卒中再発リスクは43%低下)する」と降圧療法の重要性を説明した。
  AF患者の脳卒中リスクは層別化しうる。AF患者の脳卒中リスクを検討した7試験の系統的レビューでは,脳卒中/TIA既往が最重要因子で,高血圧や糖尿病,加齢も高リスク因子であることが明らかになった(Neurology 69: 546, 2007)。高リスクAF患者の脳卒中予防については,Hartらが抗血栓療法16試験のメタ解析を行い,ワルファリンが有用であると報告している(Ann Intern Med 131: 492, 1999)。その有用性は,アスピリン+クロピドグレル併用と比較したACTIVE W試験でも確認された(Lancet 367: 1903, 2006)。
  なお,抗凝固療法が適さないAF患者に対する抗血小板療法は,ACTIVE A試験で検討された。その結果,アスピリンとクロピドグレルの併用で脳卒中発症がアスピリン単独と比べて有意に抑制された(p<0.001;log-rank検定)半面,大出血発生が有意に増加した(p<0.001;Cox比例ハザード解析)。両薬併用のベネフィットは,出血リスクの増大によって相殺された(N Engl J Med 360: 2066, 2009)。
  一方,脂質代謝異常の是正には脂質低下薬が活用される。Amarencoらは最近HPS(2004),SPARCL(2006)を含む4試験のメタ解析を行い,スタチン療法によって脳卒中再発の相対リスクがプラセボ群と比べて12%低下することを発表した(Lancet Neurol 8: 453, 2009)。しかし,この総合ベネフィットは出血リスクの増加を伴うものであった。さらに糖尿病を有する患者には,脳卒中リスクを抑制するために厳格な血圧管理(<130/80mmHg)とスタチン療法の並行が試みられている。
TIA後の抗血小板薬併用の是非は明らかになっていない
  TIA後の抗血小板療法については,近年ベネフィットとリスク,抗血小板薬の併用効果などをめぐる研究・議論が活発化している。
  国際共同研究Antithrombotic Trialists'Collaborationは,心筋梗塞/脳卒中/TIA既往例を対象とした16試験のメタ解析を行い,アスピリン投与群で脳卒中再発の相対リスクが対照群と比べて19%低下することを確認した(Lancet 373: 1849, 2009)。一方,アスピリン投与群では頭蓋外出血リスクが高かったが,発生数自体は少数であった。
  CAPRIE試験のサブ解析では,脳梗塞既往例(発症後1週~6か月以内)に対するアスピリンとクロピドグレルの脳卒中抑制効果が検討された。抗血小板薬同士を直接比較した唯一の事例であるが,有意差は示されなかった(Lancet 348: 1329, 1996)。
  MATCH試験は,脳梗塞/TIA既往歴(発症後3か月以内)と心血管系リスク因子を1つ以上有する例を対象とし,クロピドグレルの単独投与群とアスピリン併用群の転帰を比較した。その結果,脳梗塞を含む複合エンドポイントの発生率に有意な群間差は見られなかったが,生命を脅かす出血,大出血の各発生率が併用群で有意に高かった(各p<0.0001;Pearson's χ2検定/Lancet 364: 331, 2004)。
  一方,ESPS-2試験では脳梗塞/TIA既往(発症後3か月以内)に対し,アスピリン+徐放性ジピリダモール併用の脳梗塞再発抑制効果はアスピリン単独投与と比べて有意に優れ(p<0.006;ANOVA法),出血リスクは同等であった(J Neurol Sci 143: 1, 1996)。両薬併用の有用性はESPRIT試験(2006)でも認められたが,PRoFESS試験で示された脳卒中再発抑制効果はクロピドグレル単独投与と同等であった(N Engl J Med 359: 1238, 2008)。
  Goldstein氏は「本日提示したTIA後の診断と管理の要点が,今後の診療の参考になれば幸いである。抗血小板療法ではアスピリンやクロピドグレル,アスピリン+徐放性ジピリダモールが用いられているが,私自身はMATCH試験の成績に基づいてアスピリン+クロピドグレル併用は行っていない。TIA患者に対する最適な抗血小板療法を見定めるには,さらなる検討を要する」と総括した。
*:脳梗塞に対するジピリダモールの使用は本邦未承認
講演3
欧米の現状と課題:外科的治療の観点から
Peter M. Rothwell
英国・オックスフォード大学ラドクリフ病院 臨床神経学 教授
 Rothwell氏は,TIAや脳梗塞を伴う頸動脈狭窄に対する外科的治療の動向を説明し,その要点を明示した。
症候性頸動脈狭窄50~99%例へのCEAは2週以内が有用
  症候性頸動脈狭窄の外科的治療では現在,標準法として頸動脈内膜剥離術(CEA)が行われている。
  CEAは英国で1954年,米国では1953年から導入され,その施行件数は1980年代に大きく伸びた。しかし普及と相まってCEAの臨床的真価を問う論文が続出し,大規模臨床試験に基づくエビデンスの確立が求められるようになった。そして1981年に欧州頸動脈手術試験(ECST)が,1988年に北米症候性頸動脈内膜剥離術試験(NASCET)が開始された。
  両試験の最終結果は1998年に報告され,いずれも症候性頸動脈狭窄に対してCEAが薬物療法より優れることを示した。だが,CEA有用例はECSTで狭窄度80~99%(女性90~99%),NASCETでは同50~99%と一致しなかった。狭窄度測定やアウトカム評価の方法が,各試験で異なっていたことが一因と考えられた。
  そこでRothwell氏らは,ECSTの3,018例とNASCETの2,885例にVA 309試験の189例を加え,計6,092例(CEA群3,334例,薬物療法群2,758例)のデータをNASCET 基準で解析。症候性頸動脈狭窄が中等度(50~69%)でも重度(70~99%)でも,CEAの有用性は薬物療法を上回ることを確認した(Lancet 361: 107, 2003)。
  続いて同氏らは,脳卒中/TIA後の頸動脈画像診断,CEAを早期に行う重要性も明らかにした。英国オックスフォードシャー州の住民を対象とするOXVASC研究では,中等度以上の頸動脈狭窄例で軽症脳卒中/TIA後2週時の脳卒中発症率は21%と高かった(Neurology 65: 371, 2005)。ECSTとNASCETの統合解析では,中等度以上の症候性頸動脈狭窄例に対するCEAの有用性は,施行が遅れるほど低下することが示された()。

こうした知見を踏まえて欧州の最新ガイドラインは,中等度以上の症候性頸動脈狭窄に対するCEAについて,直近の症候出現から2週以内に施行することを推奨している。
現在CAS適応例は限定されVB狭窄の治療法は模索段階
  ECST-NASCET統合解析では,CEA施行対象の年齢別・性別検討も行われた。中等度・重度の症候性頸動脈狭窄例に対するCEAの同側脳梗塞予防効果は高齢者ほど高く,その傾向は重度狭窄例でより顕著であった(Lancet 363: 915, 2004)。また男女別に比べると高度狭窄例に対するCEA効果の性差は小さかったが,中等度狭窄の男性例でCEAは薬物療法より奏効し,女性例では薬物療法のほうがやや優れる傾向が見られた。
  Rothwell氏らは,長年の研究成果を基に症候性頸動脈狭窄例の同側脳梗塞リスクの予測ツールを開発し,現在ウェブサイトにて提供している(http://www.stroke.ox.ac.uk/)。これにより年齢や性別,狭窄度,狭窄部表面の性状,症候性イベントの種類・出現時期から,個々の患者のリスク評価と各治療法の有用性を簡便に予測できるようになった。
  一方,外科的治療ではCEA以外に頸動脈ステント留置術(CAS)が選択されることもある。しかしCASは手技そのものが高リスクであるうえ,症候出現後1~2週以内の早期施行例ほど脳卒中リスクが高いため,その適応はCEA不能例,放射線療法後の狭窄例,再狭窄例などに限定される。ちなみに北米では2000年から,頸動脈狭窄に対するCEAとCASの有効性を比較する最大規模の無作為臨床試験CRESTが進められている。
  なお,最近では血管画像技術の向上に伴い,椎骨脳底動脈(VB)領域の狭窄診断が可能である。同氏によると,中等度以上のVB狭窄発生率は頸動脈狭窄と比べて約2倍高く,90日以内の脳卒中リスクも有意に高い(p=0.0021/Brain 132: 982, 2009)。しかし外科的介入は困難であり,適切な対処法は現時点で見出されていない。同氏らは血管形成術が有用であった自験例に着目し,脳卒中/TIA後6か月以内で中等度以上のVB狭窄例に対する血管形成術±CASの効果を比較するVIST研究を開始。介入前後のMRI灌流画像を観察し,有用な介入法の特定を目指している。
  最後に同氏は「症候性頸動脈狭窄に対するCEAのベネフィットは,施行の遅れに伴って急速に低下する。脳卒中リスク予測モデルなどを活用し,高リスク例はCEA施行,低リスク例には薬物療法を早期に始めることが重要である。CASに関しては,CREST試験の成績発表まで安易に行うべきでない。さらにVB狭窄への介入法は,今後検討を重ねながら見極めていく必要がある」とまとめた。

モーニング・セッション“Discuss TIA more with global experts”
非心原性TIA後,CEA/CAS施行後の抗血小板療法の在り方を探る


岡田 靖 氏

橋本 洋一郎 氏

Larry B. Goldstein

Peter M. Rothwell
司会:
岡田 靖 氏 国立病院機構九州医療センター脳血管内科 部長
橋本 洋一郎 氏 熊本市立熊本市民病院神経内科 部長




パネリスト:
Larry B. Goldstein 氏 米国・デューク大学神経学 教授
Peter M. Rothwell 氏 英国・オックスフォード大学ラドクリフ病院臨床神経学 教授

非心原性TIAの抗血小板薬単剤療法
第一選択薬はアスピリン

岡田 本日は,昨日実施したTIA治療に関するアンケートの結果を紹介しながら,会場の先生方と意見交換したいと思います。昨日のクリニカル・セッションで提示された課題も踏まえて議論し,TIA診療に対する理解がいっそう深まれば幸いです。
  アンケートの回答は,脳卒中/TIA診療に携わっている医師121人から得ました。専門の内訳は脳神経外科47.1%,神経内科38.0%,循環器内科7.4%などとなっています。
  最初に非心原性TIAの抗血小板薬単剤療法の実態を尋ねたところ,選択薬の第1位はアスピリンで80.6%でした。また,アスピリン投与の対象(複数回答可)について「第一選択薬として常に」65.3%,「アテローム血栓性TIAに」35.5%,「ラクナ型TIAに」22.3%という結果を得ました。
  Goldstein 先生,Rothwell先生,欧米の現状はいかがでしょうか。
Goldstein たいていの場合,AHA/ASAガイドラインで推奨されているアスピリンが第一選択薬として使われています。
Rothwell 欧州のガイドラインも同様で,英国でも経済性に優れるアスピリン単独療法が主流です。
会場(神経内科医) 日本ではアスピリンを処方する際,消化性潰瘍を来さないようプロトンポンプ阻害薬(PPI)の併用を考慮することがあります。欧米でも同様の予防措置を取ることはありますか。
Goldstein 通常そうした対策は講じません。消化管出血リスクは用量依存性に高まるため,高用量を用いないことが先決です。現にアスピリンの心血管イベント抑制効果は低用量でも確認されていますから,AHA/ASAは最低有効用量を50 mg/日としています。剤形は,自主研究などで出血リスクが低いことが示されているアスピリン腸溶錠がよいでしょう。
Rothwell PPI併用は消化性潰瘍既往例に限定し,それ以外は原則として対象外と考えています。
橋本 続いて非心原性TIA例に対するクロピドグレル,シロスタゾールの使い方(複数回答可)を尋ねました。その結果,クロピドグレルはアテローム血栓性TIA例(39.7%),シロスタゾールはラクナ型TIA例(43.0%)に使われるほか,アスピリンを投与できない場合に代替薬としてクロピドグレル(40.5%),アスピリン単独で十分な効果が得られない場合に併用薬としてクロピドグレル(39.7%)またはシロスタゾール(46.3%)が用いられていることが示されました。
  欧米でも使用されているクロピドグレルについて,パネリストの先生方の意見を伺いたいと思います。
Goldstein クロピドグレルを第一選択として使うのはアスピリンアレルギー例と,臨床試験で高い有効性が認められた活動性の末梢動脈疾患例*1です。
Rothwell アレルギーや消化管障害でアスピリンを使えない場合は,私もクロピドグレルを選択します。高リスクの軽症脳卒中/TIA例には,急性期に限りアスピリンとクロピドグレルを併用することもあります。
岡田 その場合の併用法は,先生らがEXPRESS試験(2007)の際に採用されたのと同じものでしょうか。
Rothwell はい。脳卒中/TIA後,初日のみアスピリン300mg+クロピドグレル300mg,2日目からアスピリン300mg/日+クロピドグレル75mg/日,1か月以降はクロピドグレルの投与を中止しアスピリン単独療法で管理します。併用期間を限定するのは出血リスクを抑えるためです。
*1:クロピドグレルの末梢動脈疾患への使用は本邦未承認

非心原性TIAの抗血小板薬併用療法
実施対象・期間を限定し慎重に

橋本 では,非心原性TIAの抗血小板薬併用療法の実態はどうか―。
  アンケートの結果,併用療法の実施頻度は80%以上(33.9%),20%未満(29.8%),20~40%(19.0%)の順に多く,代表的な組み合わせはアスピリン+シロスタゾール(60.7%)とアスピリン+クロピドグレル(36.4%)でした。内科と外科の先生の回答結果に差は見られませんでした。
  併用理由(複数回答可)としては「TIAを繰り返す(76.9%)」,「頸動脈狭窄度が高い(67.8%)」,「生活習慣病リスクを有している(47.9%)」が挙げられました。
Goldstein アスピリン+クロピドグレル併用が多いというのはたいへん気掛かりです。これら2剤の併用は出血リスクを高めるうえ,CAS施行例を除いて梗塞イベントを抑制する効果も証明されていませんから。今のところエビデンスに基づいて行えるのは,脳梗塞再発予防を目的とするアスピリン+徐放性ジピリダモール*2併用のみです。
Rothwell 併用療法の基本はGoldstein先生が説明された通りですが,急性期における1日当たりの梗塞イベント発生リスクが慢性期と比べて100~200倍高いことから,特に高リスクの頸動脈狭窄例などには,先述した短期限定のアスピリン+クロピドグレル併用を考慮します。しかし,あくまで小規模試験の結果に基づく見解にすぎませんが―。
会場(脳神経外科医) 頸動脈狭窄症を扱う機会が多い脳外科では,Rothwell先生が紹介されたような抗血小板薬の短期併用を行うことが多いと思います。頸動脈狭窄TIAの急性期治療に際しては,抗血小板作用を速やかに発揮するアスピリンと他の抗血小板薬の併用という担保を取っておくことがよくあります。
橋本 やはり抗血小板療法の基本はアスピリン単独投与であり,より高い出血リスクを伴う2剤併用は対象・期間を限定して慎重に行う必要があるということですね。
*2:脳梗塞に対するジピリダモールの使用は本邦未承認

TIA例のリスク評価:ABCD2スコア
普及の促進は日米欧の共通課題

橋本 次にTIA例のリスク評価における,ABCDスコアまたはABCD2スコアの活用状況を見てみましょう。
  アンケート回答者のうち,いずれかのスコアを使っているのは36.8%にとどまり,専門領域別では内科49.1%,外科25.5%でした。また,重視するリスク因子(複数回答可)を挙げてもらったところ,糖尿病19.0%,血圧16.5%,臨床症状15.4%,発作持続時間14.0%,年齢10.7%という結果が示されました。
Rothwell 英国でもABCDやABCD2を活用している医師は少なく,普及していないのが現状です。
岡田 私は迅速かつ簡便な評価法としてABCD2を支持していますが,現在の評価項目にDWI-MRI所見を加え,リスク評価の感度を上げて普及を図るべきであるという声も聞きます。
Rothwell DWI-MRI追加で予測精度が向上しますから,「ABCD3」も有用でしょうね。家庭医や救急医が手早く簡単に使えるスコアと,それとは若干異なる病院専門医向けスコアがあるといいかもしれません。
橋本 NSA(National Stroke Association)はABCD2スコアの活用を推奨していますが,米国では普及が進んでいるのでしょうか。
Goldstein 専門の医療機関では活用されていますが,一般施設ではほとんど使われていないようです。ですから米国でも,入院を要するか外来で対応可能かの見極めがなされず,適正な診療が施されていないTIA患者が少なくないと推察されます。
会場(神経内科医) Rothwell先生,ABCD2スコアはTIA例のスクリーニングにとても便利ですが,リスク因子としてAFが含まれなかったのはなぜでしょうか。
Rothwell とてもいい質問です。われわれは,英米のコホート研究でAFが脳卒中リスクの増加因子であることを確認しました。しかしTIA後2日,7日,30日以内の脳卒中リスクを吟味した結果,強力な予測因子ではないと判断しました。1~2年の長期で見ると,AFも独立したリスク因子と評価されたかもしれません。

CEA/CAS施行後の抗血小板療法
低用量アスピリン継続投与が柱

岡田 最後に外科治療後の抗血小板薬単剤・併用療法に関して,CEA/CASを実施している医師が回答したアンケート結果を紹介します。
  CEA施行後の抗血小板薬単剤療法ではアスピリン使用が最も多く,同療法の継続期間については半数以上の医師が「3年超」と回答。併用療法ではアスピリン+シロスタゾール,アスピリン+クロピドグレルの組み合わせが多く,半数の医師が「3年超」継続しているとしています。いずれにしてもアスピリンを基礎薬とし,長期投与することが多いようです。
Goldstein 米国のメイヨークリニックによるCEA施行例とCEA施行+アスピリン併用例の比較研究で,CEA施行のみの場合で合併症発症率が著明に高いことが判明しました。単剤・併用療法を問わず,CEA施行後はアスピリンが必須と言えます。
会場(脳神経外科医) CEA施行後3年間はアスピリン単独療法を続け,その後中止することが多いのですが,続けたほうがよいのでしょうか。
Goldstein 頸動脈疾患例は明らかに脳・心血管イベントリスクが高いですから,アスピリンは期限を設けず低用量で使い続けるべきと考えています。
Rothwell 私の見解も同じです。
岡田 一方,CAS施行後の抗血小板薬単剤療法ではアスピリンかクロピドグレルが選択され,継続期間は「3年超」。併用療法ではアスピリン+クロピドグレルまたはシロスタゾールが大半で,継続期間は「3か月以内」が最も多いという回答結果でした。
Goldstein 米国ではCAS施行後3か月程度,ほぼ全例にアスピリン+クロピドグレル併用を続け,以後はアスピリン単独療法に変更します。
Rothwell 英国も同じですが,併用期間は3~6か月と幅があります。
岡田 もう少し議論を続けたいところですが,閉会時間になりました。昨日から2日間にわたり,皆さんとともにTIA診療の現状と課題を問い直しながら,たいへん充実した時間を過ごすことができました。
  どうもありがとうございました。
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