抜歯時の抗血小板薬、抗凝固薬の休薬はなぜ問題か
解説:矢坂 正弘 先生 国立病院機構九州医療センター脳血管内科科長
高齢化社会の進展に伴い、抗血小板薬、抗凝固薬を服用する患者が増えているが、手術や抜歯などの観血的処置を行う際、出血性合併症をおそれ休薬する例が少なくない。ところが現在、抗血栓療法中断のリスクとベネフィットが問われ、休薬が本当に必要なのかどうか、疑問が持たれている。
米国のWahlの報告によると、ワルファリンを中止した493例・542回の抜歯のうち、5例(約1%)で血栓塞栓症が起こり、うち4例(80%)が死亡した1)。国立循環器病センターでの検討では、抗凝固療法例で脳梗塞を発症した23例中、抗凝固薬を意図的に中止していた例が8例(うち4例は抜歯による)あった。中止例は退院時要介護(mRS:3以上)が71%と、非中止例の21%に比べ予後が著明に悪くなっていた(表1)2)。
また、Maulazらは、アスピリン療法中に脳梗塞/TIAを発症した群と非発症群とを比較したところ、休薬例の割合は発症群4.2%、非発症群1.3%で、休薬の脳梗塞発症へのオッズ比は3.4と報告している3)。
抗血小板薬と抗凝固薬のいずれにおいても、抜歯時の休薬により血栓塞栓症が起こる頻度は1~4.2%程度と高くはない。しかしながら、現在少なくとも300万人がアスピリンを服用しており、ワルファリン服用患者はおよそ100万人であることを考えると、たとえ1%でもかなりの発症数になる。また、一度発症すると非常に重篤な場合が少なくない。
このような観点から、日本循環器学会の抗凝固・抗血小板療法ガイドラインでは、「抜歯時には抗血栓薬の継続が望ましい」と明記されている。
【参考文献】
1)Arch Intern Med., 158: 1610-16, 1998
2)Thromb Res., 118: 290-93, 2006
3)Arch Neurol., 62: 1217-20, 2005

Medical Tribune 2008年3月6日号より一部改変