内視鏡時の抗血栓療法-抗血小板薬・抗凝固薬の休薬はなぜ問題か
解説:矢坂 正弘 先生 国立病院機構九州医療センター脳血管内科科長


  近年、日本では脳梗塞や心筋梗塞が急増しており、約100万人がワルファリンを、300万人以上がアスピリンを服用している。一方で、消化器内視鏡治療は様々な手技が盛んに行われており、抗血栓療法中に内視鏡手技を受ける例も目立ち、その際の休薬の必要性がしばしば問題となる。
  Blackerらの報告によると、内視鏡施行16万5千例について30日以内の脳梗塞発症率を調査したところ、全体では0.02%であり、ワルファリン継続438例では発症がなく、休薬・減量した987例では1.22%であった1)。すなわち、ワルファリンを休薬・減量すると脳梗塞リスクが明らかに上昇する。そして、6割は予後不良で、亡くなられるか、要介護状態で退院することになる。
  また、Maulazらは、アスピリンを服用していて脳梗塞/TIAを発症した群と非発症群とを比較したところ、休薬例の割合は発症群4.2%、非発症群1.3%で、休薬の脳梗塞発症へのオッズ比は3.4と報告している2)
  抗血小板薬、抗凝固薬、いずれかを休薬した場合の血栓性疾患の発症頻度は必ずしも高くはないが、一度発症すれば重篤になりうるということを念頭に置き、血栓性疾患のリスクを考慮して対処すべきであろう。
  ワルファリン内服例における血栓・塞栓症のリスクは通常高いので入院の上、ヘパリンによる代替療法を積極的に考慮すべきと考えられる。一方、抗血小板療法の対象疾患は幅広く、休薬のリスクは一様ではないため、個々の症例で血栓症発症のリスクを考慮してヘパリンによる代替療法等の可否を決定すべきであろう。ヘパリンに代替しても観血的手技を行う間は抗血栓療法中止時間が生じるため、血栓症のリスクを100%取り去ることはできない。従って、患者へ休薬のリスク、そのリスク軽減策を説明し、同意を得て対応することをお薦めする。

【参考文献】
  1. Neurology., 61: 964-968, 2003
  2. Arch Neurol., 62:1217-1220, 2005